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暑中三行半

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30分程度?

まや:丘の向こうに住む紺の絣の男。
わたし:髪の短い少女。中学生。学校にはしばらくいっていないが、全く不自由していない。名前はあかね。
姉:わたしの姉。健康で明るかったが、ある日自殺した。遺書はあったが、自殺の原因は明確ではない。名前はあけの

+++


わたし:姉の墓は海から遠い。

0:(蝉の声)
わたし
:(坂道をのぼる息)
わたし:ふぅ、あっつぅ……
わたし:あづ……
わたし:日陰ないのかな。無いな
わたし:あー!疲れたもう無理(手近な岩に座る)
わたし:……墓遠いよ。ね?金魚ちゃん。お前もゆだっちゃうよな
0:(右手には金魚鉢。二匹の赤い金魚)
わたし:(金魚をじっと見て)喉乾いたなぁ
わたし:(ぴょんとたちあがる)っと!
わたし:忘れてた、はい、カップ酒どうぞー(墓石にかける)
わたし:海水汲んできてあげるね、来年はさ。
わたし:海、懐かしいでしょ。

わたし:(足音に気づく)あっ
まや:おっ、こんにちは
わたし:……
まや:待ってたよ
わたし:だれ
まや:姉さんの墓参りか。偉いね。
わたし:姉さんの知り合い?
まや:ちゃんと赤い金魚連れて。赤い金魚だけ連れて。偉いね。
わたし:(金魚鉢をひっこめて)さわんないで。誰?
まや:姉さんのおとこ。
わたし:……っ
0:(かすかに陽が翳ったような錯覚)
まや:なんだよ、その顔。
まや:僕の家、そこなんだけど。寄っていくでしょ。

0:(白昼夢)
摩耶:赤い金魚でなくてはいけない?
:そうよ
摩耶:黒いのは?
:嫌
摩耶:でもこれは紺だよ。僕の好きな色だよ
:紺なんていないよ
摩耶:紺だよ。陽の光に透かしてごらんよ
:だめ。
摩耶:せっかくとってきてやったのに
:赤じゃないと
0:(ごくン)
:あーあ、

0:(まやの家)
わたし:喉乾いた
まや:麦茶でいいなら
わたし:いいよ
まや:大丈夫?熱中症?
まや:(手を出して)ん。
わたし:なに
まや:金魚、涼しいところに置くから。貸して
まや:ゆだって死んじゃうよ
わたし:(渋々わたす)うん
まや:いい子。(撫でようと手を伸ばす)
0:(ちゃプン)
わたし:(手を跳ねのけて)
わたし:くさいっ
まや:え?
わたし:……帰る
わたし:帰る!
まや:(制して)「あかね」
わたし:!
まや:「あかね」。何も臭くないだろう。落ち着いて
わたし:なんでしってるの
まや:名前?
わたし:なまえ
まや:君の姉さんからきいた。
わたし:あんたの名前は
まや:「摩耶」。
わたし:女みたいな名前
まや:姉さんもそう言ったよ
わたし:――喉乾いた。
まや:うん。待っててね。
0:(麦茶が置かれるまでの間)
わたし:姉ちゃんのお墓をここにしたのあんた?
まや:うん。そうだよ
わたし:なんで?
まや:そばに置きたかったから
わたし:ほんと?
まや:嘘
わたし:ほんとは?
まや:教えない
わたし:(麦茶を飲む)
わたし:お母さんが怒ってる
わたし:墓があんなところにって。海から遠くにって。かわいそうにって。
まや:そうかな。別に魚でもないんだからさ。
わたし:姉ちゃんは海のそばにいなきゃいけないんだよ
まや:どうして。
わたし:教えない
まや:はは。
まや:返してほしい?
わたし:お墓?
まや:うん。返してほしい?
わたし:だってお母さんが、
まや:お母さんじゃなくて、君はどう思うの。
わたし:……姉ちゃんは海のそばにいなきゃいけないんだもん。
まや:返してあげてもいいよ。
まや:返してあげたって、いいんだよ。
まや:(頬を撫でて)ねぇ、やっぱりくさい?
わたし:……ううん
まや:そうか。いい子。
0:(重なる影)
わたし:あ、れ、
まや:ん?
わたし:きんぎょ、どこやったの
0:(蝉の声)

