労働判例を読む#255

【ハンプテイ商会ほか1社事件】東京地裁R2.6.11判決(労判1233.26)
(2021.5.20初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、SEであるXが業務委託としてシステム開発会社Y2と契約し、その紹介で他のシステム会社であるハンプテイ商会Y1と契約して、H29.9.21からY1の業務の一部を担当していたところ、H29.12.8に契約を打ち切られた事案です。Xは、①XとY2の間の契約が雇用契約であり、②Y1とY2の間の契約が労働者派遣契約であり、③Y2は派遣法を潜脱してXを使用していたので派遣法40条の6第1項5号に該当すると主張しました。
 そのうえで、❶Y2に対しては雇用契約期間中の解雇であって無効であるとして未払賃金の支払いを請求し、❷Y1に対しては同条項号に基づいて成立した雇用契約に基づいて未払賃金の支払いを請求し、❸Y1とY2に対して損害賠償を請求しました。
 裁判所は、❶の一部と、❸のうちY2に対する部分の一部についてXの請求を認めました。

1.Y1によるXの指揮命令
 数多くの論点が議論されていますが、特に注目されるのが、Y1の業務の現場でXがY1の担当者から業務に関する指示を受けていたエピソードがいくつか認定されている点です。「指揮命令」の要素が含まれるエピソードであり、①~③全てで重要なポイントとなってきます。
 すなわち①では、Y1の担当者がY2に代わってXを指揮命令していた、という認定の根拠となっています(結果的に、Y2との雇用契約が認定されています)。
 次に②では、Y1の担当者がXを派遣先の会社として指揮命令していた、という認定の根拠となっています(結果的に、Y1とY2の間の労働者派遣契約が認定されています)。
 これに対して③では、①②と逆の方向で認定されています。これについては、派遣法40条の6第1項5号の構造の理解が必要です。すなわち、派遣法40条の6第1項5号は、派遣法の「適用を免れる目的」で実際に派遣法の潜脱をした場合に、派遣契約を飛び越して直接契約の問題となります。つまり、派遣法の「適用を免れる目的」で実際に派遣法の潜脱をした場合には、派遣先に相当する会社(ここではY1)から従業員に相当する者(ここではX)に対して直接雇用の申込みをした、と法律的にみなされてしまうのです。
 このうち、後者の派遣法の潜脱については、①②によって認められます。実態が派遣ではないか、という認定です。
 問題は「適用を免れる目的」です。
 裁判所は、単に①②があるだけでは「適用を免れる目的」は推認されない、として多少「指揮命令」の要素があったとしても、業務の発注元(Y1)が発注先(Y2とX)に対して行う契約上の債権者としての債務履行要求と明確に区別できないことを背景に、派遣法を潜脱するような目的までは認められないという評価を下しているのです。
 つまり、同じ指揮命令でも、①②を認定する場合の指揮命令よりも、③の中でも特に「適用を免れる目的」を認定する場合の指揮命令は、よりその程度が高いことが分かります。

2.実務上のポイント
 ①を少し詳細に見ると、労契法2条によって雇用契約が認められるかどうかの問題であり、いわゆる「労働者性」の問題ですが、一般的に用いられる判断枠組み(①仕事の依頼への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的・場所的拘束性、④代替性、⑤報酬の算定・支払方法、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性、⑦専属性。菅野「労働法」12版183頁~、水町「詳解労働法」34頁~)が用いられ、結果的に労働者性が肯定されました。
 そのうえで、諸事情を認定したうえで、1か月ごとに更新される雇用契約が成立していたと認定され、雇用契約期間中の解雇として厳しい解雇の有効要件(労契法17条の「やむを得ない事由」)が必要とされました。
 また②は、偽装派遣が問題にされるような場合に判断枠組みとして用いられる「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」の2条を判断枠組みとして採用し(詳細は省略します)、結果的に労働者派遣契約の成立を肯定しました。
 このように、派遣法40条の6第1項5号以外の論点は、いずれも極めてオーソドックスなもので、どのような事情が「指揮命令」等の認定にどのように影響するのかを勉強するうえで、とても参考になります。
 他方、派遣法40条の6第1項5号は、構造が複雑であり(例えば、「派遣」を偽装したら「直接雇用」になってしまう点など)、議論すべきポイントが沢山あります。本判決のそのうちの1つの論点について判断を示したことになります。
 けれども、働き方が多様化する中で労働者を保護するために「直接雇用」を求める請求は、今後も減ることはないでしょうから、この規定は今後数多く議論されることと思います。その中で「適用を免れる目的」の意味について示された判断は、今後も参考にされることと思われます。

※ English version

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!




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