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バーバリアン・ラヴァーズ

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エドワード:男性
ベンジャミン:男性
??:性別不問

上演時間:30~40分

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エド:――海辺の貝をお送りします、海辺の貝を、海の声を。
エド:エドワード=カランドール
ベン:君の手紙をひらいてとじて、海辺の貝を耳に当てる。

ベン:エドワードはまるで伴侶のように僕の生涯につきまとったやつだった。
ベン:こどもの頃からエドワードは光り輝いていた。
ベン:それはまるでツリーの頂点に飾られる天使のように。
ベン:彼に比べたら他の奴らはジンジャーブレッドだった。
ベン:僕もきっとジンジャーブレッドだった。
ベン:それも神様が模様を描き損ねたジンジャーブレッドだった。
ベン:僕の口は生まれた時から悪魔のように曲がっていて、
ベン:美しい軽やかな音を発音することができなかった。口笛だけがうまかった。
ベン:なぜエドワードがそんな僕に興味を持ったのかわからない。
ベン:僕たちは住人が庭の薔薇にかしづく田舎に住んでいた。
ベン:同じ神父様から洗礼を受け、同じ教会に通い、
ベン:同じ墓地に骨を埋めることだけが僕らの絆だった。
ベン:いつ頃からだったか。
ベン:日曜日、教会学校のあとに、
ベン:エドワードはジンジャーブレッドどもを引き連れて僕を誘いに来た。
ベン:それも子供らしい遊びではなくって、スプラッタ・ショーにばかり誘われた。
ベン:僕は一度として行ってやらなかった。臆病だと彼の取り巻きは僕を笑ったが、
ベン:彼だけは真摯な目をしていた。
ベン:その真摯さは彼に似合わなかった。彼の白銀に近い金髪と、グレイの目には。
ベン:そしてまた薔薇のように色づいた唇には。

ベン:彼の僕への興味はとどまるところを知らなかった。
ベン:神父様の告解を並んで待っているとき、
ベン:彼は投げ出した足をぶらぶらさせて僕の足にぶつけた。
ベン:手を繋いだ。真正面から目を合わせた。とにかくあらゆる方法で僕の興味をひこうとした。
ベン:しまいに僕は諦めて口笛を吹いて彼に答えた。
ベン:彼がその時どれほど嬉しそうに微笑んだか。いっそ憎らしいほどだった。
ベン:それから彼は徐々に僕と話す術を見出した。僕らはまるで聖歌を歌うように話をした。
エド:「君の黒髪が好きだ。光を吸うほどの黒」
エド:「君の目も好きだよ。情熱的で」
エド:「君の、その奇妙な口も好きだよ」
ベン:僕はすべてにこう答えた。
ベン:『嘘だ!』

エド:「スプラッタ・ショー?」
ベン:僕はある時、彼が熱心に通うスプラッタ・ショーについて聞いてみた。
エド:「面白いかどうかって聞きたいの?それともどんなことをするか?」
エド:「うーん、足の爪をペンチで勢いよく剥がしたり、舌の先を噛んで洗面器に吐き出したり」
エド:「あとは鳩の心臓を取り出して握りつぶしたりするのを見るんだ」
エド:「そんな見世物が面白いと言ったら君は俺を嫌いになる?」
ベン:『まぁちょっと仲良くなりたくはないよね』
ベン:と僕は彼に答えた。
エド:「実を言うとさ、俺は別にあんなの面白くないんだ。たださ、」
エド:「ああいうのを前においしくコーヒーを飲むという冷酷さがとてつもなく美しいと思って」
ベン:たしかに、彼の美貌には残酷性が良く似合っていた。
ベン:彼は誰に教えられたわけでもなく、己の美学を築き上げていた。
ベン:幼く愚かだった僕は感心してしまった。

