労働判例を読む#317

今日の労働判例
【京王電鉄ほか1社事件】(東高判R1.10.24労判1244.118)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は定年後の勤務形態として2つの制度(A継匠社員制度とB再雇用社員制度)を有する会社Yらの従業員Xらが、Aによって雇用されていることの確認を求めた事案です。ここで、Bは、車両清掃業務を、週3日、各8時間行い、時給1,000円、とする制度で、解雇事由に該当することが明らかな場合を除いて締結されます。他方、Aは、車両運転業務を、正社員と同様の所定労働時間行い、月給19万5,000円、賞与あり、とする制度で、過去一定程度以上の所定の評価が条件となっています。Xらは、Aこそ、高年法の要求する定年後再雇用制度であり、A制度によって再雇用される合理的な期待を有する、という趣旨の主張を行いました。
 これに対し、1審に続いて2審も、Xらの請求を否定しました。

1.雇用継続制度
 1審と同様の判断ですから、本連載#167(労働判例読本2021年版173頁所収)も合わせてご覧ください。
 ここでは、高年法の関係で特に問題となる点、すなわちB制度が高年法の要求する定年後再雇用制度として認められた点について、検討します。
 すなわち、高年法は定年後の「雇用継続制度」等を会社に求めているところ、B制度は、特に従前車両運転業務をしていた従業員から見ると業務内容が大幅に異なるため、「雇用継続制度」に該当しないと評価される余地もありそうです。実際、定年まで事務職としてデスクワークに従事してきた者が、定年後にシュレッダーのごみ交換や清掃業務を命じられた事案(トヨタ自動車ほか事件、名高判H28.9.28労判1146.22)で、裁判所は「両者が全く別個の職種に属するほど性質の異なったものである場合」は「継続雇用の実質を欠いており」、会社の損害賠償責任を認めています。
 このトヨタ自動車ほか事件と比較すると、B制度だけを見る限り、業務内容の違いはかなり大きい点で共通しており、B制度は「雇用継続制度」として認められない、と評価されるべきようにも見えます。
 けれども、B制度が適用されてしまうのは、定年前の業務内容への評価で10%しか受けないC評価を5年中3年以上受けた場合など、限定的な場合に限られており、従前の業務に近いA制度が適用される機会は相当程度確保されています。このような制度設計を考えると、B制度だけで見るのではなく、A制度とB制度を組み合わせた全体が「雇用継続制度」に該当するかどうかを評価すべきでしょう。電車運転手が車両清掃担当に、というセンセーショナルな面だけを強調するのではなく、定年後再雇用の制度全体を客観的に評価すべきです。

2.実務上のポイント
 このように、A制度とB制度を合わせて考慮するのは、実際の運用も影響しているように思われます。すなわち、上記トヨタ自動車ほか事件では、裁判所が、当該従業員に「あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して、(当人が)定年退職せざるを得ないように仕向けたものとの疑いさえ生ずる」と認定しており、会社の恣意的な運用が疑われる事案です。
 これに対し本事案は、労組とも相談しながら作られた制度であって、B制度適用の基準も定年前の業務評価など、恣意的な評価がされにくいものとなっています。
 このように、会社の恣意性を疑われないような制度と運用にすることも、定年後再雇用に関する制度設計上のポイントです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7
https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

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