0:(白昼夢)
摩耶:赤い金魚でなくてはいけないの?
:そうよ
摩耶:これは?
:嫌
摩耶:黒もかわいいよ。出目金だよ。
:赤くないから……
摩耶:だめか
:しっぽまで赤いのじゃないと駄目
0:(ごくン)
:あーあ、喉乾いた

0:(からん、)
わたし:あ・つ・い
まや:お風呂、はいる?
わたし:ん、……(ぼんやりしている)
まや:どうしたのぼんやりして。かわいいね、
まや:ね……君の姉さんはなんで死んだの?
わたし:知らないの?
まや:知らない
わたし:知らないならもう知らなくていいじゃない
まや:知らないことは知りたくならない?
わたし:ならない。知ってもどうにもならないこと多いもん
わたし:たとえば友達がね、引っ越していったのを後から知ったってさ?
まや:そうか。でもこればっかりは知りたい
わたし:……遺書。読む?
まや:あるの、そんなの
わたし:うん
わたし:お母さんが手帳に挟んで大事に大事に隠してたから、欲しくなって取っちゃった
わたし:(渡す)読んで
まや:いいの?
わたし:読んで聞かせて
まや:僕が?君に?
わたし:まだ、わたし読んでない
まや:(手紙の形におられたメモを開いて)
まや:「おとうさん。お母さん」
:「おとうさん。お母さん。お父さん」
:「くさい」
:「①魚、くさい」
:「②日焼けしたくない」
:「③なんか、きしょくわるい」
まや:これ、遺書?
わたし:うん
まや:ふぅん。変わってるね、君の姉さん
わたし:それだけ?それだけしか書いてない?
まや:うん(丸めて屑籠へ投げる)
わたし:おふろ。
まや:(寝転がる)先にどうぞ。
まや:(立って行く「わたし」の足を捕まえて)ね、もう帰らないでしょ。この家にいるでしょ。帰らないでしょ、海沿いの君の家には。
わたし:うん……うん

0:(のたのたと風呂場に向かう)
0:(風呂場、服を脱いで鏡の前に立っている)
わたし:生理かぁ
0:(両脚の間に血が流れている)
わたし:血の匂い。血まみれだ、わたしの脚
わたし:子供がうまれるみたい。
わたし:子供うまれるのかな。
わたし:(両脚の間を覗いてみる)
わたし:ここから出てこられんの?
わたし:出てこられなくてすりつぶされてんの?
わたし:かわいそう
0:(キュ、とシャワーの蛇口をひねる)
わたし:ぁ、つめた。
0:(排水溝にくねくね吸い込まれる血の動きを見ている)
わたし:ぐるぐる
わたし:(血を追いかけるように回る)ぐるぐる
わたし:ぐるぐる。ぐうるぐる。ぐるぐる。ぐるぐうる。(やがて倒れこむ)
0:(倒れ込んだ音に気付いて まや、風呂の戸をあける)
まや:だいじょうぶ?
まや:わ、血まみれだ。勘弁してよ
わたし:あ、はは、うふふふ。あ、ふ、は・ふ・う……(泣くような笑うような声が続く)

