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労働判例を読む#398

今日の労働判例
【国・中労委(アート警備)事件】(東京高判R2.1.30労判1262.37)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、会社Kが組合Xとの団体交渉について、3つの条件(交渉内容の非開示、録音撮影禁止、会社の指名する弁護士による議事運営)を守ることに固執して交渉に応じなかったことが不当労働行為であると主張し、労働委員会に救済を申し立てたところ、中労委Yがこれを肯定しました。1審2審もYの判断を支持しました。

1.判断枠組み
 1審2審に共通する点ですが、特に注目されるのは判断枠組みです。
 すなわち、団体交渉に一方的に条件を付すことの違法性について、それが全く許されないのか問題なく許されるのか、という二者択一ではなく、以下の判断枠組みで違法性を判断するとしました。具体的には、①条件を付す必要性と、②その合理性、③さらに、組合側の不利益の程度を、④総合的に判断する、というものです。そして、このうち①必要性については、労使関係を労使対等の立場で合意により形成する、という団体交渉の目的から見た場合の必要性である、とされています。
 必要性と合理性は、最近明確にされたパワハラの判断枠組みとしても採用されたものです(労働政策推進法30条の2)。個別労働法の領域だけでなく、団体労働法の領域でも判断枠組みが整備されてきた様子がうかがわれます。

2.実務上のポイント
 個別労働法の分野では、例えば解雇の合理性や人事権の濫用など、「合理性」「濫用」のように一般的な条件について、判断枠組みを示して議論を整理し、総合判断を行うことが多く見かけられます。
 そこでは、一見すると様々な判断枠組みが示されていますが、その中でも汎用的で一般的な判断枠組みとして、「天秤の図」があります。これは、バランスを考慮する天秤になぞらえたもので、一方の皿には会社側の事情、他方の皿には従業員側の事情、支点に該当する事情としてその他の事情(特にプロセス)を置き換えてみると、イメージしやすいでしょう。
 そして、この「天秤の図」を、事案に応じてアレンジすることになりますが、本事案では、会社側の事情をさらに「必要性」「合理性」の2つに分けて検討した、と言えるでしょう。
 このように見ると、本判決は近時の判断枠組みの傾向に沿った判断をしている具体例、と整理することもできるように思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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