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輪唱「群像」

利用規約】をご確認ください。
上演時間30~40分 
過去の公演:2023年2月18日~19日 京都三条MEDIA SHOP Gallery2にて上演(詳細は公演公式Twitterホームページへ)



利用規約

声劇・演劇にお使いいただく場合、2点お守りください。
①【企画者・責任者1名のご購入】をお願いいたします。
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本編(無料公開部分)

(五人の人間が展示物よろしく、バス待ちの人よろしく、所在なげに配置されている)
(一人がぎくしゃくと立ち上がり、声を発する)

わたし:残りおよそ五分で、お風呂がもう沸きました。
わたし:お風呂に入るたびに心臓がお湯に溶けて流れ出していくのでキライです。
わたし:百数えるまで出てはいけないそうです。キライです。
わたし:でもわたし偉いのでちゃんと入ってちゃんと数えます。
わたし:いーち、にー、さーん、しー、(狂言チックに石を拾って見、落として追う)ご(水面に顔をつける)、ゴ(水面に顔をつける)、ご(水面に顔をつける)、ゴゴゴゴゴゴゴ、
わたし:……(ぐしゃっとくずれる)

(Dが手拍子をはじめ、Cが驚いてそれに同調するがA、Bが動かないのを見てやめる)
(Dは早々に飽きてやめている)

A:一章「雑踏」。演劇のように刹那的だった。
A:(カーテンコールのように様々な方向へ礼をする)
A:重く四角く大きなアルバムを持って歩いている。
A:道々ロッカーにでも預ければよかったのに、置いてくることができなかった。
C:もしもし。就職決まったんだって?
A:おう。何とかニート回避した。
C:お前の親きびっしぃもんな。よかったじゃん。
A:親は満足してねぇけどな。お前は?
C:教師。
A:あ?なんか教師は嫌だって言ってなかったか。
C:いや、まぁいろいろあって。
A:ふぅん。あ、電車来たわ。バイバイ
C:あ、ちょ。同窓会さ、あいつ、来る?
わたし:電車が止まります。(わたし止まる)
A:珍しくマジメぶって将来を語った高校の昼休み。うん、あれもいい思い出だった。
B:同窓会?
A:今度の同窓会。俺幹事なんだよ。
B:あ、そうわざわざ連絡くれなくても……僕は欠席でお願いします。
A:えー来いよ。
B:嫌だ。
A:あ?なんで?お前暇じゃん。
B:嫌だよ。だってあの子も来るんでしょ。
A:来ないよ。
わたし:欠席 シマス(方向転換)
A:って葉書きた。
わたし:充電してください
B:僕も欠席します。切るよ。
A:渋る友人を連れ出して遊びに出かけた夏休み。うん、あれもいい思い出だった。
D:同窓会の幹事お前なんだ。大変だな、人集まんないだろ。
D:あ、あいつ、あいつは?
わたし:欠席 シまス(方向転換)
A:みんなあいつのこと大好きだな。来ないよ。
D:来ないの。
A:来ればいいのにな。
D:お前マジ?正気かよ。来てどうすんだよ。
D:まぁーむかし俺がキレた時も張本人のお前ケロっとしてたもんな。
A:いつの話?
D:二年!国語。ちょ、覚えてないのかよ。
A:詩的な友人を茶化して怒らせた国語の授業。うん、あれもいい思い出だった。
D:お前知らないとこで死ぬほど恨み買ってんぞ。
わたし:欠席 します。
A:小学校から受験して、高校で勉強に飽きた。親が反対したので入れなかった演劇部。こっそり出入りして友人をつくった。友人が出来たら学校にいるうちは楽しかった。高校を出たとたん親と差し向かいになって背中に期待がデンと乗った。
A:まぁ、今となってはいい経験だった。
A:あるいはそう演じているだけかもしれない。
A:毎日鞄が重い。重い。紙しか入ってないのに。川に流してやろうか。
A:アルバムを手放さずに持って歩いている。置いてくることが出来なかったから、毎日重たい思いをして歩いている。一つ一つ確認しながら生きている。いい思い出だった。いい思い出だった。あれも。思い出だった。ちゃんと。ぜんぶ思い出だ。思い出だ。
わたし:思い出づくりの達人だね。
A:おぼえてる、いい思い出だった。だいじょうぶ。帳尻はあってる。辻褄もあってる。
わたし:おぼえてますか。(方向転換しかけてしない)
A:え?ああ、ちゃんと持ってるよ。重いなぁ。うん、あれもたぶん?多分いい思い出でした。
A:うん、うん、もうやめていいかな。やめていいかな。
C:お前がはじめたんだろ。
D:忘れんな。
B:え、ぼ僕は……知りませんよ。
A:はぁ。……
A:いい思い出ですら時に私を重くする。圧し掛かってくる。ある日突然雑踏の真ん中で動けなくなった。空を見あげてぼんやりした。ぽっかりあいた口に雨水が降り込んだ。唾液と一緒になって流れ出した。とろとろとろドロ。
A:これくらい気軽に思い出を捨ててしまえたらよかったナァ。
わたし:電車が接近します。電車が、電車が、電車が、急停車します
(B~D、Aを押し隠すように並ぶ)(A、鞄の中身をぶちまける)
C:人身事故だってさ。勘弁してよ。
D:同窓会どうすんだ。
B:死んだんだって。
わたし:演劇は雑踏に踏み殺されて死にました。つまんね。

