労働判例を読む#278

【国・中労委(関西宇部)事件】東地判R2.3.23(労判1237.88)
(2021.7.29初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、会社Aの経営と対立することの多い労働組合Xが、職安法45条に基づく労働者供給事業に関し、他の労働組合については雇用労働者の供給依頼を行っているのに、Xに対しては供給依頼を行わないことが、会社の中立性に反し、不当労働行為(特に、労組法7条3号の支配介入)に該当すると主張し、雇用労働者の供給依頼を行うように求めた事案です。
 地労委・中央委がXの請求を否定したため、裁判所での判断を求めましたが、裁判所もXの請求を否定しました。

1.判断枠組み
 裁判所は、会社は複数の組合に対して中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきである、とその基本的な義務を示しました。
 けれども同時に、組合ごとに対応の仕方に相違を生じること自体はやむを得ない(原則ルール)、「中立性の枠を逸脱する」場合に限り、不当な差別となる(例外ルール)、という具体的なルールを明示して基本的な義務の内容を具体的に示しました。
 組合の自主性や多様性を尊重しつつ、不平等に扱わない、というバランスを取ることが重要であり、そのいずれか一方だけが正しい、というわけではないことから、どうしてもルールの明確化には限界があり、個別の事後調整ルールが中心になる問題です。

2.事実(あてはめ)
 ここでは、XのAに対する敵対的な行動が、雇用労働者の供給依頼を行わないことの合理性を認める最大のポイントとなっています。
 具体的には、H20.7の出荷妨害行為(Xの組合員が、Aの商品の出荷を妨害して損害を与え、組合員5名が逮捕、うち3名が威力業務妨害罪で有罪)、H22.4~H22.6の20回程度の出荷妨害行為(うち、H22.5.14の活動では13名が威力業務妨害罪で有罪)、これらに対する裁判所による差止と損害賠償の命令、H23とH24元旦の街宣活動と、これらに対する裁判所による差止と損害賠償の命令、が認定されています(さらに、Xによる、Aの同業他社に対する同様の活動も認定されています)。このような状況であれば、Xの組合員を雇用労働者として供給を受けることは、経営上の理由(コンプライアンスなど)から問題があります。
 さらに、AはXに対して、上記の一連の妨害行為で失われた信頼関係を修復し、労働者供給を再開するための話し合いを提案していますが、Xはこれに回答すらしませんでした。
 正当な組合活動の域を超えた犯罪行為・違法行為を行う組合から、その組合員となる雇用労働者の供給を受け入れがたいことは当然のことですから、裁判所の判断は異論がないところと思われます。

3.実務上のポイント
 組合活動の一環として、実力行使が常に禁止される、というわけではありません。犯罪とされた後にも抗議活動が継続していたことから、Xの側にも主張したいことがあったはずです。
 けれども、組合活動での実力行使が常に許される、というわけでもありません。組合活動の実力行使が違法かそうでないかの判断も、バランスの問題です。
 その中で、実力行使が行われた際に、その違法性を訴訟(刑事・民事)で明確にして積み上げてきたことが、ここでのAの判断(雇用労働者の供給を再開しない、という判断)の合理性を支えています。組合対応でもプロセスが重要であることが、再確認された事案と言えるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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