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私が東京高裁に提出した陳述書(1)ーはじまり

 私がAV事業者から訴えられた名誉棄損訴訟(控訴審)で、東京高等裁判所に私が提出した陳述書を順次公開してまいります。私が取り組んできたAV出演強要問題とは何なのか、改めて知っていただく機会にもなればと思います。利害関係者、被害者の方のプライバシー保護のために一部カットや匿名化をしています(サブタイトルや写真も加えます)。皆様の応援、本当にありがとうございます。

  陳述書


第1 私及びヒューマンライツ・ナウの活動について

私は1994年に弁護士登録をし、東京弁護士会に所属する弁護士です。2004年から2005年にかけて日本弁護士連合会の推薦を受け、米国ニューヨーク大学ロースクール客員研究員として研究に従事しました。帰国後、東京本拠とする国際人権 NGO ヒューマンライツ・ナウ の発足に関わり、 以後、弁護士業の傍ら、同団体の理事、事務局長として活動しています。

ヒューマンライツ・ナウの活動は、国内外で声を上げにくいマイノリティや弱者の人権侵害に光を当て、解決を求め、変化をもたらすことを基本とし、
1) 人権侵害の調査、2)人権状況を改善するための各国政府、企業、国連などへの働きかけや政策提言、3) 教育啓発・エンパワメントを三つの柱として活動しています。(略)

第2  本件の前提としてのAV出演強要問題への関わりについて
1  私がアダルトビデオ(以下、AVといいます)の出演強要被害の問題について初めて取り組んだのは、2013年に「ポルノ被害と性暴力を考える会」(以下、PAPS、乙10-2参照) の方より相談に乗って欲しいとのご連絡を頂いたことがきっかけでした。


 そのご相談は、若い女性(Aさんといいます)がタレントにならないかとスカウトを受け、 プロダクションとの間で芸能契約を締結し、 プロダクションの提供する住居に住んでタレントになるべく準備をしていたところ、仕事の面接で訪れた先が、 AVメーカーであり、契約を盾にAV出演を強要されそうになっている、という事案でした。 

 私はタレントとしてスカウトされた女性がAVへの出演を強要されかねないという悪質な事案があることを初めて知り衝撃を受けました。

 私が急遽受任して、プロダクションと交渉したところプロダクションはAVへの出演を強要することを諦めました。結局女性は、AVに出演せずに済んだのです。この結果を受けて、PAPS関係者がAVに出ないですんだ、画期的なことだ、と話していたのを聞き、私は驚きました。
 AVのように顔と全裸を晒して本番の性行為をさせられ、それが作品として流通していく作品への出演が強制されることなど、決して許してはなりません。
 支援団体のこの反応の背景には、契約書を盾に若い女性を意に反してAVに出演させることが広くまかり通っているという現実があるのではないのか?と懸念されました。
 私が受任することで、このような深刻な人権侵害がなくなるのであれば、これからも被害者を助けたいと強く思いました。


2 2014年、再びPAPSから、AVの出演強要被害で緊急の案件があるという連絡が入りました。
 18歳の時にタレントとしてスカウトされた女性(Bさんといいます)は、プロダクションとの間でタレント活動の「業務委託契約」を締結、この契約書にはBさんがタレント活動に協力をしないと違約金を払う義務があると書かれていました。
 Bさんはタレントとして活動できると思い込んでいましたが、やらされる仕事は猥褻なビデオへの出演ばかりでした。やめたいといっても、一旦契約をした以上 、百万単位の違約金を払わなければやめられない、と言われ、苦しみながら出演をさせられてきました。

 そして20歳になった時にはAVへの出演を強要されたのです。彼女はやむなく一作品に出演し、あまりの辛さに耐えられなくなり、 意を決して「これ以上AVに出たくない」と主張したところ、「すでに十本出演する契約を締結している、今から断ると違約金は1000万円以上かかる」とプロダクションに脅されたそうです。

 彼女は死にたいと思いつめ、PAPSに連絡をして助けを求めたのです(乙10-3)。
 私はPAPSから連絡を受け、次回の作品の撮影日の前に契約解除のFAXを送るように アドバイスし、出演当日は家から出ないことなどを伝えました。
ところが撮影当日、女性の自宅には黒塗りの車が何台も押しかけ、実力行使で彼女を撮影現場まで連れて行こうとしました。しかし、AVに出演したくないというBさんの意思は固く、プロダクションは撮影を断念しました。



  ところがその後、 プロダクションはBさんに対し、契約に基づいてAVに出演しなかったことを理由として、2460万円の違約金等を請求する不当訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
 私はBさんの代理人としてこの裁判を引き受け、2015年9月、 東京裁判所民事33部は、プロダクションの請求を棄却する重要な判決を出しました(乙14 判決抜粋)。


 この判決がきっかけとなり、性行為は契約によって強制的に従事させることが許されない、仮に契約を締結したとしても、意に反するAVの出演をいつでも解除でき、それを理由に違約金を課すことは認められない、という当たり前のルールが確立されたのです。苦しんでいる女性たちにとっては本当に重要な判例だったと思います。 (続く)

🍄 裁判の経緯についてはこちらをご覧ください。

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