労働判例を読む#296

【公益財団法人グリーントラストうつのみや事件】(宇都宮地判R2.6.10労判1240.83)
(2021.9.16初掲載)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、公益財団法人Yに勤務する嘱託員Xが、労働契約の更新を拒絶されたことが無効と主張し、雇用契約が継続していることの確認などを求めました。裁判所は、Xの請求を全て認めました。

1.労契法19条1号と2号
 有期契約の契約更新拒絶には、①更新の期待が認められる場合、②更新拒絶することの合理性が必要となります。この①は、労契法19条1号か2号のいずれかに該当する場合です。
 1号と2号の関係や役割分担については、明確なルールが確立していません。
 このうち1号は、無期契約の解雇と「社会通念上同視できる」という文言を使っており、契約の形式や運用面だけに限定した表現になっていませんから、契約の内容も含めて考慮しても良さそうです。
 しかし、本判決や多くの裁判例では、本件のように契約更新の際に必ず契約更新されるのではないことが、毎回、適切に指摘され、確認しているという、どちらかというと契約更新の形式や運用面に着目しています。そして、比較的多くの裁判例が1号に該当しないと判断しています。有期契約を締結している、という形式や運用面だけを整えれば1号に該当しないことになるからです。
 また2号は、単に「更新するものと期待する」という表現が用いられているにすぎず、これも契約の内容面に限定したり、契約の形式や運用面を考慮しないような表現はありませんから、契約の形式や運用面を含めて考慮しても良さそうです。
 しかし本判決は、Xが本来は正規職員が担当すべき業務も幅広く担当していたことなど、契約の内容面を重視しています。そのうえで、更新の期待を肯定しています。本判決の他にも、1号には該当しないが2号には該当する、と判断する裁判例が多く見かけられます。
 このように、1号と2号の文言から明確な役割分担は見えてこないのですが、1号は形式面、2号は内容面、という役割分担ができつつあるようにも思われます。

2.実務上のポイント
 市役所から数年間出向してきて、しかも市役所との「併任」(兼務)の正規職員よりも、ずっとYで働いている有期契約者(嘱託職員)の方が頼りになるのは、仕方がないことかもしれません。実際に担当していた業務を見ても、Xが非常に頼りにされていたことが分かります。
 それでも、市役所のルールを我々も守らなければならない、という形式的で硬直的な理由だけでXの契約更新が拒絶されました。市役所や公的な機関が、ルールを守って公平性を厳格に貫く必要性も理解しますが、労働法との関係では、もう少し柔軟な対応が必要なのでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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