労働判例を読む#228

【国・中労委(国際基督教大学)事件】東京高裁R2.6.10判決(労判1227.72)
(2021.2.11初掲載)

 この事案は、大学Kに派遣されていた警備員Aに対し、Kの女性職員を食事に誘うなどの批判があったことから派遣会社がYを解雇した事案で、Aの所属する組合Xが、Kに対して団体交渉を求めたにも関わらずこれに応じなかったことが不当労働行為に該当すると争った事案です。Xは、Kが団体交渉の相手方たる使用者に該当する、などと主張しましたが、都労委、中労委Y、1審、2審いずれも、Kは団体交渉の相手方たる使用者に該当しないと判断しました。

1.使用者性

 2審は、判断枠組みに関し、①1審と同様、「使用者」性は、この事案で団交事項とされている点、すなわち雇用終了についての責任に関し、権限を有しているかどうか、を問題にし、さらに、②その権限については、「雇用主と同視できる者」である必要があるとしました。

 このうち①は、「採用、配置等も含む一連の雇用管理に関する決定に関(する)」権限と広くとらえるのではなく、この事案で問題となっている論点、すなわち、解雇に伴う謝罪などの責任に関する権限、と限定的に設定しています。

 さらに②は、解雇の決定に「支配力ないし影響力を及ぼすことができる立場」まで広い概念ではなく、「雇用主と同視できる者」と、これも限定的に設定しています。

 そのうえで、Aを解雇する、という判断は、Kではなく派遣会社が独自に決定したことを認定し、Kの使用者性を否定しました。

2.実務上のポイント

 労組法上の「使用者」性は、労基法上の「使用者」性よりも緩やかである、と言われてきました。実際、上記①のように、問題となっている事項についてだけ雇用主同様の権限があればよく、上記②のように、「雇用主と同視できる者」まで含まれますから、労基法上の「使用者」よりも広くなっています。

 けれども、②では同時に、「使用者」性が広がりすぎないように、何らかの支配力・影響力があれば良いのではなく、雇用主と同視、という概念にすることで、外延を画しています。労組法上の「使用者性」にも外延が存在することが明確に示されたのです。

 さらに注目されるのは、「使用者」性は、事案ごとに問題とされている論点に応じて判断される、という判断枠組み設定方法です。この事案では、解雇に関する使用者性が問題になったのだから、解雇に関する権限の有無だけが問題になる、という方法で判断枠組みが設定されました。

 このことは、労基法に対する労組法の「使用者」性を問題にするだけでは、労働者性の判断枠組みが導き出せないことを意味します。従前、労組法の「使用者」性は広い、ということが強調されましたが、さらに、問題とされる場面ごとに「使用者」性の判断枠組みが異なってくることが示されました。

 一見すると、「使用者」性の概念がどんどん分化していき、収拾がつかなくなるようにも見えますが、ルールの解釈はそれぞれのルールの趣旨に沿った方法で行われる、という裁判官の基本的な認識・発想から見ると一貫しています。労組法の中でさらにルールが分かれている、という視点ではなく、労組法上の「使用者」は雇用主と同様の権限を有している者、という視点から見ているにすぎません。すなわち、労組法の趣旨や目的から、労働者と交渉する意味のある者を特定していくのであれば、問題となる交渉対象についての権限の有無が問題になる、という意味で、「労組法」の趣旨・目的に沿った解釈がされているのであり、雇用主としての責任が問題になる「労基法」と違う理由も、これによってかえって明確になりました。

 今後、安全配慮義務における「使用者」性、労安法における「使用者」性など、様々な場面で「使用者」性が問題にされていくでしょうが、いずれも、ルールの趣旨・目的に遡ってその判断枠組みを設定していく、という方法が採用されると思われます。

 このようにして見ると、「使用者」性に関し、複雑になってしまった、という評価よりも、一貫した考え方がはっきりと見えてきた、という評価が与えられるべき裁判例と言えるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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