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私は主の端女です、言葉通りこの身になります様に。

夜霧粒で出来た白亜城の地下、狩猟の誉れとして雄々しい角を生やしたまま、額縁に捕えられた鹿の生首。
骨灰磁器の肌を持つ、何もかもが完璧な髪と体であるのに、かしらだけがない貴婦人像が、墓標より大勢詰め込まれている、凍てつく死気の満ちた部屋があった。 
宮廷お抱えという名目で、詩吟もののジュアンは、その冒涜じみたおぞましい部屋に、ラヴェンダー色の玉髄の寝台脚と自身の生白い足とを、龍紋瑪瑙 ドラゴンアゲートの鱗礫をなびらかせた銀鎖で、繋がれていた。
今日も今日とて、喉を孔雀の羽で擽られ、貪欲豚よりでっぷり太った貴族が次なる餐という楽しみのために、嚥下され、胃腑の中で半溶解して胃液と混ざり、見るも無残に蕩けた舌上の美妓を吐き出させるように、美しい言葉たちを、毎日有難みもなく大盤振る舞いする。
ある日は、この世に生まれてくる中で、薔薇が最も幸せでしょう、と説いた。
胸中に茨の棘を宿したまま死に、苦痛を忘れられずに産まれたものが、神の慈悲というこの上ない、最上級の便宜によって、あの鳩の血よりまどろい花弁の着物を、幾重にも纏うことを許されるのです。
次に幸福なのは、真珠で御座いましょう。
この世に産まれ堕ちたというのに、母の柔らかな胸に抱かれることなく、小鳥の嚥下より短い一生を終えた、怨むことも学ばなかった内の無垢な子供の魂が、照り絹の褥よりもっと素晴らしい貝肉の蒲団で眠るのです。
桃珊瑚色の繻子の靴を履いた足を御しきれず、舞踏病にかかった踊り子は、小夜啼鳥に生まれ変わり、踏み鳴らす音と同じくらい、唄も素晴らしい事を初めて、知ります。
霜はまだ、この世にへばりつきたい獣の魂の欠片が、優しい草花の縁にそっと掴まり、最期の迎えが来るまで、駄々を捏ねている亡霊の幼子です。
朝日とともに大気に溶けだして、自然界の霊気のとぐろに巻き込まれてしまいます。
宿木と猫柳は、人が己に目覚める前の大昔には、それはそれは仲睦まじい夫婦でした。しかし、どちらが幹に可愛らしい茜色の栗鼠を棲まわせるかで大喧嘩をした末に別れて、夫の方は小さい生き物が好む果実を、妻の方は友だと感じてもらえるように、尻尾のようなふさふさとした花を付けるようになりました。もう二度と顔を見合わせたくない間柄ですのに、未だに季節になるとそれぞれ競い合い続けているのです。その頃には栗鼠など、木の洞の中でうつらうつらしているというのに。
水仙は、真夏に誘宴を催す妖精らの夏用の寝衣なのです。光に透かすと楊柳などより素晴らしく薄く、ビコルヌの角の黒い溝を巻きとった銀の糸で拵えて、縫い目のない、柔い芳香を放つ妖衣が出来上がるのです……。

《奇しき薔薇の聖母》

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