ゆる、ゆる。【男2版】

※男性同士の恋愛表現があります。
◇年下。男
△年上。男
＋＋＋

◇：年上の恋人を待つ。
◇：年の離れた恋をする。

◇：恋って思ってもないところから突然来るんだね。

△：年下の恋人を迎えに行く。
△：年の離れた恋……をする。
△：恋か。君が恋と呼んだら、恋になる。

◇：もうすぐ16時。
◇：県立図書館の閉館は17時なのに。今日は12時に閉まってた。
◇：祝日だってさ。つまんねぇの。
◇：「さむい」
◇：スマホでメッセージを送って。
◇：返信を見たくなくてすぐポケットにしまう。
△：「どうせ外で待ってるんだろ」「だめだよ」
△：「迎えになんか行かないよ」
◇：たぶんそんな返事。お察し通り待ってるよ、あと一時間半。
◇：バス停に腰かけて待つ、あと一時間半。
◇：信号の瞬きを数えて、通り過ぎるタイヤを数えて、
◇：カラスの鳴いた回数を数えて。
◇：数えるものがなくなったころ、タイヤの近くに止まる気配。
◇：会いたいけど会いたくない。
◇：テンポのはやい靴音に一瞬胸がひやっとする。
◇：「……風邪ひきそ」
△：「なにしてんだ」
◇：「待ってた」
◇：見上げたら、好きな顔。ほっとする顔。
◇：呆れたような困ったようなその顔をずっとさせていたい。
◇：だって俺まだ子供でしょ。
◇：俺は子供だし、あなたは大人じゃん。

△：子供かよ。って。
△：言いかけて、あ、そうだ子供だった、と思い出す。
△：そういえば子供だったね。
△：バス停に丸まって、おびえてる。叱らないよそんなことで。
△：おびえながら、甘やかして、といばってる。こどものかおだ。
△：迎えに来る気はなかったのに、結局来てしまうんだから私も相当甘い。△：こどもに甘い。
△：ということは自分はもう、おとなだなと。思ってしまう。
△：いやぁ、こどもって偉いね。天使だ。
△：車に乗せて、私の家に一緒に帰る。途中でおろそうとしても頑として降りないんだからしょうがない。
△：仕舞いにはわたしのベッドに一緒に入る。
△：やることはおとな。ずるいぞ。不労所得だ。
◇：「おれのもの」
△：「ぇ？」
△：おとなみたいに抱きながらこどもみたいに泣きだした。うそだろ。
◇：「おれの、」
△：こどもだもんな。とつぜん不安になるんだよな。愛されてるかなぁ、愛してるかなぁ。不安だった、私も昔は。
◇：「おれのもの？」
△：「……ふふ」
△：うそ、今だって不安だよ。でも私は大人だから笑う。大人ぶって。
△：泣かないで、って言うのは私の仕事じゃない。
△：ああ、だめだなこういうの。とっさに息のしかたまで忘れるんだ。
△：「こんなときに泣くなよ。無粋」
△：へたくそなことば。
△：エラ呼吸の魚だったらよかった。そしたら、泡をはいてごまかすのになぁ。
△：「なんで泣いてんの」
◇：「抱けなくなったらやだなぁ」
△：「……」
◇：「さびしい」
△：「知るか」
◇：「さびしいよ。さびしい」
△：「知るかっての」
◇：（鼻をすすって泣く）

◇：求めても、断られる日が来るとしたら
△：気を遣って求めない君を横目に見るとしたら、
◇：ずっとそばでこのひとが年取っていくのを見るのだとしたら。
△：寂しい君を未練たらしく捕まえて、大人のまま死ぬとしたら。
◇：それはゆるやかな殺人かもしれない
△：それはゆるやかな監禁かもしれない
◇：かもしれない、というか、
△：それ以外の何物でもないから、
◇：一言、
△：このまま、
◇：「ねぇ、」
△：「ん？」
◇：困らせてごめんね。
△：苦しめてごめんな。
◇：「泣いてごめんね」
△：「いいよ別に」
◇：まだ、今は
△：今くらい、
◇：無理だ。
△：許してくれ。
◇：「ねむたい？」
△：「いや、いいよ。……キスして」

◇：年上の恋人を迎えに行く。
◇：追いつくことはなくて、差は縮まらなくて、もどかしいスピードで。
◇：はやく、はやく。いま行くから。

△：年下の恋人から逃げ続ける。
△：逃げ腰でおびえながら、いつまでも求めてくれるように呪いをかける。
△：まだ、まだ。愛してて。

△：「こんどからああいうの無し」
◇：「なに？」
△：「昨日みたいな構ってちゃんは禁止。私も仕事があるんだから」
◇：「そうじゃないと構ってくれないじゃん」
△：「賢くなれ少年よ。もしくは彼女を作れ」
◇：「パンある？」
△：「は？知らん」
◇：「（冷蔵庫をさがして）ないよ」
△：「昨日で食べ終わったかな」
◇：「腹減ったのに朝飯がねぇ！寝るしかねぇ！」
△：「はぁー？あんなに寝たのにまだ寝るか。若いってすごいな」
◇：「寝ないぃ……あー予備校一限数学じゃん……ガン萎え」
△：「さっさと起きて出てけー。……なんかこうしてると父親みたいだな」
◇：「ぱぱぁ」
△：「うぉー、犯罪臭がすごい。やめろ」
◇：「ぱぱ、あのね」
△：「やめろって」
◇：「あのさ。いつか、終わるんだなぁ、いつ終わるのかなぁって、」
△：ゆる、ゆる、
△：二人で殺していく。
◇：共犯だよ。
△：共犯だぞ。
◇：「そう思っている間に俺じじぃなるよ」
△：「君でじじぃなら私は超じじぃだな」
◇：「超じじぃだって。頭悪ぅ」
◇：カーテンを開けないから、太陽の光はくぐもって。部屋の中は暖かくて。しゃべろうとしたらあくびにかわる、ねむたい朝。
◇：まだ、恋してていいかな。
◇：まだ困らせてていいかな。
△：そうやってゆるやかにゆるやかに君の恋が死んでいく。醒めてしまえよ。私の棺と一緒に燃やされる前に。
◇：「超犯罪じじぃじゃん」
△：「さらに頭悪くなったな」
◇：ふたりの朝の笑い声。
△：はじけて消える泡みたい。
△：「まぁ、二人でとじこめて、見殺しにして、燃やしてしまうなら無罪かな」
◇：「無罪じゃないでしょ」
△：「今なら君は情状酌量で無罪かもよ」
◇：「え、やだよ。一緒に楽しく服役しよーぜ」
◇：かわいいね、俺たち。いまちゃんと、恋してる。よね？
△：かわいそうだなぁ。かわいそうだ。
△：君のせいでもう未練しかないよ。
◇：恋なんて、そんなもんじゃんか。

◇：ずっと続かないことを、知ってて。今が今でしかないって、知ってて。
△：ゆるして、ゆるされて、
◇：甘えて、甘やかされて、
△：呪われながら、呪いをかける。

◇：恋なんて、恋なんて。死んじゃえばいいんだ。