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労働判例を読む#423

【日本郵便(北海道支社・本訴)事件】
(札幌高判R3.11.17労判1267.74)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 本事案は、「インストラクター」として業務指導のために北海道の各地を巡っていた従業員Xが、出張旅費などについて不正請求を行ったとして懲戒解雇された事案で、Xが会社Yに対し、懲戒解雇が無効である、等と主張していました。
 一審は、懲戒解雇を有効としましたが、二審は、Yの定める懲戒事由に該当するとしつつ、それが懲戒権の濫用に該当するとして、懲戒解雇を無効としました。

1.判断の分かれ目
 一審と二審を比較すると、重視するポイントの違いが見えてきます。認定した事実に大きな差が無いからです。
 まず一審が重視したポイントですが、Xが指導者として人の範になるべき立場にあったことが重視されています。他の従業員に悪い影響を与えかねない点が重視され、重く処分できるとされたのです。
 これに対して二審は、Xと同様のことをした、同様の立場の従業員と比較しています。同様の立場の従業員が同様のことをした場合、最大で3か月の停職処分であり、それに比較して重すぎる、という評価がされました。

2.実務上のポイント
 二審の指摘は、言われればもっとものことですが、Yも当然知っていたはずでしょう。他の、同様の立場の従業員よりも重い処分であり、労働法上違法と評価されるリスクのあることだが、それでも敢えてこのような処分をした、と思われるのです。
 その理由が何であったのか、「インストラクター」の社内での位置づけを重くしたので、それまでの同様の立場の従業員と比較できない、と考えていたのか、会社の経費精算の不正が横行していたので厳しく対応する必要があったのか、何か裁判で証明できるほどではないが、しかしリスクを取ってでも処分すべき事情があったように感じます(繰り返しますが、本当のところは見えてきません)。
 けれども、もしそうであれば、「インストラクター」への処分が今後重くなることや、経費精算の不正への処分が今後重くなることについて、従業員に十分周知し、しっかりと警告しておくべきでした。そのような事前の配慮に欠けたことは、Yの労務リスク管理として不十分であった、と評価されかねません。もし、このような人事政策上(運用上)の変化があるならば、そのことをしっかりと周知し、警告しておくべきである、という教訓としても、受け止めることができます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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