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「out of the blue / 9nine」

大学2年の夏休みに入ろうとしている矢先のことだ

小学校低学年の担任から、別の小学校のプールでバイトをしてほしいと連絡が来た

あの頃といえば

女に振られたばかりで半ばヤケ気味 でバイトどころじゃねっつーの

普通ならね
でもその話は断らず、正確には断れず引き受けることに
担任には頭が上がらないんだ正直

いつも給食が一口も食べられないでいても叱ったりせず
心配してくれていたので

ライフセーバーとかの資格は持ってなかったので、バイトとしては
たぶん、「監視員」ではなく「補佐」的な名目だったはず

例年になく梅雨が明けるのが遅い年で7月の20日過ぎにようやく初日
その初日にもう一人のバイトを紹介される
女の子だということはその時初めて知った
僕が通ってる大学の近くにある女子体育大学に通ってると言う
小柄でメガネをかけた彼女の第一印象は “ちんちくりん” だ

ところが
テレビやグラビアで水着とかは見慣れてるはずなのに
あまつさえついこの前まで女の部屋に入り浸ってたのに


プールサイドで競泳用水着の彼女を正視することができない
無駄に狼狽えてる自分が滑稽で
純粋過ぎて手におえないってバカかお前

彼女はバスで通ってて僕は電車通い
途中までは一緒に帰ることもあった
プール上がりの彼女は、濡れたままの縮れ毛にメガネ
ちんちくりんに戻ってる

乾かさないのかよ、髪の毛


小学生も高学年になると一人前のことを言うもので
決して身長は高くないのに伸びやかにドルフィンキックで泳ぐ彼女を
ちんちくりんだなんて思って悪いことしたなと思いながら見ていようものなら大変だ

そうして彼女と僕は格好の冷やかしの標的になった
背伸び気味の子供たちと接している間は自分でも驚くほど素直になっている
それどころか、むきになったふりをして子供たちを煽ったり
そりゃもう、ふりじゃなくなってるよね
彼女はと言えば顔を赤らめながら子供たちに怒る真似をして応戦している

ひたむきだよね僕なんかに比べれば

でも。なんか、いよなぁ  

ドラマみたいで
つくづく

そんな風な日々が過ぎていった あっという間に


バイト最終日の別れ際、バス停へ向かう彼女が立ち止まる
何か言おうとしてる?
そう直感した

「もしよければ」
!!?突然のことで、また狼狽える
そこは「お疲れ様」とかじゃないのかよ

「握手してください」
あ、握手って、、、

その頃の僕は女に振られたばかりで軽い女性不信に陥ってて
何だかほっとしたような、でも一瞬僅かばかりの期待を抱いた自分に呆れ

しばらく固まった後
黙って右手を差し出す それが精一杯
メガネの奥の瞳も 表情すら読み取ることができずに


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抜けるような 空を見てる
こんなふうな 日々が
ずっとずっとずっと
続くといいと思った
とけるような 陽射しだった
こんなふうな 日々が
ずっとずっとずっと
つくづくいいと思った

抜けるような 空は青く
こんなふうな 時が
ずっとずっとずっと
巡るといいと思った
とけるような 光だった
こんなふうに 時が
ずっとずっとずっと
巡り巡ると思った

---out of the blue / 9nine 2014

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