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キャリーの恥さらし!

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キャリー:キャリー・ランジュイ。女性作家。若い世代に人気があり、現在も執筆中。
ユージン:高校の教諭。キャリーの大ファン。

※40分程度?

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ユージン:キャリー!キャリー・ランジュイ?うわぁ、本物だ。ようこそ。

キャリー:初めまして!あなたがユージン?

ユージン:そう、あなたの大ファンのユージン!来てくれてありがとう。我が校始まって以来の名誉だよ。

キャリー:びっくりしたわ、ここが私の母校だっていうこと、若い頃のインタビューで一回しか言ったことないんだもの。卒業式という記念すべき場に招いてくれてありがとう。あなたは校長先生なの?

ユージン:はは、違うよ、しがない学年主任なんだ。そういえば副校長もあなたの大ファンなんだけどさ、彼、いまは運悪くカナダに出張してるんだ。

キャリー:あらっ、卒業式なのに。

ユージン:そうだよ。彼の実家で何かあったらしくてね……。朝から電話でキャリー・ランジュイは来たか、キャリー・ランジュイはまだかって、五月雨式さ。

キャリー:そうー、じゃああたし副校長先生に電話したいわ。

ユージン:本当に?卒倒しちゃうよ。掛けるね、待ってて……。ハロー、リチャード!今、時間OK?君と話したいって人がいるんだ………今から代わるけど、びっくりだよ……誰って、今代わるよ

キャリー:ハロー副校長先生!キャリー・ランジュイよ!……そう?本当?あたし学校って一度来てみたかったの。うん、とっても素敵よ。山の下から見ると校舎がまるでツリーハウスみたいに見えたわ……ええ、もちろん、ううん。いいのよ。サイン?ええ、しておくわ、それじゃ、バァイ。

0:(電話を切る。ガチャン!)

ユージン:ありがとう、とても喜んだよきっと。あ、あのぅ。ところで僕にもサインが欲しいって言ったらどう?

キャリー:ええ、いいわよ!

ユージン:最高。じゃ、じゃあこれに……

キャリー:えっ、これ!『ライラインザクローゼット』の初版本じゃない?じゃあ初期のダサいサインしてあげるね。

ユージン:うわぁサンキュー、十年越しの夢がかなった!いや実はさ、学生の頃にあなたのサイン会に並んだことがあったんだけど、緊張しすぎて途中でトイレに逃げて、……それで気持ちよくトイレしてる間に終わっちゃったんだ、サイン会。

キャリー:そんなおもしろいことがあったのね。『ライラインザクローゼット』は本当、少女趣味って言われてね。有名な女性作家からずいぶん批判されたわ。

ユージン:あ、そういうおもしろい話はあとで聞きたいな。生徒たちも聞きたいだろうから。うーんと、あと少し時間あるね。何か飲む?

キャリー:チェリージュースがあったらそれを。

ユージン:チェリージュース。さぁ、あるかな……クランベリージュースならあるよ

キャリー:ない?無ければいいわ。チェリージュースはうちで作れるし。

ユージン:家で?

キャリー:庭で籠に二杯も三杯もとれるのよ

ユージン:へぇ。僕の祖母の家にもチェリーの木があったなぁ。

キャリー:でね、収穫時期になるとたいへんなの。ロバートと取りあいよ。

ユージン:ロバート?恋人?

キャリー:そうね、渡り鳥なの。黒ツグミなのよ。

ユージン:そりゃあいい。そうだ、あなたが差し入れたピザとってもおいしかったよ。

キャリー:えっもう食べたの?おいしいでしょ?トリプルペパロニとトリプルチーズなの。特注よ。

ユージン:背徳的なヤバイ味だった。僕たちは大人だからギリギリ。生徒たちは気絶しちゃうね。

キャリー:あとで式もあるのに大変。もっとヘルシーにすればよかったかな。

ユージン:いやいや、あれが最高さ。……そろそろ行こうか。

キャリー:ふぅっ!緊張!

ユージン:大丈夫、みんなあなたを尊敬しているよ。行こう。

0:(講堂に入場)

ユージン:やぁー、みんな!まもなく卒業だね!でもまだ今は学生なんだから、僕のこと呼び捨てしちゃだめだからね!

ユージン:さぁて、今日の講演は、とてつもなくレアだぞ!僕が一番ワクワクしているよ、さっそく呼ぼう!我が校が輩出した大人気作家!キャリー・ランジュイ!

0:(キャリー、ステージ上に入ってくる)

キャリー:ハロー後輩たち、キャリー・ランジュイです。普段はグランマだけど、たまに作家をやっているわ。あなたたちに会えてうれしい。今日はよろしくね。

0:(拍手と歓声)

ユージン:来てくれて光栄だよ。どうぞ、座って。

0:(ステージ上に向かい合って着席)

ユージン:そういえば、キャリー、あなたが講演を引き受けるって言うのはとっても珍しいらしいね。どころか、取材にも応じたことがないとか。

キャリー:そうね、今まで全部そういう話は断って来たわ。あんまり断りすぎて、キャリーはゴーストライターを雇っているんだ、とか、実はもう死んでいる、とか。そんな噂も立ったぐらい。

ユージン:スパイだ、とかね?

キャリー:そうよ、随分言われたわ。本当にスパイだったら、私『ラングドマン』を書くときにもっと楽ができたわね。リサーチ要らずなんだもの。

ユージン:(軽くわらって)それが今回はどうして受けてくれたの?僕はもう、あなたに嫌われる、どころか、あなたが世界から消えてしまうんじゃないかっていう思いで電話をかけたんだけど。すぐにOKしてくれたよね?

