労働判例を読む#464
【スタッフマーケティング事件】(東京地判R3.7.6労判1275.120)
※ 司法試験考査委員(労働法)
この事案は、家電量販店の販売業務を行っていた従業員Xが、会社Yから更新拒絶されたことが無効であると争った事案で、裁判所は更新拒絶を無効と判断しました。
1.更新拒絶の判断
裁判所の判断は、労契法19条の規定に沿ったもので、①更新の期待があること、②更新拒絶の合理性が無いこと、の2つの論点を順番に検討しています。
ここで特に注目されるのは、①②いずれも、最近の労働判例に掲載される裁判例に比較すると極めて短文で、一見すると非常に簡単に結論を出しているように見える点です。
すなわち、①更新の期待については、5年を超えて更新が繰り返されたことを認定したうえで、更新の期待を否定するような具体的な事実が存在しない、として、更新の期待を認めています。
さらに、②更新拒絶の合理性については、会社が主張するXの問題あるエピソード4つについて、全て証拠不十分である、として合理性を否定し、更新拒絶を無効としています。
①について、5年を超える長期であることから、あたかもそれだけで更新の期待が発生するかのような前提から、それを否定すべき事情をYが十分主張・立証していないこと、②について、①の更新の期待によってそれによって更新拒絶の合理性が原則として存在しないような前提から、それを拒否し、合理性が存在すべき事情をYが十分主張・立証していないこと、が、裁判所のシンプルな判決の骨子と言えるでしょう。すなわち、①②いずれにしろ、Yが十分な主張・立証をできなかったことが、非常にシンプルな判決の背景にあるようです。
2.実務上のポイント
Yから見ると、Xは問題社員だったのかもしれません。
けれども、問題社員に対する会社の処分の有効性が争われ、会社が負けてしまう事案でよく見かけるように、❶従業員が問題社員であった、という主張は、それだけでは意味がなく、❷具体的にどのような問題行為があったのか、について、具体的なエピソードをリアルに証明できずに負けることが多いようです。
すなわち、多くの従業員が、「彼・彼女は問題社員だった」という証言をいくらかき集めても意味がなく、「■月■日に、こんな問題行動があり、こんな迷惑を被った」ような、しかもその様子を、まるでドラマを見ているような具体的な報告・証言の数、すなわちエピソードの数と具体性が無ければならず、本事案で裁判所が簡潔な判断しか示さなかったのは、Yから具体的なエピソードが十分示されなかったのではないか、とも思われます。
周囲の従業員が、問題社員の問題行動を我慢している、我慢している従業員がこれだけいる、ということではなく、具体的な問題行動をそれぞれに記録させておくことが、会社側の対応として重要です。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!
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