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the hurting / TEARS FOR FEARS

・・・儚さと脆さを孕んだ負の輝き・・・


まず、この10インチLPをご覧いただこう。

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能天気に演奏するフロントの二人に、見覚えがないだろうか

この数年後に、「the hurting」が世に出るとは


1曲目のタイトルナンバーと、ジャケットが表わしているように
傷つける、痛めつけるという言葉を冠したTFFの1stアルバムは歌詞カードの歌詞にPainって頭文字が大文字になってるとこなんかがシンクロしている。

ジャケットが差し替えられた日本盤の邦題は「チェンジ」

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無粋な写真(そのものは「Mad World」のジャケットなのでそれはそれで良いのだが)に差し替えられてしまったのは、これが幼児虐待を想起させるからなのだろうか。逆なんだけどね短絡的な「悩める子供達」とかの邦題

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実はこっち持ってないんで、ほんとはどっちが先なんだか定かではないのが正直なところ。邦題が「チェンジ」ではないし

少なくともこのジャケットでLPは見覚えが無いんで記憶されてるだけかも


とにかくよく12インチを買った

特に「Pale Shelter」は色違いのジャケットや初回盤や再発盤入り乱れてわけがわからない

とうとう「Mad World」の2枚組7インチは入手できなかった
今でもそこそこの値が付いてるらしい(後述の2013年の30周年記念BOXに収録)


そうそう、当時の購入履歴をメモしたものが残っていた

idea 12 SUFFER THE CHILDREN 1986.4.11
idea 212 PALE SHELTER 1986.4.11
idea 312 MAD WORLD 1984.1.5
IDEA 412 CHANGE 1984.2.4
IDEA 512 PALE SHELTER 1984.4.12

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(これだけ購入時期不明)

タイトルやクレジットなどで使われている書体が、とてもこの作品のイメージに合致していた。



1曲目のタイトルナンバーから、もう真っ暗な世界である。
オープニングからして何やら壮大で危うい空気に包まれる

後に1985年、PROPAGANDAが「A Seret Wish」の1曲目「Dream Within a Dream」でこのスタイルを踏襲している。
早くも詞に“Pain”が登場

追い討ちを掛けるように「mad world」
邦題は「狂気の世界」
後にアダム・ランバートのカヴァーが話題になった

2020年にはPentatonixによるカバー



教師に今日の授業の内容を訊くくだりは少女が銃を乱射した事件をモチーフにしたTHE BOOMTOWN RATSの「I don't Like Mondays」を彷彿とさせる

そして不安や焦燥感を引きずるように「pale shelter」へと
ある種の諦観した、この救いがたい感じは「mad world」より傷が深い

さらに、やるせなさと虚無感を抱えたままで「idea as opitates」

容赦ない痛めつけは「memories fade」で止どめが刺される 
ここでも“Pain”という詞

まさに負の連鎖の如く組曲のように展開するA面は素晴らしい。


B面は打って変わってメロディアスなサウンドで始まるが、騙されちゃいけない。
それが彼らの1stシングル「suffer the children」である。
邦題は「悩める子供達」

典型的なエレクトリックポップの殻を被ったこのナンバーや、
シングルヒットした「change」はアメリカのチャートにも顔を出したりした。73位と当時としては健闘。

その後1985年8月に全米3週連続1位を獲得した曲は2ndアルバムからの、そう皮肉にも1stのコンセプトに近い「Shout」

「watch me bleed」も疾走感溢れるナンバーだが、
タイトルが示すようにストーンズの「Let it Bleed」のオマージュとも思える内容。
ここでも詞に“Pain”が登場する。そして“The hurting”も。
一体どんだけ痛めつければ気が済むのだろう。
なので、このナンバーはもう一つのタイトルナンバーと言っても過言ではなかろう。

一番実験的なナンバーが「the prisoner」
ライヴでも演奏していた
破壊衝動のループ

あっという間にラストの「start of the breakdown」がやってくる。
実はこの曲が一番好きだったりする。

イントロのマリンバに誘われ少しずつ真綿で首を絞められるような感覚
このアルバムでマリンバの果たす役割は大きい
やがてドラムスが加わり
ゆっくりと崩れ落ちてゆく砂上の楼閣

