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労働判例を読む#347

今日の労働判例
【アートコーポレーションほか事件】(東京高判R3.3.24労判1250.76)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、始業時間前の様々な準備の時間も勤務時間である、引越作業中に顧客に与えた損害の一部を従業員Xらが負担したのは違法である、アルバイトに通勤手当が支給されないのは違法である、携帯電話の通話料の負担は違法である、組合費の控除は違法である、などと争われた事案で、1審と同様、2審もXの主張の一部を認めました。
 このうち、勤務時間、損害賠償、通勤手当、通話料、組合費(チェックオフ)については、1審の検討内容と同様なので、検討を省略します。

1.実務上のポイント
 2審が1審と特に異なる点は、付加金の支払いです。
 付加金は、従業員に対して支払うべき金銭(給与や時間外手当など)を支払わない場合に、当該金額と同額を上限として、いわば「懲罰的慰謝料」のように支払いを命じられるものです。1審判決では、付加金の支払いが命じられませんでしたが、2審判決はこの支払いを命じました。
 裁判所は、1審で時間外手当の支払いを命じられ、それを否定する法律上の主張に理由のないことが示され、しかも、控訴理由に照らしても合理性がない、と指摘しています。労基法114条は、支払うべき金銭を「支払わなかった使用者」と記載しており、具体的にどこまで違法性や悪質性を認識している必要があるのか明確でありません。
 会社の側からすると、2審でまだ争う余地があるはずなのに、付加金が支払わされることになれば、2審で争う権利が実質的に奪われてしまうのではないか、という不満がでそうです。
 けれども、この2審判決は、控訴理由に合理性が無いことも指摘しています。形式的に控訴できるかどうか、という観点でなく、控訴することで会社側の主張が認められる余地があるかどうか、という観点で判断している、と評価できます。このことから見ると、会社側の控訴する機会もある程度尊重しつつ、形式的に控訴だけして支払いを免れようとする濫用も防ごう、という配慮があるように思われます。
 付加金は、労務実務上あまり関わりのない問題ですが、訴訟の際には重要な論点となりますので、訴訟代理を依頼する弁護士と慎重に対策を検討しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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