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Eureka / Jim O'Rouke

・・・あーね・・・


すっかり日本在住が定着したジム・オルーク1999年の作品。

中学卒業と同時にミニコンポを買い本格的に音楽を聴くようになってから30年あまり。いくつかの節目を経験してきた。

当時よく聴いてたニュー・ウェーヴの根幹だと知ったヴェルヴェッツ、
CDが再発されたのを機に一気に聴いたストーンズ。
そしてCD化の際に、これも一気に聴いたビートルズ。
キンクス、フーにデヴィッド・ボウィ,etc.


このアルバムは、友沢ミミヨによるジャケットを目にしても見過ごしていた類のもので、翌月のATP(All Tomorrow's Parties)の派生イベントI'll Be Your Mirror Tokyo 2012で全曲演奏するということを知り、ようやく聴くことになったのがきっかけ。
(そのイベントは残念ながら中止となり未だ実現してないし、参加予定のトニーコンラッドは鬼籍に入った、、、)


けれど2019年にあヴぁんだんど 小鳥こたお卒業記念ライブにて母上である友沢氏のサインをいただく

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タイトルは古代ギリシア語に由来する。「そうか、わかった」みたいな、「はいはいはいはい」ってねよく口をついて出てくるやつ

アルバム全体の雰囲気。これほど“浄化”という言葉がハマる音楽はない。

満開の桜の花が風で舞い散るとか、
どこまでも透き通る澄んだ海の前に広がる白い砂浜とか、
そんな光景を目の当たりにしたような感覚に包まれる1曲目。

初めて聴いた時、明らかに何かが すぅーっと身体を降りて行った感覚を得た


「women of the world」という曲の鮮やかさは、でも他に類を見ないというほどの稀有なサウンドでもない

それでもこの曲に魅かれ続けている

詞は、こんな風だ(勝手訳)


今すぐ引き受けてくれないだろうか
でないと
破滅を迎えてしまうだろうから


もう一度言う世の女性たちよ

この世界を受け継いでもらってほしい

世界の終焉を迎えてしまうに
そう長くはかからないと思うから

さしずめ
「全世界の女性に告ぐ」
といったタイトルだろうか

達観したかのようなタイトル・ナンバーのバックに流れる吹奏楽は荘厳にさえ思えてくる。

こんな作品、13年間も知らなかったなんて。
でもリリース当時だったらこれだけ沁みるかどうかはわからない。

まさにタイトルの通り、
今この時期に聴くべきだと...それまで別のとこにいたのだろう。
ようやく自分の番が回ってきたんだな。

ジム・オルークという人も微かに名前を聞いたり見たりするだけで、
全く意識外だった。

調べてみると、彼がプロデュースしたのはFAUST、Tony Conrad、THE RED KRAYOLA...

なんだ、知らなかっただけ。

知らず知らず身体に浸透していたわけだ。
ヴェルヴェッツの時のように。

まずは、この素晴らしい音が流れる空気に浮かんでいたい。

1曲目で、ほんの少し高知のAPSARASというバンドを思い出した。

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2012年4月。

近所にある「桜のトンネル」と呼ばれる道を歩く。

今はまさに桜吹雪の状態で、地面に積もった花弁を巻き上げて車が通り過ぎていく。

否応なしに桜吹雪が顔に当たりながら歩くことになる。

こんな光景を見ることができるのは年に数日しかない。

けれど苦手なのだ。

桜は散り際が見事、とは良く言うがどうしても儚さや無常を感じてしまう。

哀しくなってしまうのだ。

華やいだ季節のはずなのに、8年前にこの世を去った作家がいた。

やりきれない。


けれど今年、今更ながら発見。
桜の散った後から新緑が覗いてる。

乳歯が抜けて生え代わるように。

苦手、克服かな。


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2016年4月。

桜のトンネルは今年から見られなくなった


害虫対策とやらで伐採されてしまったのだ

せっかく苦手が克服できて

桜を楽しむ余裕ができたというのに

あっさり失くした


そうやってオシロスコープのように、気持ちの波は乱下向する

ここ数年、この季節になるとこのアルバムを聴きながら
桜をぼーっと眺めるのが常だった

今年はどこに行けばよいのだろう


「もしもーし、聞こえてる?
“そっち”は快晴なの?
こっちは雨が降りそうな匂いがね」

で、またケータイ。


僕の部屋での一日は4分の1こいつに振り回され
まるで変わりばえしちゃいない

何も変わらんまま
すぐに元の鞘


あんたはよく頭が回るよね
床にケツつけたまんまで
僕なんか腹の下が寒くて


あんたのシャツは折り目正しく
背中に汗ばみなんてないし


必要ないっしょ


ここに働き手がいて
あんたの余剰人員になってるさ

種を蒔いたって、水をやる役目の人間がいなきゃ
樹にまでにゃ育たないんでさ


もしもーし、聞こえてる?
“そっち”は快晴なの?


フォルダ名もタイトルもないデータを残しても

推敲する作者がいなきゃ
未完のまんまなんでさ


あーね


ここ、あんたの春の居場所なんだ


もしもーし、聞こえてる?


空に向かって呼びかけてみる
(勝手訳)

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2004年4月。


浴びるほど飲んでた


南木曽のミツバツツジの群生を見に行く日だってのに


酷い二日酔い


というか
飲んでそのまま迎えた朝


新聞か何かで訃報に接した


1990年「海の鳥・空の魚」を新刊で買い、レザーのブックカバーを纏わせ丁寧に読んでいた。
持っているだけで周りの風景や空気が新鮮に感じた。

それから14年後の春。

吐くまで飲み続け、嗚咽で涙と鼻水まみれになりながら駅のトイレで吐いた。吐き尽くしてもなお飲み続けた。
それが供養だと勝手に思い込んでいた。飲んだ暮れとして。

ふらふらになって特急列車に乗り、南木曽に向かう。


瞳孔を開く薬を点されたように眩しくて、まともに目を開けていられなかった。


目の前に拡がるミツバツツジ群落の妖しく濃厚なピンク色が、
一斉に眼に飛び込んできた。

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ワンカップを手に性懲りもなく
ここをしばらく居場所にしようと決めたんだ

7年後、遺作となった「春の居場所」が収録されてる「ビューティフル・ネーム」を読んだ。

フォルダ名もタイトルも付いていないパソコンデータの遺稿。
絶筆の部分が何ともやりきれない。


堀北真希主演の映画もDVDで見た。

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2006年4月。

4年経って祥月命日


初めて心療内科に行って適応障害の診断受けた。翌年の4月には鬱が悪化。さらに躁転し入院した精神病院で迎えた4月から6年経った

だからこそこの日が来るのを忘れない


鷺沢 萠(1968年6月20日 - 2004年4月11日 享年35)
R.I.P.


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2020年4月。

伐採されたとばかり思ってた桜が再びトンネルを成しているではないか



トンネルを成している。





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