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労働判例を読む#562

今日の労働判例
【大阪府・府労委(枚方市)事件】(大阪地判R4.9.7労判1300.58)

 この事案は、労働組合に加入できない地方公務員(地公法適用職員)と、労働組合法が適用される現業公務員(労組法適用職員)の両者が加盟する、いわゆる混合組合(Y)が、枚方市Xから、組合事務所の使用に条件(使用目的を組合活動に制限する趣旨の条件)が付され、さらにこの条件違反を理由に明け渡しを求められ、これに対し、❶Xは団交に応じず(団交拒否かどうか)、❷施設の明け渡しを求める(不当な支配介入かどうか)、というやり取りが繰り返された事案です。

1.当事者適格
 地公法適用職員が大多数の場合などにまで、団交の当事者適格を認めれば、本来、地方公務員への団体交渉権を否定した法の意味がなくなるのではないか、等の批判的な意見もありますが、裁判所は、比較的広く、混合組合の当事者適格を認めています。最近の裁判例では、「大阪府・府労委(大阪市・市労組)事件」(大阪地判R3.7.29労判1255.49、2023読本365頁)団体交渉権を肯定しました。
 このように、混合組合に当事者適格を広く認める傾向が、実務上は一般的です。

2.管理運営事項
 特に注目されるのは、❶に関する「管理運営事項」です。
 ここでYは、使用目的制限条件の撤廃を求めているのではなく、その導入の理由の説明などを求めているにすぎません。もし、撤廃を求めているのであれば、個別の施策に関する問題であって、組合員全体の問題ではない、と評価されたかもしれません。
 さらに注目されるのは、「管理運営事項」です。これは、「国・人事院(名古屋刑務所)事件」(東京高判R4.6.14労判1276.39、2024読本161頁)で、1審と2審が異なる理論構成・整理をし、しかし同じ結論、すなわち「管理運営事項」に該当する要求だから、人事院に対して措置命令を請求できない、という結論を示しました。この事案は本事案と異なり、労使交渉の可否の判断基準として「管理運営事項」が問題になったのではなく、労使交渉に代わる「措置命令」請求の可否の判断基準として「管理運営事項」が問題になったのですが、労働者側の要求を認めるかどうかの判断基準として共通するだけでなく、内容的に、個別的な問題か(もしそうであれば、請求が否定される)否か、という実質的な内容が背景にある点でも共通します。
 そのうえで本事案で裁判所は、管理運営事項に該当しない、したがって義務的団交事項に該当し、団交拒否は不当労働行為に該当する、と判断しました。
 特に、労組法適用職員でない場合に、労使交渉に代わる措置として「措置命令」の申し立てが認められた、という制度上の関係を踏まえると、「管理運営事項」の意味は同じ内容になるべきでしょうから、この事案と合わせて、本事案は「管理運営事項」に関する今後の判断動向を考えるうえで、参考になります。

3.事務所明渡し
 ❷組合事務所の明け渡しの可否については、数多くの裁判例があり、可否を判断すべき判断枠組みについて、2つの法律構成が示されてきました。
 1つ目は、労働組合による建物の利用は使用貸借権に基づくものであり、その解除事由である「使用目的」が消滅したかどうかによって判断する、という法律構成です。2つ目は、明渡請求権があるとしても、その行使が権利濫用などの理由で許されない、という法律構成です。
 例えば最近の裁判例では、「国際自動車(占有妨害禁止等仮処分)事件(2件:対資産保有会社、対会社)」(東地判R3.1.8労判1241.56, 65、2022読本446頁)が、1つ目の法律構成を採用し、結論的に会社からの明渡請求を否定しました。
 本事案は、2つ目の法律構成を採用したようです。というのも、本判決は、事務所を使わせるのは便宜供与の一種であるとして、原則としてXの裁量によるとしつつ、実際に明渡を請求する場合には、相当な理由と合理的な配慮が必要である、という法律構成を示しているからです。濫用、という用語は使っていませんが、ここで示された判断枠組みは、組合側の事情、役所側の事情、合理的なプロセス、を指摘しています。この3つの要素は、労働法で「濫用」や「合理性」を検討する際の判断枠組みに共通する基本的な判断枠組みであり、このことからも、2つ目の法律構成が採用された、と評価できます。
 問題は、実際にどのような事情が、これらの判断枠組みの中でどのように評価されたのか、という点ですが、組合側の政治的な活動の範囲や影響力が小さい点、他方、数十年活動してきた組合の活動を否定するほどの大きな会社側の合理性がないこと、が特に重視されています。
 事務所明渡請求に関するトラブルに際し、他の事案と合わせて、参考になるべき裁判例です。

4.実務上のポイント
 従業員の多様化が進み、様々な場面で、会社と従業員の対話が重要となっていきます。労使間のルールや、それをめぐる実際のトラブル事案は、非常に貴重な参考情報となります。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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