見出し画像

労働判例を読む#434

今日の労働判例
【JMITU愛知地方本部ほか(オハラ樹脂工業・仮処分)事件】(名古屋地決R3.7.5労判1269.80)

※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、会社Xが債権者(≒原告)となり、団体交渉中の労働組合Yが債務者(≒被告)によって設置された、X正門周辺の横断幕やのぼり旗の撤去を求めた事案です。裁判所は、Xの請求を認め、Yにこれらの撤去を命じました。

1.判断枠組み
 ここで注目されるのは、裁判所が評価した事情です。
 すなわち、裁判所は一方で、Y側の事情として、労使交渉を有利に進めるために横断幕やのぼり旗を掲示する点で、「目的の正当性」が認められる、と評価しました。
 けれども他方で、Xにとっても会社を訪問する者たちに会社の不正を疑わせてしまい、信用棄損の程度も決して軽くない、と評価される内容や態様であることから、撤去を求める会社側にも合理性があることを認めています。
 このように、両者それぞれに合理性のある中で、最終的な決め手になったのは、X(会社)側の団体交渉に対する対応が不当ではなかった、という点です。
 すなわち、Yとの交渉事項は、賃上げ、一時支給、特定の従業員の懲戒処分の取扱い、団体交渉の方法、の4つだったが、会社は度重なる交渉の中でこれらに応じられない理由を「ほぼ逐一回答」し、横断幕やのぼり旗が設置される直前の交渉でも、賃上げできない理由を説明していて、「相応の対応をしている」と評価されたのです。

2.実務上の対応
 法律構成や論点は異なりますが、判断枠組みの中で重要とされたポイントは、不当労働行為の判断と同様の判断と言えるでしょう。本事案では横断幕やのぼり旗の設置ですが、労働組合の実力行使に対する会社側の対応の際に、参考となる裁判例です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?