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労働判例を読む#606

今日の労働判例
【小田急電鉄(懲戒解雇)事件】(東京地判R 5.12.19労判1311.46)

 この事案は、覚醒剤の所持・使用で有罪とされた従業員Xを、会社Yが懲戒解雇し、退職金を支給しなかったところ、Xが退職金の支払いを求めた事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.退職金不支給の範囲
 近時、不正行為などによって懲戒解雇された従業員への退職金不支給の有効性が争われ、懲戒解雇を有効とし、退職金不支給も有効としつつ、不支給の範囲について、全額不支給は違法とし、一部支給を命じた裁判例が多く見受けられます。それは、不正行為などによって会社への長年の貢献を無にするほど悪質でなければ、全額不支給は退職金の趣旨(特に、給与の後払的な性格)に反してしまう、というのが主な理由です。
 その中で、本判決は、Xが27年間も勤務していたにもかかわらず、退職金の全額不支給を有効としました。
 それは、Xが車両検査主任の立場にあったこと、覚醒剤を毎週末使用していたこと、その期間が5年に及ぶこと、Yのような運送業者の従業員の覚醒剤使用が報道され、社会的反響を招いた事案が実際にあった(Yの事案が報道されなかったのは「偶然の結果」にすぎない)こと、等の事情によります。
 鉄道事業が、多くの乗客の生命や安全にかかわる事業であり、その運行に関わる従業員の適性について社会的に非常に神経質であることを考慮すれば、結果的にこの事件が報道されなかったとしても、Yの経営に大きな影響を与えたと評価されても止むを得なかったのでしょう。

2.実務上のポイント
 会社経営に、現実的な悪影響がなかった(監督官庁に報告しなければならなかったとはいえ)にもかかわらず、処分が有効とされた点も、注目されます。というのも、従業員に対する厳しい処分が有効とされるために、会社経営への現実の悪影響が必要とされる裁判例が多く見受けられるからです。
 この点でも、Xの不正行為の悪質性が極めて高いことが、判断に影響を与えていると言えるでしょう。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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