ベン:成長するにつれ、彼の美しさは凄みを増した。
ベン:そしてまた彼はより多くのジンジャーブレッドを侍らせた。
ベン:おぞましいのは老若男女を問わず、嬉々として彼のジンジャーブレッドとなったことだった。
ベン:僕たちはアパートの一室に共に住んだ。
ベン:彼には謎めいた訪問者が多くあり、飛ぶような生活を送った。
ベン:一方、僕は彼と娯楽へ出掛ける以外、寝室から出ることがなかった。
ベン:あらゆる生活の必要は彼の奉仕によって賄われた。
ベン:僕は寝室で長いパジャマを着て、訪問者から堅く守られていた。
ベン:僕の退屈な日課はエドの妙に熱っぽい話を頭からしまいまで聞いてやる事だった。
エド:「神父様は僕をあいしてくださった。天のお父様のやり方で愛してくださった。
エド:でも温かい祝福の手や、告解の終わりにいただく額へのキスは、あんまりに普遍的すぎた。
エド:僕だけに向いているのではないと思われて、悲しかった」
ベン:彼は何度となく同じことを口走っては甘い溜息をついた。
エド:「十二歳のある日、熱い目をしたシスターが修道院のバラで僕の頬をそっと裂いた。
エド:ああいう瞬間に僕は愛を信じることができた」
ベン:普遍的な愛ではいけないのだと言う。
ベン:不安になって不安になって、やがて憎しみが沸いてくるのだと言う。
ベン:だから彼は天の父を憎んでいるのだ。天のお父様は均しい愛しかお持ちでないから。
ベン:だから彼は背教者を気取っているのだ。サタンは神の特別な関心を惹くものだから。
エド:「君は……君は僕にだけ心を開いてくれているからいいな」
エド:「君の、悪魔が針で繕ったような口が大好きだ。その口は僕にだけ開いてくれるんだもの」
エド:「君の愛は信用に値する」
ベン:僕は彼のソネット作家のような口調にうんざりして、
ベン:あるとき彼にしっかりとこう言って聞かせた。
ベン:『君は神様に愛される資格のない、豚だ』
エド:「愛しているよ」
ベン:エドは「うれしそうに」微笑んだ。
ベン:思えば―僕がエドを軽蔑したのはこの時だったろう。
ベン:わかっちゃいないんだ、僕の言うことなんてわかっちゃいないんだ、この男。
ベン:輝けるエドワードを僕が軽蔑するなどということは、思いもよらなかった。
エド:「君だけだよ。他のひとの愛は信用できないよ」
エド:「みんな僕にわかる形で愛してほしい」
エド:「はっきりと他の人とはちがう、僕にだけの特別な方法で」
ベン:『そんなに唯一無二の愛を欲しているなら、君がかみさまになればいいのさ』
ベン:と、僕は僕なりの方法で彼に優しく教えてやった。

ベン:彼はやがてスプラッターな見世物を自分でやるようになった。
ベン:その頃のスプラッター・ショーと言えば、
ベン:舌先を嚙み切ったように見せかけて魚の心臓を吐き出すような、
ベン:体裁を整えたものだった。けっして一線を踏み越えなかった。
ベン:エドはそんなものを許さなかった。
ベン:本物の血しぶきと肉片、本物のスプラッターを彼は美しく演出した。
ベン:出演者には困らなかった。
ベン:彼への忠誠を誓ったジンジャーブレッド達が、
ベン:入れ替わり立ち代わり見世物の出演者となって体のどこかを欠いた。
ベン:彼は一度でも彼のショーに来た者の名前と身分を革の手帳に記録しており、
ベン:相応の社会的身分のある人間であったらば颯爽とその家を訪問した。
ベン:そんな背徳的なショーを見に行ったと知られたくないために、
ベン:多くの家は彼に金額の書いていない小切手を手渡した。
ベン:彼は金に困ると引き出しから小切手をペラリと出して、
ベン:好きな金額を書き込んで銀行へ持ち込むのだった。

