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労働判例を読む#550

今日の労働判例
【大阪府(府立学校教員再任用)事件】(大阪高判R3.12.9労判1298.30)

 この事案は、36年間府立高校の教員だったXが、定年後の再雇用で不採用とされた事案で、(おそらく)その理由である、式典での国歌斉唱時の不起立に関し、学校側(大阪府)Yが、❶定年後再雇用の際に今後は起立するかどうかの意向確認をしたことの違憲性・違法性と、❷それに基づく不採用決定の違法性等を争った事案です。
 1審は、❶❷いずれも、Xの主張を否定しましたが、2審は、❷について、これを認めました。

1.意向確認の違憲性・違法性(❶)
 この点は、2審は1審をほぼそのまま引用しており、両者の判断は同じです。
 ここでの判断は、思想・良心の自由を侵害するものではない、としてXの主張を否定しました。
 ここでは、思想・良心の自由を直接制約しないこと、間接的な制約が許容されるか否かは、規律する旨の命令・意向確認の目的・内容や、制約の態様等を総合衡量し、必要性・合理性があるか否かという観点から判断すること、を判断枠組み(規範)としています。憲法訴訟での違憲審査基準として合理的かどうか、議論されるポイントでしょう。
 次に、これに具体的な事情を当てはめて検討していますが、特に、起立命令や意向確認の目的について、「慣例上の儀式的な所作」を求めるものである、等として合理性を認めています。
 いずれも、憲法上、長く議論されている論点に関する判断であり、その位置づけや重要性については、憲法上の議論を参考にしてください。

2.不採用決定の違法性(❷)
 この点は、1審が違法性を否定したのに対して、2審が違法性を肯定しました。
 まず判断枠組みですが、Y側に裁量権があり、その濫用があるかどうかである、とする点は共通しています。
 そこで、事実認定と評価が、1審と2審の判断を分けたことになりますが、2審は、Yの不採用決定が思想・良心の自由を侵害する、と認定したわけではありません。2審の判断の概要は、以下のように整理されるでしょう。
(1) 高齢者雇用の観点から、再雇用すべき必要性が高まっていること。
(2) 過去の懲戒処分歴が重視されるところ、Xよりも重い懲戒処分歴のある者が再雇用されていること
(3) その他
 ・ 再雇用率が極めて高い(99%以上、しかもここ数年上昇中)こと。
 ・ Xの校長による評価は4項目で「適」だったこと。
 ・ Xの年金受給(65歳)まで、間が空いてしまう(無収入期間発生)こと。
 ・ 不起立以外に問題がないこと。
 ・ 最高裁が不起立の処分に慎重であるように求めた例があること。
 ・ 年金など、不採用の結果(影響)の重大性が増大していること。
 このように、憲法問題にまで踏み込まず、再雇用拒否の合理性(裁量権濫用)の問題として位置付け、合理性を否定しています。

3.実務上のポイント
 高齢者の再雇用に関する問題は、民間企業の場合、高年法が要求する「雇用確保措置」「雇用継続措置(制度)」だけでなく、同一労働同一賃金に照らした合理性の確保なども問題になります。本事案のような定年後の再雇用の問題は、多くの場合、雇用確保措置や雇用継続措置にも関わる問題と位置付けられるでしょう。
 例えば「ヤマサン食品工業事件」(富山地判R4.7.20労判1273.5、読本23の120頁)は、更新拒絶できる範囲は、高年法により、解雇事由や退職事由に限定される、という趣旨の判断をしています。
 本判決は、再雇用拒否について、拒否事由の限定とは違う理論構成、すなわち裁量権濫用という理論構成ですが、再雇用を広く認めようとする方向性は同じと評価できるでしょう。高年者の雇用確保・雇用継続の観点から、定年後再雇用や契約更新について、どのような判断がなされるべきなのか、という問題について、参考になる理論構成や事実評価です。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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