不健康は冬に置いてきた

[1]失って気づくもの
 失って気づくもの。ここ最近立て続けに著名なドラマーが亡くなり、全然著名でも何でもない16ビートはやおも、何故か居ても立ってもいられずそわそわしていた。
 体調は悪くないものの咳が止まらなくなり声が出なくなっていたので流石に体力も削られてしまい、なんだか人間って強くないなぁ、特にドラマー、なんて思いながら咳をしても一人、毎夜寝床でもがいていた。睡眠時間は突発的な咳で短くぶつ切りにされて、この一週間は眠たい朝を迎える日々を送っていた。
 お金は無くなってもなんとかなるけれど、健康と命は無くなったらなんとかならない。不健康だとライブは楽しくない。健康だからライブは楽しい。貧乏でも、お金持ちでも、ライブは楽しい。失ってはいけないものの順序を改めて再確認していた。

[2]郵便物
 ほっとしたこと。家に分厚い封筒が届いた。差出人は母からだった。一瞬、その分厚さから夏目漱石のこころで描かれた遺書のように、母親から何やら不穏な知らせが綴られているのだと思った。
 急いで封を切ると、実家に届いていた僕宛の郵便物が入っていた。そこに「私は相変わらず元気よ〜」的な気の抜ける母の筆跡の付箋が貼り付けられていた。
 そういえば、母から「あんた自分の健康も考えなさいよ!私は病気なんだから!」と言われ、母がこんなに病気を自慢する機会はないから自分の健康を気にするかと思い、あれこれ保険にオプションをつけた結果、分厚い郵便物が実家に届いたのだった。
 そんな健康への担保が、ちょうど声が出なくて咳が止まらない不健康な僕に届いたのだった。現実はちょっと不思議である。それを見透かしたかのような母は偉大だし、この母がいなければこんな変な子は存在しなかったのだ。少し笑って、沢山咳をした。今日はしっかり眠れますように。

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