唄い出しの
「氷を引っ掻いて 電話を掛ける」

というくだりは鳥膚もん


何も解決せず、何もわからないまま終わる
そこがまたいいところだ。


B面は前半が軽めだっただけに聴き終わるとぐったりしてしばらく動けない




陰鬱な雰囲気や、やるせなさはPVにもダイレクトに表現されている。

特に好きなのは「Pale Shelter」の冷ややかな残酷さ

爬虫類的なギターの音色が映像にマッチしている

そして「JAWS」を彷彿とさせる切迫感

圧巻なのが紙飛行機が飛び交う光景

それぞれが紙一重ということが本当に良くできていて何度見ても飽きない


ライヴ映像は、30周年記念BOXにもDVDで収録された「in my mind's eye」を当時レーザーディスクで何回も見たものだ。
アルバム1枚でライヴ敢行というのも大胆だが、当時は良くあること。

今もか、、、


2013年の30周年記念BOXは是非お勧めしたい。

12インチテイク、2枚組7インチでしか聴けなかった「mad world」のworld remixやB面など。
一部はリマスター再発時にボーナストラックとして収録されているものだが、今回は、たっぷりCD1枚分のボリューム。
それと1982年を中心としたライヴセッション音源も聴きもの。
前述のライヴ映像作品「in my mind's eye」のDVDという充実した内容。

蛇足ながら、ポール・ヤングが「pale shelter」をカヴァーしている。
彼はJOY DIVISION「Love will Tear Us Apart」を1stアルバムに収録したり
スラップ・ハッピーと組んだりするくらいのニューウェーヴフリークで、
「pale shelter」は1stアルバム「No Parlez」のCD2枚組版にデモが収録されている。
アコースティックギターとコーラスが尊重されていて、これはこれでいい感じだ。



さて

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LPとデザインを合わせた日本編集の12インチシングル。(当時のクレジットは“ミニアルバム”)
「the hurting」後にリリースされた「the way you are」の12インチ収録曲に加え「pale shelter」の再録EXTENDED VERSION(IDEA 512)やカップリングの「we are broken」が収録された全5曲。
これがリリースされた頃はTFFは沈黙を続けている状態だった。まだ「Mothers Talk」さえも出ていない頃。

契約の都合で出さざるを得なかった苦肉の1枚



「TEARS ROLL DOWN GREATEST HITS '82-'92」は1992年にVHSとレーザーディスクでリリースされたPV集が2003年にDVD化されたもの。
「Pale Shelter」「Mad World」「Change」のPVが収録されている。


GRADUATE「Acting My Age」はCD化されてて、2002年の再発盤にはボーナストラックが追加され何と19曲が収録されている。


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ほんの数年前にお気楽モッズバンドでアルバムやシングルを出していた

一体、何があったのだろう?


そりゃあね、
ライナーとかバイオにはバンド名の由来から、ジョン・レノンも傾倒してたアーサー・ヤノフ(アメリカの心理学者)の存在や影響が色濃いとされている。
勿論それは事実だろう。

実際に「The Prisoner」というナンバーもある。これアーサー・ヤノフの著書「Prisoners of Pain」からだろうし


だからといってそれだけで片づけてしまうには惜しいアルバムだ。

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やるせなさや、いたたまれなさで気分が落ち込んだ時はいつでもその世界に逃げ込むことができた。

だから、シェルターというのもあながちかけ離れてはいない。


「シャウト」や2ndアルバム以降、彼らは大きく方向転換をせざるを得なかった。
ヴォーカルの役割も変わり、難解なサウンドも影を潜めるようになる。

それだけにこの1stアルバムは、儚さと脆さを孕みつつ負の輝きを放ち続ける。


件の日本盤ジャケットは僅か2年後に西ドイツプレス盤に帯とライナー付けた日本仕様が出て以降ずっと変わらないだけに差し替えられた真相は謎だ


2015年の80's便乗リリースでは「80'sに夢中!」というコピーをシンクロさせてるわけはあるまい

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