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#1 お客さまが豹変した!

<相談です!>

 以前は毎月来ていた男性客のマコトさん(仮名)が、随分と久しぶりに来て、以前と同じカラーを注文しました。自然の原料しか使わないので安心、といつも嬉しそうに言ってくれていました。
 けれども、この日のマコトさんは少し様子が違いました。
 いつもなら、最近起こった出来事や美味しかった食べ物のことを楽しそうに話してくれるのに、この日は無口でした。「最近、何か美味しいもの食べました?」と聞いても、「ああ、普通だな」という感じです。
 変わったことと言えば、途中何度か、「熱い」「痛い」とか、「薬のせいで頭皮、やられてないか?」とか、言っていたことです。
 そのたびに確認して、「特に変わった様子ないですよ、薬品もついてないですけど」「どうしましょう、今日はここでやめておきましょうか」と話しながら作業を続けました。
 お帰りのときも、私の方から「もしご心配なら、お医者さんに行ってみてください、よろしくお願いします。」と声をかけました。マコトさんは「いや、そんなことまでしなくても大丈夫だから」と言ってくれました。
 ところが、翌日マコトさんから電話があり、何かとても興奮した様子でした。こんにちは、と電話を換わって声をおかけしたら、「あれから調子悪くて病院行ったら、やっぱり薬のせいだって言われた。どうしてくれるんだ?俺は何度も調子が悪いと言っただろう、それを無理やり続けやがって。」と言ってきました。
 マコトさんの豹変にびっくりした私は、「すみません」「確認不足でした」「すみません」と謝るのが精いっぱいでした。いつも楽しいマコトさんに怒鳴られっぱなしで、謝りながら涙が止まりませんでした。
 途中で店長が、みかねて電話を換わってくれました。
 電話が終わって、店長は「マコトさん、いつもと様子がおかしいね。」「あなたが何度も罪を認めた、責任を認めたんだからすぐに賠償しろ、と言ってたよ。」
 私は、責任を認めたことになるんでしょうか。どれだけのお金をどうやって払えば許してもらえて、元通りの楽しいマコトさんに戻ってくれるのでしょうか。

<お困りですね!>

 なるほど。
 思わず「ごめんなさい」と言ってしまったのですね。
 状況を確認して、一緒に対策を考えましょう。

1.結論から言うと

 先に結論から言いましょう。

この会話だけで責任を認めたことにはなりません。
しっかりした診断書などがあれば、責任を負う場合があります。
対応を、弁護士や警察に相談しましょう。
楽しいマコトさんに戻ることは期待できません。

2.謝罪したこと

 謝罪には、法的な責任を認めるものもありますが、社会的・道義的責任を認めるだけの儀礼的なものがほとんどでしょう。
 例えば、訴訟大国のアメリカでは謝罪すると必ず責任を認めたことになってしまう、というイメージがあるかもしれません。
 しかし、カリフォルニア州で謝罪は法的な責任を認めたことにならない、とする内容の法律がわざわざ制定されたことが報道されていました。法的な責任を恐れて謝罪しないことによって、かえって人間関係が悪くなってしまうことを恐れたようです。
 日本では、アメリカ以上に法的な責任が認められる可能性は小さいはずです。相手の気持ちに寄り添うことが何よりも重視され、儀礼的に謝罪することや、場合によっては自分に非が無くても謝罪することが習慣となっているからです。
 ですから、謝罪だけで法的な責任が認められるのは、次のような場合に限られるでしょう。

私が全額お支払いしますので、領収書をください。(結果)
事故の原因は〇〇です。私のミスです。(原因)

 あなたが、「確認不足でした、すみません」と発言したことは、微妙です。原因を認めているようにも読めるからです。
 けれども、以下の事情から、謝罪だけで責任を負う可能性はとても低いでしょう。

本当に頭皮に問題が生じたのか不明
仮にそうだとしても原因が不明
実際に皮膚の様子を観察し、異常はなかった
作業手順を振り返ったが、問題はなかった
何度も大丈夫かどうか質問した
作業を中止するかどうかも質問した

3.診断書のこと

 医師の診断書と言っても、それによって常に責任が認められるわけではありません。
 というのも、医師の診断は、実際に医師が目で見たり検査したりした結果に基づく情報だけでなく、患者から聞いた内容も重要な情報とされるからです。
 例えば、マコトさんが頭皮の炎症に関する診断書を持っていたとしましょう(それすらないことも多いでしょうが)。
 この場合、マコトさんが家に帰ってから何か別の薬品を頭に振りかけて炎症を起こさせて、病院に行ったかもしれません。
 この場合、マコトさんが医師に対して自分で薬品を振りかけたということはないでしょう。あなたが作業中に薬品を頭皮にかけた、と言うに違いありません。
 そうすると、医師はマコトさんの言葉を信じるしかありません。あなたが使っている薬品による再現実験を行うこともないでしょう。
 けれども、これまで何度も使ってきて何の問題もなかった薬品です。これが炎症の原因と言われてしまうと、あなたもびっくりしてしまいます。
 このような場合には、診断書の有効性をしっかりと争うことが必要になります。
 これには、裁判の場で争うべき場合もあります。
 また、診断書の前提をマコトさんに問いただす場合もあるでしょう。
 つまり、診断書は以下のように考えます。

前提がしっかりしていれば、あなたにとって不利です
前提がいい加減であれば、戦う余地があります
診断書が存在する場合は、弁護士と相談する

4.マコトさんのこと

 マコトさんがどうして豹変し、怒鳴りっぱなしになったのでしょうか。理由が分かった方が、対策がより適切になるので、理由を考えてみましょう。
 もしかしたら、お金に困っていてあなたからお金を巻き上げようとしたのかもしれません。
 何か月もお店に来ず、突然来ても様子が違ったからです。これまで沢山お金を払ってきたから、少し取り返してやろう、と思ったのでしょうか。

 けれども、本当の理由は分かりません。
 無理して全てを知ろうとせずに、できることから丁寧に対応していきましょう。少しずつ本当のことが分かってくるかもしれませんが、最後まで分からないかもしれません。
 マコトさんとの関係について、ポイントは以下のとおりです。

マコトさんが元通りになることを期待しない
お客様は神様と思わない

 今まで問題の無かった薬品で、しかも途中何度も確認したのに、こんなに大問題になるはずがありません(可能性は否定しないが)。
 また、本当の友人であれば、ここまで怒鳴りっぱなしになりません。
 むしろ、外から攻撃してくる敵よりも、仲間と思わせて裏切る敵の方が、より悪質です。
 もしかしたら、マコトさんもあなたとの関係を壊したいと思っていなかったかもしれません。何か特別な事情があるかもしれません。
 けれども、仮にそうだとしても、マコトさんの本性が見えてしまいました。楽しいマコトさんに戻っても、またいつ牙をむくかもしれません。
 あなた自身の気持ちも整理が必要です。

5.関わり方

 気持ちの整理がつくと、マコトさんとの関わり方の方針が見えてきます。

あなたの責任が確認されない限り、請求に応じない
マコトさんからの攻撃から身を守る

 簡単に要求に応じてしまうことは問題です。
 一度本性を見せてしまったので、マコトさんは恥も外聞も無くなりました。
 つまり、歯止めが無くなりました。
 そうすると、簡単に要求に応じる相手に対し、何度も言いがかりをつけるようになりかねません。
 なので、責任が確認されない限り、請求に応じてはいけないのです。

 とは言っても、自分の身を守ることも大事です。
 どのように自分の身を守るのか、別のところで検討しています(#2 身を守らなければ!)。

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