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あなたのそばで生きると決めたその日から

 2週間後、彼が車を手放すことになった。元々同期にもらった車だそうで(車をもらうって何?と思った)、新しく欲しがっている人がいるから譲る、とのことだった。それはそれは年代物の車で既に生産はされておらず、だけれどシートの生地や渋い紺色の車体がわたしは好きだった。

 最後にドライブをしようと思い立った祝日の午後4時、ファミリーマートでお茶とお菓子を買い込んで車は出発した。高速道路では彼が道を間違え、京都方面に進んでしまったことで大幅なロスタイムを喰らったが、それすらもケラケラと笑い合ってなんとか目的地へ車を走らせた。高速を降りたすぐの煌びやかなラブホテル街を抜け、くねった山道を登る。午後6時ごろ、摩耶山に到着した。辺りは既に真っ暗で、目の前には嘘みたいに輝いている夜景が広がっていた。寒い寒い夜の摩耶山、暖を取ろうとコーンポタージュと缶のおでんを自販機で買ってベンチに腰掛けた。2人して震えながら飲み物を口にした。彼が買ったおでんはダシが効いていておいしかったし、思っていた以上にボリューミーで驚いた。2つ入っていたうずらの卵がかわいかった。彼がおでんの出汁を飲み干そうと、真上を向いた時だった。「あ、星が綺麗」。夜景が綺麗でつい星の綺麗さに気づけなかった私はその彼の一言で2人、上を向いて星を見た。飲み干そうとしなかったら、気付けなかった。なんだかそれがおかしくて、笑った。彼のおおらかさとか、マイペースさがあまりにも大好きで、この人と一緒に居たいと改めて思った。

 ひどい理由だと思われるかもしれないけれど、わたしには十分だ。彼と一緒にまた上を向いて、どんなことも一緒に乗り越えていきたいと思った。早くこの時のことを思い出話としてふたりで思い出したいと思った。

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