B:二章「定置」。標本のように運命的な。
B:自分の事を話すのが苦手です。
C:志望した動機はなんですか。
B:はぁ、それが最善だと思われるからです。
A:これからどうしていきたい?
B:いや、なるようになるだけですから。
D:もっと具体的に目標を立てて見ようか。
B:目標とか、到達点とか、やる前からわかったら苦労しないですよ。
わたし:どうして。
B:どうしてみんな今でないことを聞くんだろう。
B:だってそこにいてそれをしてそう言われるだけなんです。僕のせいでも、誰かのせいでも、僕の意思でも、誰の意思でも、なくないですか。
B:僕はそこにじっとしています。
わたし:え?
B:え?
わたし:好きだよって言ったんだよ?
B:……僕もいま君が好きなような気がします。でも明日とか明後日とか、一年後とか結婚とか言われてもわからないので。ごめんなさい。
B:彼女は納得してくれませんでしたが、納得してくれないとどうしようもありません。わかってくれない人は遠くにおかなくてはしかたありません。
B:学校にいる間は窮屈でしたが、みんな将来の事なんて滅多に話さないので気楽でした。今現在の話なら、僕は自信をもってできるんです。いま、何が好きとか。いま、誰が好きとか。
B:友人は3年になるとみんなヒリヒリしました。今じゃない話ばかりするんです。そんなことして何になるんだろう。そこ、いま、それ、が継続してあそこ、あの時・未来、あれになるだけなんです。今から語れることなんて何一つないはずなんです。
B:僕はじっとしていたのでそれほどの動揺もなく積み重ねていきました。いずれ将来になる今を積み重ねていました。カッカしている群れの中で僕はじっと安定して冴え渡っていました。
B:そのうち、僕を好きだったその子が目の前でちぎれていきました。ちぎられて、ちぎれていきました。見るたびに肌がひりつきました。
B:僕はそのときどうしたでしょう。僕は目の前で見ていました。いつものごとく意思もなく自然が僕を動かすままにしていようと思って。僕はそこにじっとしています。
B:そしたら、じっと動けなくなりました。だからそれが僕のそのときの最善だったと思います。
わたし:どうして助けてくれないの
B:今頃聞かれてもわかりません。いまはそこじゃないし、そのときじゃないので。僕はそこにじっとしていました。
B:そのときから僕はじっと動かずに大人になりました。
B:あのときからずっと、ピン止めされてそこにじっとしているのが僕の役割です。
A:誰かがそう言ったの?
B:え?いや
C:誰かが君にそうしろって命令したのか。
B:……え、いいえ、誰もそんなことは言いませんでした。けど
D:そうか。じゃあそういうことだ!君が悪いな
B:(小声)ちがいますよ
わたし:そんな人だったんだ。
C:お前も俺らと変わらないんだ。同罪、同罪。
B:――ああね。
B:そう、あんたってそういう感じか。
B:僕はこんな奴です、こんな奴、ですが何か。
B:僕はこんな奴です進化においてかれたんです僕が僕である限りもう、「こう」でしかないんです。でも僕を置いていくあんたたちだってその程度なんだ。底の浅さが知れるよねお里が知れるよね。
A:うるさい。
C:お前が損をするだけだぞ。
D:やめとけ。
B:…………は………だよ、ね……
(それきり動かなくなる)
わたし:標本は握りつぶされて黙りました。きれいだったのにね。

