楽だけど楽しくない

[1]終電は治安が悪い
 大阪の終電に乗っていると、僕の思っているより人間は7倍欲深く、人を傷つける能力に長けているんだなと思う。
 電車の中で大音量で音楽をかけてみたり、「独り身」というステータスを失いたくないから相手の気持ちを考えずに別れたくないと言ってみたり、バイトのあいつが気持ち悪くて大嫌いとか言ってみたり、私の体が狙われてるとか言ってみたり、吐瀉物が落ちていたり、スタジオから家に帰るまで、イヤホンでは防ぎきれない地獄を経由しなければならなかった。
 このくらい人に迷惑をかけて生きている方が、圧倒的に楽な人生なのかもしれない。けれど僕は一生この人達とは価値観が合わない気がする。心が咎めるか、咎めないかどうかくらいの違いしかない、みな同じ人間なのに、こんなに違うのか。
 とにかく地獄を我慢して、早く最寄駅に着いてほしかった。

[2]不満の瘴気
 会社に勤めていると、僕の思っているより人間は7倍不満を抱えて、垂れ流す能力が長けているんだなと思う。
 そんなに不満なら自分で解決するか会社辞めればいいのに(自分を含む)と思う。詰まるところ、自分で解決するのが面倒だし労力がかかるから何もしないけれど、一方で不満を垂らしながら何もせず勤めていれば簡単に暮らせてしまうのだから、会社はちょろいのだ。
 他人がなんとかしてくれるはずもないのに、他人がなんとかしてくれるだろうという怠けた幻想を抱いて過ごしていれば年々給料が上がってしまうものだから、知らない間に偉くなった気になってしまう。
 他人に迷惑をかけたり、自分が何もしなければ人生は楽だ。楽だけど、楽しくない。そんな人生は、自分にとって良いものなのだろうか。
 終電や会社の瘴気に晒され溶け込んで、僕はそんなことを考えて年末の浮いた空気を肩で切って帰るのだった。

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