ベン:ある日、決定的な破滅が僕らのアパートを訪れた。
ベン:それは靴墨のような髪を撫でつけた、貧相な姿をしていた。
ベン:エドはそれが来るのを待っていたようだった。
ベン:暖炉の前でせかせかと歩き回り、やたらと僕にキスをした。
ベン:それが来たのを見ると、
エド:「彼は構わない」
ベン:と僕を指して高らかに言った。
エド:「僕の友は耳が聞こえず、目も半ば見えないのだ。だから気兼ねなく話し給え」
ベン:僕は彼の脛を蹴飛ばして不愉快を示した。
ベン:このころの僕は耳からひどく膿が出て、始終不愉快だった。
ベン:『アジア人め』
ベン:と僕は粘土のような肌をした訪問者をののしった。
ベン:エドはそれを許しの言葉と聞いたようで、訪問者に大股に歩み寄った。
エド:「お前だな!僕のショーを公に侮辱したという奴は」
??:「侮辱ではありませんで。「こんなものはあたくしの国にいくつもある」と言ったんだ」
ベン:そいつの言葉は、ひどい訛りではあったが、
ベン:ところどころの発音が気取ったクイーンズイングリッシュだった。
エド:「貴様の国の流行などは知らん。僕は僕の理想に従って背徳のるつぼを見せるのみだ」
??:「女がひりだしたばかりの赤ん坊を湯に投げ込む。そんなショウを見たことがありますか」
ベン:「ご主人様、」と彼はエドを見て腰を曲げた。不愉快な仕草だった。
??:「あたくしの国のショウはそうしたものです。
??:また、人体の膨らんでいるところをある方法で平らにすることもあります。
??:オルゴール箱に人体を詰める方法をご存じですか」
エド:「お前は何をしにきたんだ。面白い提案がないなら帰れ」
??:「面白いかは知りませんがあなたに言いたいことがありますよ」
??:「あたくしの国なぞは、あなたの立派な国に比べれば貧しいのでしょう」
??:「しかしどうでしょう、あなたの手がける作品のようなものはあたくしの国にありふれている」
??:「文化の敗北ではありませんかこれは」
エド:「僕の創造性が貧しいといいたいのだな」
??:「そうですとも。工夫が不足していることは明らかです」
ベン:エドは話相手を見ないで僕ばかり見つめている。その首は怒りに赤黒くなっている。
ベン:『追い出せ』
ベン:と僕は彼に顎で指示した。
エド:「続けたまえ、下衆が」
??:「あたくしはあなたのお役に立ちますよ。
??:アジアの信じがたい残酷な見世物をたいてい知っています。あなたにそれを教えましょう」
エド:「つまり!?」
??:「つまるところ、あたくしはセールスに来たのです、あなたに雇われに来たのです」
エド:「お前を雇って僕に利益は!」
??:「あなたのショーの品格と名誉を守るのに役立つでしょう」
エド:「フン、名誉。僕を侮辱するな。名誉なぞはつまらん!そんなものに執着する奴は醜い」
ベン:それは聞きなれた彼の持論だった。
??:「それは実に、何というんでしたか―そう、不遜なことをおっしゃる……」
エド:「なにが不遜だ。言ってみろ」
??:「名誉ほど生活を心地よくするものはないと思いませんか」
??:「地上において名誉ほどよいものはない」
エド:「名誉、あるいは金?そして権力か」
??:「あるいは金、そしてまた権力。その通りです。
??:しかし名誉なき金、名誉なき権力は、人に嫌われますよ」
エド:「お前の物言いはサタンのようだな!」
??:「ははぁ、ご主人様」
エド:「貴様は、」
エド:「僕の今から言うことができるか」
エド:(紙束を投出す)「今から10の演目をここに書け」
??:「ほう」
エド:「僕の客、および僕の知らない、まったく未知でより残酷なものでなくてはならない」
??:「それはもちろん」
エド:「演目の手順、それに必要な器具・人員まで正確にだぞ」
??:「よろしい」
エド:「器具は名称だけでなく図も描くのだ」
??:「よろしいでしょう。明日、午後のティーの時間までに素晴らしいカタログをお届けしましょうとも」
ベン:その通り、次の日にリボンで結んだ紙束を抱えて彼は再び訪れた。
エド:「ひどい字だ」
??:「内容はいかがでしょうな」
エド:(引き出しから小切手を出し机に叩きつける)「……この小切手をシティ&サバーバン銀行へ持っていけ」
??:「いくらいただけるのでしょう」
エド:「10ポンドだ」
??:「……」
エド:「よかろう、100ポンドだ!」
??:「結構ですな」
エド:「いいか」
ベン:エドは奴の手を取って思い切り握った。
エド:「僕は名誉のために手を取るんじゃない。お前の悪魔性と手を結ぶのだ」