0:(けたたましい呼び鈴の音)
0:(ガラリ、扉の音)
:母です。
まや:だれの?
:あかねの母です。
まや:妙に若いね。ほんとうのお母さん?
:そうです
まや:それで?
:連れて帰ります。
:あの子学校があるんですから
わたし:(膝を抱えて細く息をする)
わたし:「がっこう」
わたし:学校って、いかないといけないかな。
わたし:何もかも足りているけどな。
わたし:おばあちゃんのいとこの本とMDを全部もらったじゃん。もう一生飽きないよ。そこらへんの中学生よりたくさん本を読んで音楽を聴いてるし、お母さんより、難しい本読めるよ。先生より、ハキハキ喋れるよ。
わたし:ねぇお母さん。学校って、いかないといけないかな。
わたし:……
わたし:姉さんがああなったのに?
0:(まや、わたしが聞いていることを察している)
まや:……「あけの」の時はどうして迎えに来なかったの。お母さん。
:あけのとあの子は違うんです……!
まや:そうかな?
:そうよ
:連れて帰りますからね。
まや:(母の腕をつかむ)
:ひっ
まや:そうだね。違うね。違ってよかったね、お母さん。
:な、なに
まや:(囁いて)「あかね」はまだ××を呑まないよ
:ぃ、やめて
まや:そのうち吞むようになるんだろうな
:やめてっ!もううんざり、うんざりなんだから!!もうそんなわけのわからない、
まや:あんたも僕が臭い?
:離してぇ、う、はぁっ、汚い、汚い汚い
まや:ね、臭いんでしょって。魚臭いんでしょ?教えてよ、不思議だったんだ、なんで「あけの」も「あかね」も僕を臭いというの?
:(呼吸が浅い)ひぃっうぇ、ひ、ひ、ひ…っあぐ…離せよぉ、あー!(腕を振り回す)
まや:(腕が顎にあたり)ウっ!
:ハー、は、はぁ……
:あ、あ、あ、
まや:っ。……男が怖いの?
:……か、帰ります
0:(不規則なハイヒールの音)
0:(カツ、カツ、という音が呼び起こす単調な会話)
摩耶:―――でなくてはいけないの?
:そうよ
摩耶:―――は?
:嫌
摩耶:でもこれは―――だよ
:だまそうったってそうはいかないんだから
摩耶:だめか
:だぁめ。
0:(ごくン)
摩耶:そう言うと「あけの」は××を呑んだ。
0:(かつての夕飯時)
:あけの、今日も学校行かなかったの?
:(幼かった姉)うん
:道、地図じゃわからなかった?
:わかんなかった
:うーん、それじゃあね、手帳に書いてあげる。お母さんの手帳きれいでしょう。これに書いてあげるからね
:うん
:昨日書いてあげた地図も見るんだよ。
:「①さいとうさんの家までまっすぐいく」さいとうさんの家わかるでしょ?
:わんちゃんのいる家?
:そう。「②山がみえる方に曲がる」
:「③らくがきがある電柱のところでクリーニング屋さんのかんばんの方に曲がる」
:で、うーんと「④まっすぐ学校までいく」かな。
:まっすぐ?
:まーっすぐ
:わかりそう?
:うん
:声にだして読んでみて、ほらお母さん書いてあげたからね。最初は?
:わかんない
:なんで?①から読むんだよ?ここから。①は?
:さいとうさんの家までまっすぐいく
:うん。次は?
:やまがみえるほうにまがる
:うん
:……
0:(妙な間)
:うん……次は?
:らくがきがある電柱のところで
:えっと
:クリーニング屋さんのかんばんの方に曲がる
:うん
:あとは学校までまっすぐね。
:それとね、あかねを連れて行ってね。さいとうさんの家まででいいから。そこに保育園の先生が待ってるからね。お母さん明日電気屋さんが来るからね
0:(次の日、姉がわたしの手を引いている)
:「①さいとうさんの家までまっすぐいく」
わたし:ねぇちゃ、わんちゃんがいるよ
:「わんちゃんのいる家」
わたし:ねぇちゃん、わんちゃん
:「さいとうさんの家までまっすぐいく」
わたし:ね、わんちゃんさわりたい、わんちゃん、あっ!(転ぶ。手が離れる)
:「まっすぐ」
わたし:ねぇちゃん、ねぇちゃんまって!まってぇ、まって、まって、
:(遠ざかっていく)「①さいとうさんの家までまっすぐいく」
わたし:(激しく泣いている)
:あかね!?どうしたの!お姉ちゃんは!?
:「わんちゃんのいる家」。「まっすぐ」。
:あけの!何してるの!だめでしょう!あかね置いてっちゃ!
:(腕を掴まれて)あ、まっすぐ、まっすぐいくの!
:あかね泣いてるでしょ!
:ぇ、う、ごめんね、あかね
0:(また違う日)
:あけの、今日さ、お母さん帰りおそいの。夜ご飯たべててくれる?あかねの分も用意してほしいんだけど。できる?
:う……ん
:そっか、書いてあげる。①冷蔵庫のおにぎりを出す。②あけのとあかねではんぶんこして食べる
:①冷蔵庫のおにぎりを出す ②あけのとあけねではんぶんこして食べる
:お父さんもたぶん帰り遅いからね。お願いね。
0:(夜、テレビをみていたはずの父と姉)
:あかね
わたし:ねえちゃん
わたし:おとうさん
:あ、あ、
わたし:おとうさん
:お・とうさ・ん
わたし:おとうさん……?
:ただいまー、遅くなってごめんね
:あれっ……あなた帰ってるの?
:く、くさい
わたし:魚くさい
:ヒッ!
:あなたやめてよ!
0:(コップが割れる)
:新しいおとうさん
わたし:新しいおとうさん
わたし:も、くさい。
:あなた、なにしてるの、娘ですよ!
わたし:おか・あさん
:お母さん
:そんな目でみないでよ!もういやぁ!(頬を打つ)
:(すすり泣いている)
:はぁ、はぁ、は、
:なん、なんでよなんで、なんで……
母:出てって。出ていけ!
0:(ちゃプン)

