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決算書の数字から透けてみえるもの

電子書籍「税金を取られる人 税金を取られない人」の中で、調査にいくかどうかは「数字から透けて見える経営者の人格」から判断している、と書いています。

「数字から透けて見える経営者の人格」って、あまりにも抽象的ですよね。

今回は、この言葉を説明するのに、1つの判例、令和元年5月30日東京地裁判決第269号-55(順号13278)をご紹介します。

この判例は、代表者の内縁の妻へ支給した給与が、仮装経理による代表者に対する役員給与であるから法人税の損金に算入することはできないとされたものです。

ざっくりと概要を説明します。

内縁の妻を従業員(のちに取締役)として毎月45万円を給与手当として損金の額に算入していた。

内縁の妻の口座への振込金額は40万円。源泉所得税等の額及び社会保険料の額を差し引いた後の金額に、若干の加算をした金額を振り込んでいた。

内縁の妻の勤務時間は具体的に定められておらず、出退勤も管理されていなかった。日中は、日常の家事、仕事場の清掃を行う傍ら、代表者から指示された買い物(不祝儀袋、印紙、プリンターのインク、印刷用紙、中元・歳暮等の贈答品)、銀行における支払手続、振込用紙の取得、郵便局での郵便物の受発送、公共機関に提出する書類の用紙の取得や書類の提出などをしていたほか、代表者が所有する自動車の保険に係る手続を代わってすることもあった。また、代表者にかかってくる電話は代表者の携帯電話に転送される仕組みとなっていたため、代表者宛ての電話を内縁の妻が受けることはなかった。

これらのことから、裁判所では、従業員としての労務の対価とは認められず、内助の功に報いる生活保障の趣旨で支給されたものと認めるのが相当あり、代表者に対して支給する給与に含まれるものというべきである、と判断しています。

また、代表者に対する役員給与であるにもかかわらず、内縁の妻に対する給与の支払であると出勤簿を作成するなどして、労務に従事していたかのように事実を装っていたことから、仮装して経理したものというほかないと、処分が適法であるとしています。

サラリーマンからみたら、そりゃダメでしょう、こんなの許せない、と思うでしょうし、ダメなの?と思う経営者の人もいるかもしれないですね。

さて、顧問税理士は、内縁の妻のことを知っていたのでしょうか?

出勤簿があり、源泉所得税等の額及び社会保険料の額を差し引き本人の口座に支払いがあれば、いちいち何をしている人かと確認することはないでしょう。

税理士は、当然、納税者の考えや行為の全部を把握しているわけではないし、経営者が何もかも相談してくれるとは限りません。
なので、税理士さんも調査で初めて知った、ということの方が多いかもしれません。

調査担当者も裁判所も内縁の妻にお金を渡したことをダメだといっているのではなく、そのお金は労働の対価ではなく、代表者が負担すべきものであり、法人税法第34条4項のその他の経済的な利益に該当する、といっているのです。

もしも内縁の妻が労働の対価として40万円が妥当だといえる事実があれば、または、40万円は高いけれど、労働をしている事実が確認できれば、調査の内容も違っていたでしょう。

では、「数字から透けて見える経営者の人格」はどこに表れていたのでしょうか?

内縁の妻は取締役に就任していたので、確定申告書の「役員給与等の内訳書」に名前と支給金額が記載されていたと思われます。

代表者の妻以外の女性に支払う高額な給与

この数字に気づくか、その数字から何を想像するかは調査担当者しだいです。

もちろん、この事例のようなことは少なく、想像とは全く異なる答えの方が多いです。
それはそれで、調査で、確認し、納得できればいいと思っています。

給与は、特に身内に支払われている給与は節税のために利用されがちです。
役員であれば、実質的にどのように経営に従事しているのか、責任を有しているのか、従業員であれば、仕事の内容に比べて金額が不相当に高くないか、裁判で明らかにされた仕事内容のようなことを確認していくことになります。

身内だから、愛人だから、という考え方から生まれる支払いが決算書の数字にのってくる、これを「数字から透けて見える経営者の人格」と表現しています。

この数字には、適正・公平な課税か?という疑義が生じます。
そして、その数字を認めることで不公平不平等感が生まれます。

言い換えればこの人格は経営者のお金の価値観ともいえるでしょう。
なぜ、その金額を支払うのか?
その支払いは事業に必要なものか?
もちろん、そこには理由があるはずです。

例え、代表者が課税を逃れるために自分の給与を少なくし、内縁の妻へ給与を払ったのではない、と主張しても、具体的にどんな仕事をしているの?なぜ出勤簿を作成しているの?なぜ、支給額と振込額が違うの?と質問を重ねれば重ねるごとに、事業に必要な支払いではなく、生活保障のための支払いであることが明らかになるでしょう。

判例を読んだ後、その後どうなったかな、と思います。
どうやったら経費として認められるか、労働の対価として何をしてもらうか、役員としてどんな仕事をしてもらうか、経営者は考えることが沢山あります。
そこでまた誤った価値観で判断しないように、価値観を変え、数字を変えていく仕事をしています。

電子書籍「税金を取られる人 税金を取られない人」の中の言葉、「数字から透けて見える経営者の人格」に興味を持たれた方は、是非書籍を読んでみてください。


https://s.lmes.jp/landing-qr/2004094330-raelVXVj?uLand=ZTGtdE



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