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妖精の羽

妖精が、羽を落とすのは、どんな瞬間(とき)だか分かりますかい?旦那、
心が透明な玉髄のように透き通った純粋な子供が、自分ではどうしようもないこの世の不幸で、真珠玉のような目から、泪を流した時、心優しい妖精が自分の命と引き換えに羽を落とすんですよ。
それでね、一つだけ奇跡を起こす力を授かるんです。
この瓶の中の羽はね、ある男の子にお前さんのおっかさんが病気だよ、と嘘を言って流した泪を集めて、かぶと虫を集める時に蜜を垂らすように、三日月の夜に切り株の溜まり水の中に垂らしたんです。
そうしたら、面白いほどやって来るわ、来るわ。
絶滅した一角獣(ユニコーン)を、金に目が眩んだ処女を使って捕らえて、根絶やしにして、霊妙なる角で大儲けした連中も、同じ気持ちだったんじゃないでしょうかねぇ?
にしても、この羽はそこらの商売女より繊細なんですよ。
保存するにも、妖精の丘に生えている、タチジャコウソウと一緒にしないと、長い間保存できねえ代物なんです。
ほら、中にからからの草っぱが一緒に入ってるでしょう?

え?……あぁ、その男の子には、なんにでも効く万能薬だ、と言って甘い味がするだけの、粉薬を、てめえの小遣いで買えるだけの値段で与えましたよ。
格安だよってね。
あん?
残酷だなんて言っちゃ嫌ですよ旦那。
こっちも商売、血を冷やして冷徹な行いをしないと、オマンマノクイアゲってやつです。
こんな、薄っぺらな羽一枚で、助かる命もあるかもしれないんですから、ある意味安いもんですよ。
へ、へ。
珍品売りの男は下品に笑った。

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