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金太郎と桃太郎(後編)

というわけで『ちいさいアボカド日記』を読んでいて芽生えたひとつの確信(後編から読み始めた人は前編から読むが吉)をメールに綴って送ってみたら、届いた返事が

「ご指摘の通り!!! 誰が呼んだかあーみん好き! 鋤! ズキ! すきもののおっさん! わたしムソルグスキー、ハゲ山の一夜のキャラクターやってクレムリン? ですよ!!!!」

だったときのあの感覚。「わー、そういうことかー!!」みたいな。しかもそれを指摘したのは私が初めてだというから驚きも倍増だった。単に同じ漫画が好き(鋤!)な人だったらいくらでもいるし、岡田あーみん先生は人気漫画家だからファンにもたくさん出会ってきたけど、レイキンは「岡田あーみん面白いよね! の人」というよりも、すごく大雑把に書くと、「あーみんが今描いてないなら私描くわ! の人」なのだった。心身に取り込んだあーみんのグルーヴを、ぜんぜん別の形で自ら放とうとしている人。だから、私はあのときシンボパンで読んだアボちゃんに反応したのだと信じているし、レイキンがMomo-Seiの合奏を聴くときにもそれと同じことが起きているのだろうと思う。たぶん。いやそれは違うかな…

レイキンはずっと前に私が作った歌を聴いて、好きになって、しかも新しい動きをずっと待っていてくれた人だから、10年寝太郎だった私が久しぶりに世に放ったアルバムをわりと前のめりで聴いてくれたんだと思うけど、自分のブログで次のような紹介文を書いてくれた。

この待ち焦がれた最新作はそれまでのどれとも違う、懐かしいのに、新しい時代がきたことを感じる、日常生活の中の奇跡が音楽になったみたいな曲集です。

この紹介文に、私はどれだけ救われただろう! 20歳ちょい前から曲を作ったり録ったりするようになって、そっからの10年間でいくつかのバンドをやってきた私は、最初はひとりで自宅録音で好き勝手やっていて、その都度出てきた「曲の素」をそのままラジカセやMTRに叩きつけるようにして録っていた。少し経ってバンドの形でやり出してからは、「曲の素」をメンバーに渡して各自の好きなように演奏してもらい、最終的に自分が思いもよらないところに着地するのを面白がっていた。簡単に言うと、大喜利の司会者的なポジションで曲を作っていた感じだった。

30歳からの8年間は一転、バンドだの曲を作るだのといったことを一切やらずに暮らした。そりゃあもういろいろなことがあったけども、このときは全体的にアウトプットよりもインプットのほうに傾いていたような気がする。そして40歳が近づいてきた頃、人間なんかの力の及ばない領域でなんらかの力が働いたとしか思えないような怒涛の勢いでまったく予期せぬ流れが突然発生して、私はまた曲を作ったりするようになった。ただただ合奏できる相棒を得て、生まれてはじめて自分の声で自分の歌を歌えるようにもなった。そのごく小さな第一歩を記録したのが「umareta」というアルバムだったのだと思う。

毎日、毎瞬、同じ私というのはいなくて、「umareta」はその、日々新しく更新されて行く私が2014年の春に録音したあのときそのものなんだけど、レイキンはそれを何とも比較することなく、それまでのどれとも違う「それ」としてただそのまま感じ取ってくれた。バンドサウンドではなくてアコースティック系ですねとか、英詞はやめて日本語にしたんですねとか、そういう表面的なデータをとっぱらったところにある「曲そのもの」を受け取ってくれているんだっていうことがわかって、とても心強かった。

今回、前編・後編に分けて書いたこの文章は2015年の自分のブログ記事を元にして今の言葉で改めて頭から書いてみたものなんだけど、元の記事は数週間後に迫ったレイキンとの初めての共演に向けたこんな言葉で締めくくられている。

レイキンの「絵の素」と私の「曲の素」がぶつかって、混ざったり、溶けたり、一緒に踊ったりして、何かが生まれたらいいな。私は緊張しいで、即興が苦手、そう思ってずっと生きてきたけど、そんな設定もレイキンと一緒なら超えられるかもしれない。超えてみたいな。

2015年12月23日、調布のニワコヤというお店で実現したレイキンと私の共演は、当初は彼女のライブペインティングと同時進行で私がギターを弾き歌うという感じになるのかなーと思っていたんだけども、蓋を開けてみりゃ何がどうなったんだったか、最終的にはレイキンが作ったポエムをおみくじにして客席のみなさんにひいてもらい、そのポエムに私が即興で曲をつけて歌っている横で彼女がライブペインティングする、という謎まみれの場がうまれたのだった。そのときのこともいつかまた書こうと思う。

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