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労働判例を読む#475

※ 司法試験考査委員(労働法)

今日の労働判例
【国・川越労基署長(サイマツ)事件】(東京地判R3.4.5労判1278.80)

 この事案は、中小企業の事業主として、労災保険の特別加入者となっているXが、仕事で使う自動車を選ぶために中古車販売業者を訪ねた帰りに交通事故に遭った事案で、労基署Yは、労災に該当しない、と判断しました。これを不満として、Xは労災の支払いを求めたところ、裁判所はXの請求を認めました。

1.特別加入
 特に注目されるのは、特別加入制度です。
 中小企業の事業主も特別加入が可能であり、被保険者となります。しかし、全ての災害について補償されるのではありません。労災は、本来、労働者を保護する制度だからです。
 そこで、どのような場合に労災が支給され、どのような場合に支給されないのか、という判断枠組み(ルール)が問題となります。
 この点、判決は、事業主「本来の業務等」は適用対象ではないが、「労働者の行う業務に準じた業務」は適用対象になる、と示しました。
 そのうえで、自動車を選ぶことや、そのための下見に行くことが、「労働者の行う業務に準じた業務」に該当するかどうかを、一般論としてではなく個別の状況に応じて具体的に検討しています。

2.労働者の行う業務に準じた業務
 この事案では、Xが自動車の購入を決定しますが、会社が所有する自動車の多くが、各従業員の専属となっており、各従業員が自分で使う自動車の選定と購入の依頼をしていました。代表者であるXについても、最終的に自分自身が購入を決定する権限があるものの、自分が使う自動車は自分が選ぶ、という点では従業員(労働者)と同じです。
 このことが、労災適用の理由とされています。
 すなわち、代表者が購入を決定していたのだから代表者の業務だ、と一般論で簡単に片づけるのではなく、実際にどのような業務を従業員が行っているのか、ここでの代表者の行動がこれと同じかどうか、をこの会社の独特な役割分担や実情に照らして判断しています。
 業務の実態まで踏み込んだ判断がされているのです。

3.実務上のポイント
 ここでは、経営者の業務か、従業員の業務か、という問題でした。
 他方、多くの労災のトラブルでは、業務に該当するかどうか、が問題になります。
 両者は全く異なる問題のようにも見えますが、結局、従業員の業務に該当するかどうか、という点では同じであり、しかもそれを形式や一般論ではなく、個別具体的な会社の事情や状況まで踏み込んで判断するという判断方法も同じです。
 会社代表者なのに労災が適用される、という珍しい場面ですが、判断の方法としては他の労災トラブルと共通する問題がありますので、参考になります。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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