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労働判例を読む#346

今日の労働判例
【PwCあらた有限責任監査法人事件】(東京高地判R3.7.14労判1250.58)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、ストーカー行為を行い、業務成績も好ましくない従業員Xを、監査法人Yが解雇した事案で、1審は解雇を無効としましたが、2審は有効としました。

1.判断の分かれ目
 1審と2審とでは、ストーカー行為の違法性に対する評価が異なる点も、ポイントとなります。特に、Xが被害女性の被った精神的苦痛を十分に理解・反省していない点が、被害女性に対するストーカー行為の可能性ありとのYの判断の合理性として指摘されています。職場の7割が女性、というバックオフィスにあって、女性が安心して働ける環境を確保することの重要性を、2審判決は重く見た、と評価できるでしょう。
 さらに重要なポイントは、Xに求められた能力と行動です。
 これは、Yの業務の特質からくるものですが、Xには、社内に自らアピールして仕事を獲得しなければならないとされていたのに、それができておらず、それがXの低い評価につながっていました。Xは、Yに復職した当初の人事考課と比較して低すぎるなどと主張しましたが、裁判所は、復職当初は復職後間もないという特殊事情を配慮した寛大なものだから、比較にならない、としました。むしろ、Yの人事評価制度などを否定する姿勢を示しており、「信頼関係を破壊するもの」と評価しています。会社に求められる能力や業務を理解できなければ、期待に沿った仕事、すなわち債務の本旨にしたがった履行など期待できるはずがありませんから、2審判決の評価は、労働契約の本質に合致した合理的なものでしょう。

2.実務上のポイント
 ストーカーについては、他の従業員の安全に対する配慮義務の問題であり、他の従業員に対する危害を加える可能性があれば会社としてそれを防止すべき義務が生じてしまいます。
 また、職務怠慢については、労働契約上の債務の履行に関する問題であり、労務提供の能力や意思が無ければ将来も債務不履行することが容易に予測できますから、債務不履行と、それに基づく信頼関係の認定も容易になります。
 このように、本事案では、Xとの関係を将来に向けて継続することの困難さが特に重視された点が、注目されます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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