:(すすり泣いている)
摩耶:どうしたの
わたし:(途中からわたしのすすりなく声に移り変わる)
まや:どうしたの。なんで泣くの。
わたし:お腹、いたい、いたい……
まや:だいじょうぶ、だいじょうぶ
:いたい……おなか……いたい……
摩耶:風呂、真っ赤だったね
:うん……なんでだろ
摩耶:金魚がいるんだよ。赤い金魚が。かわいいよね
摩耶:(口づけの音)
:そうなのかな。そう、なの?私の足の間にいたの?金魚……
摩耶:ふふ、何言ってんの。
摩耶:まぁそうかもね。
:さかなくさい。
摩耶:あ?俺が?
:うー、もう、混ざってわかんない
摩耶:金魚のせいじゃない?金魚が臭いんだよきっと……
0:(屋上に立つ姉)
0:(階段の音)
:いたい……あつい……くさい……
:えっと
:「①魚、くさい」
:「②日焼けしたくない」
:「③なんか、きしょくわるい」
:から、
:消毒しなきゃ。しなきゃ。
:「④消毒しなきゃ。プール」ううん。これ書かなくてもいいか。すぐやるもん
姉:くさい。
姉:さかなくさい。消毒しなきゃ。
:(深呼吸している)
0:(目の下に走り回る人々)(蝉の声)
:プール、塩素塩素塩素塩素、……いちに、セット!(息を吸い)

0:(からん。麦茶の氷が鳴る)

わたし:姉ちゃんは、屋上の、その上の貯水タンクの上から、プールに飛び込もうとしたんだけど、貯水タンクから飛び込みを決めたら、屋上の縁(ヘリ)で頭を打って、死んじゃった。
まや:そうなの?
わたし:馬鹿だなぁ。
まや:海に飛び込めばよかったのにね。
わたし:姉ちゃんは海が嫌いなの
わたし:でも、姉ちゃんは水泳、得意だったの。プール大好きだったの
まや:君は?
わたし:プール嫌い。水着が嫌い
まや:海は?
わたし:好き。船が好き。将来は漁師になる。
まや:やめた方がいいよ。魚臭くなっちゃうよ。
わたし:大丈夫。遠くの海に出る漁師になるの
まや:海に出た時に血が出たらどうするの
わたし:……出ないよ
まや:血が足りなくなったらどうするの
わたし:……
まや:(わたしの額にヒヤリと手を当てて)あついね。ふろ入る?
わたし:うん
まや:一緒に入る?
わたし:え?……ううん
まや:お先にどうぞ

