スピノザ『エチカ』かんそーぶん1

 バールーフ・デ・スピノザは、17世紀オランダに生きた哲学者である。この17世紀というのは、近代科学が著しい発展を始める直前であり、圧倒的力をふるった宗教、もとい神という概念への揺らぎが生じ始めた時代でもある。


 スピノザは、そんな時代の中で、科学を持ち上げようとする社会に逆行するかのように「神」を強く肯定する。にもかかわらず、彼は無神論者として教会を追われることとなるのだ。なんとも興味深い。


 彼のライフワークとも言える『エチカ』では、ある定理の確立のために、まず定義があり公理があって証明がある。

 つまり、「神の肯定」というと、超自然的なものを認めることから始まるように思われるが、スピノザはそうしなかったのだ。むしろ、彼は神を超自然的なものではなく、内在者として認識しようとする。そのあたりはおいおい話すとしよう。

 ともかく、『エチカ』はなかなかすさまじい書物なのである。現代科学ではまだ行き着かない場所、つまり科学の先を行って神の存在を肯定しようとした『エチカ』におけるスピノザの思想には、一見の価値があるだろう。


 ということで、なんとなく読んだ感想と共に、スピノザが提唱する神の正体や愛や自由など、哲学の普遍的な課題についてまとめていこうと思う。

 最後には、スピノザにとって「倫理」がどういったものであったかについても、自分なりに結論付けたいな―とか思っている。正直解説書ですら目が滑るようなありさまだったので自信はないが、笑いながら読んでいただけると幸いだ。


 まず、『エチカ』は全部で五章に分かれている。勝手にざっくりとテーマをつけるなら、第一章は神について、第二章は自然について、第三章は感情について、第四章は各人の自由や国家について、第五章は知性の能力について、となるのではないだろうか。


 タイトルであるこの『エチカ』は、「倫理学」という意味に相当するが、当然ながら一般に言う倫理的な行いを説いていくわけではない。むしろ一般的な「倫理」を一度破壊した後、また構築しなおすことがなされているようだ。

 愛、憎しみ、悲しみ、喜び、もとい感情そのもの、理性、認識、自由…倫理を語るうえで使われるお馴染みの単語を携えて、新たな「エチカ」への歩みを我々は本書を通して見つめることが出来るのだ。