C:三章「壺」。陶芸のように捏造した。
わたし:(歩くのをやめて時々足を踏み鳴らす)
C:教師になった。
わたし:(聞き取れないくらいボソッと)最悪。
C:高校の頃は夢なんてろくになくて。大人になっても夢なんてできなくて。
C:でも教師になんてなりたくなかった。教師にだけはなりたくなかった。俺の親は教師だった。
A:教師は嫌だって言ってなかったか。
C:言ったよ。言い続けてたし、思い続けてるよ。俺は俺の世話で精一杯なんだよ。他人のこどもとでっかい大人の世話焼いてる余裕ねぇよ。
C:学生時代からずっと我慢ばっかりだ。人の話を聞いてわからないことで頷いて、面白くないことでも聞いて腹立つことで笑った。大人になったら逆転すると思った。何も変わらなかった。傍若無人なやつらは無駄にいつでも自信たっぷりで余裕たっぷりで。メソッドを人にひけらかしてる。お前らの下ではいつくばってお前らのせいで胃に穴あけてる俺はどうすんだよ。
C:つくづく運が悪い。悪事をやって他の奴は逃げられても俺だけ逃げられたことがない。小学生の時の万引き未遂がバレて高校は入学を危うく取り消されるところだった。今までやらかしたことがどっかで俺に降ってくる。そんな予感でいつもおびえていた。
C:俺が人に教えられるようなことないよ。そもそも話聞かねぇもんみんな。
わたし:最悪。
C:あんときだってお前ら話聞かなかったじゃん。俺の話……。
D:お前声ちいさいんだよ。
C:やめとけって言ったよ俺は。ちゃんと正直に言った。
B:言ってないよ。君はいつだってお追従してました。
C:あいつが来なくなって迷惑だったよほんとに。先生に俺が話しなきゃお前ら全員退学だぞ。
わたし:最悪。
C:嘘じゃない。嘘を吐いたわけじゃない。ちゃんと正直に言った。俺たちは予想できなかっただけだ。みんな余裕がなかった、みんなストレスが外向きだった。
C:みんなガキだった。発言力が無かった。金もなかった。コネもなかった。ちょっと頭を挙げて先を見たら真っ暗だった。あるのは子供の弱みだけだった。まだガキだという保証だけだった。
C:ちゃんと正直に言った。最善を尽くした。子供らしく。
わたし:最悪。
D:同窓会なくなって残念だな。最近どうよ。先生なったんだっけか?教育現場はいかがですか、先生。
C:先生って呼ぶな。うまくいくわけないじゃん。俺が生徒を嫌いなのはあっちもわかってて最悪だもう。俺のクラスが一番荒れてるよ、くそ。
C:あいつを思い出すんだよ。もう誰の顔も見たくないんだよ!
C:自分がやったことをあいつらが今やってんだぞ…………ガキの弱みを大人に持ち込んで!俺がやったまんまを得意顔でやってんだぞ!
C:嘘ばっかりついて叱ったらこうだ。
C:「ちゃんと正直に言った」
(紙がぶつけられる)
わたし:陶芸は焼かれ続けています。もっともっと。

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