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労働判例を読む#484

※ 司法試験考査委員(労働法)

今日の労働判例
【国・中労委(昭和ホールディングスほか)事件】(東京高判R4.1.27労判1281.23)

 この事案は、被告会社グループ(持ち株会社K1、実際に事業を営んでいる子会社K2・K3)が組織再編や資産の整理(1万坪の工場土地の売却など)を行ったが、土地の売却に際して事前に組合Xと協議されなかったことなどが、不当労働行為に該当すると争った事案です。
 労働委員会Yは、K1について不当労働行為に該当しない(労組法上の「使用者」でなく、交渉義務がない)と判断した一方、K2・K3による団交拒否の一部について不当労働行為に該当する、と判断しました。
 1審は、Yの判断を概ね支持しましたが、さらに、土地売却に伴う雇用問題に関する協議に応じなかったことも不当労働行為に該当する、と追加しました。
 2審は、土地売却問題についての1審の判断を否定し、Yの判断を支持しました。

1.使用者性
 団体交渉に応じるべき「使用者」かどうかの判断について、2段階で検討されています。
 すなわち、1段階目は、親会社であるだけで「使用者」に該当するかどうか、という点です。この点、2審は親会社というだけでは当然に「使用者」にならない、としました。
 2段階目は、例外的に「使用者」に該当するかどうか、という点です。この点、2審は、「子会社2社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあったかどうか、という基準の下で、K1はこのような地位にない、とし、やはり「使用者」にならない、としました。
 このように、具体的な交渉事項ごとの判断をせず、その前段階で、K1に関する請求全てを否定したのです。

2.交渉事項ごとの判断
 他方、K2・K3については、雇用条件に関する断交拒否は不当労働行為であるとしました(但し、その初回の交渉拒否についてだけ不当労働行為とし、同じ内容での団体交渉を重ねて求めたのにこれを拒否した部分については、不当労働行為ではないとしました)が、土地売却問題については、新たな交渉事項を示したものではない、という理由で、不当労働行為に該当しない、としました。土地売却に伴う雇用問題も、他の交渉事項の一部である、独立した交渉事項ではない、という趣旨でしょうか。

3.実務上のポイント
 事業再編や整理に際し、関連するグループ会社全てが、全ての事項について労使交渉に応じなければならないわけではない、けれども逆に、少なくとも実際に従業員を雇用している会社については、労使交渉に応じるべき場合がある、ということが示されました。
 グループ会社全体にかかる問題について団体交渉を求められたとき、どのような観点から、団交に応じるべき事項を判断するのか、参考になります。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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