ベン:それからだ。このアジア人の形をとった破滅と手を結んでから彼は沼へ沈んでいった。
ベン:アヘンの味を覚え、気分の上下が非常に激しくなった。
ベン:ショーの手配をするたびに虎のように怒った。
ベン:ショーを終えた翌朝は悲しみに満ち溢れて芸術を求めた。
エド:「どうして世の中にありふれている愛は、あんなに薄っぺらいのだろう?」
ベン:彼は僕と腕を組んでロマンス映画を見に出かけ、涙を浮かべてそんなことを囁いた。
エド:「たとえば、知らぬ間に神を胎にうけたマリアのように、あんな不可逆な愛でないとだめだ。
エド:いつでも何もなかったようにできる愛なんて、そんなもの。不誠実だ」
ベン:そう興奮しながら語ってステッキを回した。
ベン:かと思えばひどく上機嫌なこともあった。
エド:「この間、チャイニーズがたくさん来ていたろ」
ベン:こちらをおっくうそうに向いたエドの顔。美しさはもうそこになかった。
ベン:悲壮なまなざしと青黒い鼻筋だけが印象にのこるギラギラした顔つきになってしまった。
ベン:頬は水死体のように膨れていた。
エド:「チャイニーズと自称しているだけで日本人だろうな。
エド:僕に日本語が分からないと思っているんだ、やつらは」
エド:「彼らからミズコというものをどうしても買いたくってね。なんとか話を取り付けたんだ」
エド:「初めて聞いたろ?流れた胎児のことだそうだよ」
ベン:『そんなの買ってどうするの』
ベン:僕は眼差しで聞いた。彼は冷酷なグレイの瞳を煌かせて笑った。
エド:「うふふ」
エド:「「今日のスープは格別だった。」そう思わない?次のショーでは観客にふるまわれるんだ」
ベン:ああ。僕はエドの人間性にはもう辟易していた。
ベン:でも僕にけして逆らわない、
ベン:羽のやわらかい大きな蛾のように僕の手にしがみついているエド。
ベン:僕の膝で息をする彼を僕は恍惚として撫でた。
ベン:ずっとこういう人間が欲しかった。

ベン:誰も彼の所へ訪れない秋がきた。僕の耳はもうなかば腐りかけて聞こえなかった。
エド:「新聞を見たかい」
ベン:彼の涜神的で背徳なショー、ならびに彼のまるで詐欺師そのもののやり口、
ベン:その下等で許しがたいことをすべて書いた新聞が出た朝のことだった。
ベン:彼は僕のソックスを脱がせ、銀のたらいで僕の足を洗った。
エド:「イエス様は弟子のサンダルを脱がせ、腰布で足を洗いながらこう言った。
エド:「私があなたの足元に跪き、こうして奴隷のように足を洗うことを善く考えなさい。
エド:私があなたに仕えて見せたように、あなたがたもお互いに仕えなさい」と。
エド:こうも言った、「互いに愛し合いなさい」」
ベン:彼は僕らのひそやかな言語で語った。
ベン:すっかり僕の足を濡らした後で、
ベン:彼は思い出したように立って行って麻布のエプロンを持ち出した。
ベン:濡れた手で行って戻ったために絨毯に蛇の這ったような跡ができた。
ベン:彼のショーで毎夜汚れる帆布製の幕と、
ベン:僕の足をぬぐう清潔なエプロンとを思った。
エド:「僕は、イエス様を許せない。
エド:弟子たちはイエス様をこそ愛していたのに、
エド:その愛をお互いに向けなさいと言われてどんなに悲しかっただろう。
エド:愛の矛先をすり替えるような、そんな真似を僕は許せない」
エド:「つまり……畜生、何を言いたいのだっけ、ちかごろの僕のアタマときたら本当に……
エド:つまり君に分かってほしいのは。大事なことは、僕が君の足を洗うということではないんだよ」
エド:「僕が君を愛しているということ、君への奉仕を最上の幸せとしたことを、
エド:どうか疑わないで。僕はもうすぐ悪い人になってしまうから。十字架にあがってしまうから」
ベン:そんなことは疑いようもなかったので、洗い上げられたつま先で彼の鼻先をつねった。

