始まりのための思い出

2年前の私は弱く、単純な女の子だった。
喋ったことはないけれど、名前は知っているぐらいの程度だったしその頃わたしは付き合っている彼がいた。その彼とはうまくいっていたし、もちろん大好きだった。
クラス替えがあって春、帰る時間に突然の大雨となった。わたしは置き傘も折り畳み傘もなくって、「仕方ない、濡れて帰るか…」と決心した時、下足のロッカーで元彼とバッタリあった。クラス替えから間もなかったから親しくもなく、だけど出席番号が前後だったことから数回喋ったことがあった。なんとなく、わたしは声をかけた。
「傘忘れちゃったんだよね、濡れて帰ります(笑)」
元彼は優しかった。そんな女の子を放っておけるタイプではなかった。
「俺の折り畳み傘、使いなよ」と言いながら黒の小さな折り畳み傘を差し出してくれた。
駅から家、近いからさ。
そう言ってくれ、わたしは少しだけ驚きながら、そして申し訳ないと思いながらも折り畳み傘を受け取った。
彼はそのまま部室へ向かい、わたしは帰ろうとしていると男友達が来た。
「この傘、元彼くんが貸してくれたんだよ、家近いからってさ、やさしいね」
「は?あいつ家すげぇ遠いよ」
元彼はわたしに傘を受け取らせるべく、うそをついていたらしい。なんていい人なんだ…、と結局その男友達に頼んで傘を返してきてもらった。

そんなこんながあってどんどんと元彼の存在が大きくなっていき、このままではその頃付き合っていた人に申し訳ない、ということで私から別れを告げた。

その日は確か雨が降っていて、低気圧だったということも関係してか、ひどく目眩がして私は図書室で蹲ってしまうほどだった。元彼はそんな私を見て「心配だからバス停まで送るよ」と、私を駅から反対方向にあるバス停まで送り届けてくれた。その時はすでに元彼のことが好きだったし、とっても嬉しくて幸せで、日記にまでこのことを書いた記憶がある。

化学の実験でレポートを提出しなければならなくなった。私は理系なのだけれど理系科目がうんと苦手で、レポートなんてなにから書き出せばいいのかもわからなくって、困っている時に元彼の顔が浮かんだ。出席番号順に振り分けられた実験を行う班も一緒だったから、私は元彼に電話をして、レポートを一緒に書くことにした。なんとか書き終わり、なんとなくいつ電話を切るべきかタイミングを図っていたのだけれど、お互いなにも言いださず結局電話を繋いだまま眠ってしまった。朝、彼と「おはよう」と言い合ったことは本当に幸せだった。学校で会うのが少しだけ照れくさかった。

「すき。」
そう初めて伝えたのは12月14日。
あれからもよく電話をしていた私たちはだいたい週に一回は電話をするようになっていた。その日はきっと、いつもよりも心細い夜でいつもよりも彼のことが好きだったんだと思う。
「あのね、ずっとずっと好きだったの。」そういうと彼は「ごめん、いろはに先に言わせちゃったね、俺と付き合ってください。」と、彼の方から告白してくれた。返事はもちろんオーケーでその日から私たちは恋人同士になった。

毎日が幸せだった、彼がいるだけで本当に楽しかったし、たまに彼のバスケの試合も観に行ったりもした。月1計画、と名付けた月に一回は絶対にデートをするという計画も順調に進んでいた。

だけど5ヶ月を過ぎた頃からどんどんと彼の態度が冷たくなっていって、その頃から月1計画もなかったことのようになってしまった、わたしはそれでも今の現状を認めたくなくって、きっとまた仲の良かった頃に戻れる、今は倦怠期なんだ、と何度も自分に言い聞かせた。

だけどLINEを送っても既読無視、会いたいと言ってもなにかと理由をつけて断られ続けさすがに私も心が折れてしまった。

「もし別れたいって言ったら、嫌だと言ってくれるかしら」
自分でも馬鹿な考えだったとは思う。だけどそれぐらいにも私は自分に自信が持てなかった。

「ちゃんと会ってあなたとお話がしたい、近頃会えませんか?」とLINEを送った返事はなかった。
もうだめだった、どれだけ無視したら気がすむの、好きじゃないのなら早く振って欲しかった、どうして私ばかりこんな惨めなおもいをしなきゃいけないの。
今まであった怒りが爆発して遂に私は別れを告げた。
彼の返事は素っ気ないものだった。
「わかった、さよなら」
なにがここまで彼を変えてしまったのだろう、私にはさっぱりわからなかった。
この程度の人だったんだ、ありえない、どこが好きだったのかすらわからない。

言いたいこと、なにも言ってくれなかった、LINEをするのも電話をするのも私からだった、好きというのも会いたいと言うのも、全部、全部。追いかけるだけの恋だった。
当然、私は恋に心底嫌気がさしていたし、もう二度と人を好きになりたくない、とも思った。

ずっと、苦しかった。
大好きだったのにな〜って、私のなにがだめだったのかな〜って何度も何度も考えた、彼のこと、別れてからもずっとずっと引きずった。本当に苦しかった。

そんな時に出会う人、というのはきっと何かの巡り合わせなんだと思う。
神様が、もう苦しまなくていいよって私と出会わせてくれたんだと思う。
その人と恋仲になることは、きっとないのだろうけど、どん底にいた私を引っ張り上げてくれたのは紛れもなく今の好きな人なのだ。

きっと全部、始まりのための終わりなの、始まるための、思い出なの。

だから貴方とご縁があらんことを。

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