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労働判例を読む#414

今日の労働判例
【トヨタ事件】(名古屋地岡崎支判R3.2.24労判1265.83)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、ユニオン・ショップ制のある会社Yの有期雇用契約者Xが、契約更新を希望する旨を会社に伝えていながら、労働組合を脱退したため、更新拒絶となった事案です。Xは、更新拒絶が無効であるとして、賃金・損害賠償の支払いを求めましたが、裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.事案の特殊性
 この事案は、少し込み入っています。
 まずYでのユニオン・ショップ制です。
 ユニオン・ショップ制ですから、所定の労働組合を脱退すると、Yからも退社することになりますが、それには例外があり、他の労働組合に加盟した場合には、退社に及ばないことになっています。つまり、ユニオン・ショップの対象となっている労働組合を脱退しても、他の労働組合に加入すれば、その従業員は退社を免れるのです。
 次に、Xの意図と言動です。これはあくまでも裁判所の認定した事実であり、Xの主張と違う部分があります。
 Xは、有期雇用契約期間の最後の5か月分の労働組合費の支払いを免れることと、失業保険金の支給を早く受けることを意図しました。そのうえで取った行動は、①Yに対して契約更新の希望を伝えつつ、②労働組合を脱退し、③別の組合に加入したことにし、④しかし③のことはYに伏せておいて、契約更新されずに、結局退社することとなりました。⑤ユニオン・ショップ制、というY側の制度が原因となった雇止めですから、離職票に、会社都合と記載される(したがって、失業保険金も早くから受け取ることができる)ことを想定していたのです。
 けれども、Xの計算違いが生じました。
 最後の⑤の部分で、自己都合と記載されてしまったのです。それは、Yとしては何度も、ユニオン・ショップ制だから、労働組合を辞めるとYも退社することになる旨を、Xに何度も伝えていた一方で、④のように別の組合に入っているかもしれないことを、Yは知らなかったからです。
 そこでXは作戦を変更し、失業保険金を多くもらうことではなく、Yから、賃料・損害賠償をもらうことを考え、更新拒絶は無効である(なぜなら、自分は別の労働組合に入っていて、ユニオン・ショップ制の例外に該当するから)、と主張したのです。
 つまり、①契約更新の希望は伝えていたのに、そして③別の組合に加入し、④その旨もYに告知したのに、更新拒絶することは、労契法19条本文に反する、と主張したのです。あるいは、④‘告知しなくても別の組合に加入したのだから、それだけで退社する理由が無くなったはずで、だから更新拒絶は無効である、と主張しました。
 これに対して裁判所は、③別の労働組合に加入したとは評価できないし、④仮に加入していたとしても、Yにそのことを告知していないのだから、雇止めは有効である、と判断しました。④‘について、告知が無くても雇止めは無効になる、とXは主張していますが、裁判所は、このような考え方は「雇用関係の安定の見地から採用し難い」と評価しています。

2.実務上のポイント
 会社の側が、労働法や契約を潜脱するための何らかの偽装を行うだけでなく、従業員の側が偽装を行った(と認定される)場合もあるのです。
 ここまで手の込んだ偽装でなく、経費精算のちょろまかしなどの問題も含め、従業員の会社に対するロイヤルティーが、一般的に見るとかつてよりも下がっているようにも見える状況です。多くの人事制度が性善説を前提にしているでしょうが、悪意のある従業員がいた場合に、どのような制度やプロセスが悪用されるのか、脆弱性を少しずつ検証してみてはいかがでしょうか。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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