0:(鏡は曇っている)
わたし:っしょ、(浴槽の蓋をあける)
0:(赤い金魚が泳いでいる)
わたし:きんぎょ。ここにいたんだ。わたし入れないや
わたし:お湯平気なの?
わたし:ぱくぱく。ぱくぱくぱくぱく。
わたし:何食べてんの?
わたし:(湯に手を浸す)うわ、ぬるぬる
わたし:……さかなくさ。金魚もくさいんだ。かわいいのに
0:(ちゃぷん)
わたし:はぁ、まっか。
わたし:血、こんなに出て大丈夫なのかな、わ・た・し
わたし:ぱくぱく。ぱくぱくぱく。喉乾いたな。喉乾いたなぁ。
0:(ぼーっとする)
わたし:帰ろっかな

わたし:「前略。」
まや:「前略、姉さんと、姉さんのおとこ。
まや:暑中お見舞い申し上げます。
まや:もうこれっきり
まや:草々」
まや:……はあッ!
まや:行ってしまうの。行ってしまうのか。
まや:えっ「あけの」は?「あけの」……(ふらふらと立って行く)
0:(着物をたくし上げてふらふらと丘を登る)
まや:はぁ、はぁ、だめだよ君もいなくて「あけの」まで取って行っちゃあ……僕の……
まや:(墓石があることを確認して)ああ……まだあった……
まや:……ふん、墓があったってどうしろって……。君はいないのにさ。
まや:(懐から煙草を出して吸う)
まや:聞いた?「あかね」は君の嫌いな海へ遠く遠く船を出して、さかなくさい漁師になるんだってさ。君たちって仲悪かったの?
まや:残念。「あかね」だけでも欲しかったな。

0:(1年後)
わたし:今年はちゃんと海水もってきたよ。
わたし:姉ちゃん、海、きらいだった?
わたし:嫌いだったよね。何が嫌いだった?
わたし:潮臭いのが、魚臭いのがきらいだったんだよね。
0:(海水を墓石にかける。どぼどぼどぼ)
わたし:わたしはね。姉ちゃんの、スプレーの匂いが嫌いだった。
わたし:スプレーしたってなにしたって姉ちゃん魚くさいんだもん。学校のひとも、みんな魚くさい。スプレーのにおいがごちゃごちゃになって、くさい。皆おんなじのつかえばいいのに。
わたし:学校のトイレ、血の匂いがして吐きそう
わたし:おとうさん、あたらしくなったよ。
わたし:おかあさんがね。姉ちゃんのお墓、返していらないって。
わたし:……よかったね。
わたし:まや、よかったね。

0:(うだるような蝉の声)
摩耶:赤い金魚でなくてはいけないの?
:そう
摩耶:黒いのは?
:……赤くないと呑んだ気がしないんだもん。
摩耶:そんなに赤いのがいいなら先に言っといてくれりゃいいのに。
:言うの、忘れてた。
摩耶:金魚を呑むと血色がよくていいね
:そうなの
摩耶:でもこんなに呑まれちゃぁたいへんだよ
:もう一匹……
摩耶:さっきも呑んでたけど
:そう?
摩耶:もう忘れちゃったの?かわいいね
姉:ん、ふふ
摩耶:血が足りないの?
姉:え?
摩耶:血が足りないんでしょ。
姉:そうなの?
摩耶:そうだよ。おなかがいたいでしょ
姉:お腹………?痛い。そう言われたら、痛い。
摩耶:さすったげる。よし、よし。
姉:うん。……ねぇ。ここに、誰かいるのかな。おなかの底の方。
摩耶:あ、またへんなこと言ってるな
姉:出てこられっこないよね。私の脚の間から。擂り潰されて赤いぬるぬるになって出てくるんだよね。
摩耶:誰もいないよ、君のおなかはぺったんこでしょ。
姉:かわいそう。
摩耶:そうだね。
姉:……かわいそう……
0:(ごくン)
摩耶:悲しそうに泣いて、涙を補うように「あけの」は赤い金魚を呑んだ。
摩耶:「あかね」。君もそうなるよ。赤い金魚をみんな呑んでしまうよ。君たちはよく似てる。
0:(ごくン)
:ああ、
わたし:喉乾いた。

摩耶:あけのの墓は海から遠い。もう魚を呑まないように。もう匂いがつかないように。
摩耶:それでも夏になるたびに滲みだす赤い潮(うしお)の匂いが墓石から立ちのぼっている。


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