ベン:僕たちはある日、海へ行った。
ベン:岩の少ない遠浅の、穏やかな海辺で、僕らは砂浜をずっと歩いた。
ベン:砂に寝転んで天使の形をつくった。貝を並べて文字を書き、秘密の話をした。
ベン:死んだクラゲを思い切り投げた。
ベン:世界に僕らしかいないように、青年らしい傍若無人な遊びをした。
ベン:やがて夕日が射してくるとエドは服を全部脱いで、海の方へ歩き出した。
ベン:僕は思わず駆け寄って抱きしめた。
ベン:彼は僕からのハグにびっくりして赤子のように縮こまった。
ベン:愛に臆病なひな鳥のような彼を僕は抱きしめていた。
ベン:洗礼者ヨハネとイエスのように、腰まで水に洗われながら僕らは一時間もそうしていた。
ベン:かわいそうに彼の肌は灰色になった。
エド:「このまま、このまま流してくれよ。僕はいま幸せだから」
ベン:僕は彼の縮こまった体を母のように揺すった。
ベン:満足するまで揺すって、丸まった彼をそっと波にゆだねた。
ベン:揺りかごのリズムで彼は浮き沈みし、そして段々沖へ行った。
ベン:この時の僕は神様に祈りもささげないで。
ベン:胎児のように流れていく彼を見ていた。
 
ベン:これがエドワードのすべてだった。そして僕のすべてでもあった。
ベン:僕のために生きたイエズス。僕はユダのやり方で彼を愛していた。
ベン:そのあと僕はどうしたんだっけ。
ベン:僕たちのアパートに帰って、彼の革の手帳を開いた。
ベン:彼が毎夜泣きながら書きつけた汚い字を指でたどった。
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エド:「助けて、神様。あのアジア人が来て、阿片の煙管で僕の脳髄をぐつぐつ煮込んでいくんだ」
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エド:「ベンジャミン、僕が何をしたっていうんだ。どうして君は僕を憎むんだろう。君が僕に吐き捨てた言葉はまるで聖書のようだった。どうしてそんなひどいことを言うの」
エド:「何を言われたって僕が君に返す言葉は単調に、これだけだ、「愛している」とそれだけだ。最近の僕には、人の口がぱくぱくするのが性的に見えてならない。あんなことをして恥ずかしくないのか。僕の頭がおかしいのか。皆ベンジャミンの口のようにつつましやかに綴じられているべきなんだ」
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ベン:僕は気に入った2ページをちぎりとってベストのポケットに入れた。それから、一番気に入った彼の手紙と、贈物の巻貝を。
エド:「――海辺の貝をお送りします、海辺の貝を、海の声を。
エド:エドワード=カランドール」
ベン:それだけを持ってアパートを出た。
ベン:そしてアメリカ人の旅行家の車に乗って僕らの田舎に帰ってきた。
ベン:帰って来た。バラの香りが強くてやってられない田舎へ。
ベン:エドがいない今、
ベン:悪魔のように口の曲がった、しかも耳から膿を出した僕を愛す人などはいない。
ベン:エドのせいで愛され方を覚えてしまった僕は、不意に生き方がわからなくなった。
ベン:神父様だけが僕の手を取って、聖書の一行一行を僕の指になぞらせ、
ベン:致命的な僕の間違いを諭してくださる。
ベン:誰もお前を愛さない。誰もお前を愛さないと。

ベン:君の手紙を開いて閉じて、海辺の貝をもう聞こえない耳にあてれば、ありありと。
ベン:輝けるエドワード。僕らのささやかなことば。
ベン:聞いてください、
ベン:僕、ベンジャミン=スタラは
ベン:毎日君の手紙を読み上げようと曲がった口をつまんでいます。
ベン:聞いて下さい、僕には妻ができました。鶏の匂いのする婆さんです。
ベン:この人はかつて君を愛した人で、
ベン:かつて君の頬をそっと薔薇で切り裂いた若いシスターでした。
ベン:僕にはきっと君の影が、ぴったりと寄り添っているのです。

ベン:だからエド、聞いてくれ。僕はこの魔女と、子を為そうと思うんだ。

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