キャリー:そうねぇ、難しいわ、まぁ母校でもあるし………。たとえば私がグランマになったからなのかも。んん-。

ユージン:ええと、順番に聞こうか。君は取材とか講演がきらいだったの?

キャリー:そう、そうね、でも別に嫌いって程じゃないわ。私があんまりきちんと喋れないから、時間の制限があるお話の場は苦手というだけなの。あとね。

ユージン:うん。

キャリー:私さぁ、あ、「さぁ」とか言ってごめんなさいね。私の作品を愛してくれる人ほど、私の事を……なんていうんだろ?ユージン、私のことどう思ってた?

ユージン:そりゃあ、マドンナさ。こう、いつまでも少女のように睫毛が透明で……でもこれは実際そうだけどね?

キャリー:ありがと。そう、時々ファンレターがくるの。女の子からよく来るのよ。時々男の子からも。そこに、私への幻想がたくさん籠っているのが昔は怖かったの。

ユージン:ああー、そういうイメージの前にじっさいの自分をさらけだすって、こわいよね。

キャリー:そう。すれ違う人みんなを嫌いになりそうなくらい、世界からいなくなってしまいたいくらい。

ユージン:ごめんね、僕も昔、君にそんなファンレターを送ったかも。

キャリー:ううん。でもあるとき私思ったのよ。「彼らだって、きっと実際のキャリー・ランジュイにこの言葉を贈っているわけじゃないわ。彼らの中にできたミニ・シアターで、私の作品を上映中に、思わず出た言葉なんだわ」って。この言葉は私の為にあるんじゃなくて、彼らが自分のためにしたためた言葉。大事にしてあげなくちゃ。ってそう思ったの。

ユージン:うわぁ。感動してる、今

キャリー:ふふ。私も感動した、そう思えた時。涙が流れたわ。そして次の作品には巻頭に、「これは、あなたのためのミニ・シアター」と書いた。

ユージン:そうなの!?そんな素晴らしい理由だったなんて……「あなた」なんていうから、てっきり僕は君にアツアツな恋人が恋人がいたのかと……みんな僕の失恋を笑うなよ!

キャリー:ふふふ。

ユージン:というか、その作品が君の二度目の大ヒット、『サイン』だよね。僕はあの作品がこの世で何よりも好き。

キャリー:あら。『ライラインザクローゼット』じゃないの?

ユージン:それも世界一だよ。さっきの、自慢していい?
キャリー:いいわよ。

ユージン:さてと、ここでひとつ僕から自慢があるんだけど!『ライラインザクローゼット』初版本にサインをもらったんだ。この作品がすごいのは、四十年前の発行からいまも若者の心をつかみ続けていることだね。これは僕の肌感覚だけど……

キャリー:ええ

ユージン:うん、僕の感覚ではさ、当時はこう、闘争的な小説が多かったよね。女流作家は特にね。セックスや偏見や、戦争。そういうものをノンフィクションに近い形で取り上げて、時には何人ものリアルを暴露していたよね。

キャリー:そう。当時はみんなが主張することが必要だったのね。まだ今ほど色々な事が理解されていなかった。例えば、レイプされたことを訴えても、みんな離れていくだけで誰もきかなかった。それがおかしいことだって、みんなは今知っているわね。でも、それが当時はわからない人が多かった。

ユージン:んー教育の至らなさだな。恥ずかしいことだ

キャリー:とにかく当時は、主張しないと、「無い」ことになってしまったの。今でもそういうところはあるかもね?

ユージン:そうだね。僕たち一人一人はとてもちっぽけだ。せめて訴えやすい場所をたくさんつくっていきたい。

キャリー:うん、本当にそう。えっとね、私、うまくなかったの。主張するのがね。『ライラインザクローゼット』はそんな私の素直な気持ちだった。クローゼットに籠ってしまう小さなライラ。

ユージン:僕思うんだけどさ、あっ、これは僕の考えね。君たち、キャリーも、違うと思ったらそう言ってほしいんだけどね。表現って必ずしも思想じゃない。ね?赤です!白です!いいやピンク!ってハッキリしなくても、パレットの上で混ぜるか混ぜないか迷っている状態でもいいんじゃないかって。思想ができるまでのグチャグチャな状態を吐きだす場でもあるんじゃないかな、表現って。んー、表現。芸術って言ってもいいかも。

キャリー:あー!考えたことなかったけど、それはすごくなんていうか、とても理解がある考えね。書いている側からすると、いっつも思うの、これでいいのかなって。これを発表するのは適切なのかなって。

ユージン:芸術が消えてなくならないのは必要とされているからだよ。自信を持って発表してほしいな。

ユージン:でも、こういうことが―つまり思想なき芸術もアリだってことが言えるのも、今だからかもしれない。昔は本当に通用しなかったね。主張できない人々は耐えるばかりだった。聞こえないから、視えないから、「無い」ことにしちゃいけないよ。むしろ認識できない自分の愚かさを見つめるべきさ。

キャリー:そうね。世の中のすべてを知っているのは神様で、私たちにはすべてを知る事なんてできないけど、それでも。目を逸らしてはいけないと思う。

ユージン:まさに。それで、話がそれたけど『ライラインザクローゼット』の話だったね。

キャリー:あ、そうね。主張するのが苦手っていったよね。私、恵まれていたと思うの。当時の私には若さがあり、表現があり、友人がいて、読者がいた。そして私の使う言語はこの国のメインの言語。だから殊更に主張しなくても、みんな私の言葉に耳を傾けてくれた。恵まれていたの。でもそうじゃないたくさんの人達のことを考えるとき、私はクローゼットの中でわけもなく泣いた。それがライラインザクローゼットの原点だったのかもしれない。なんだか話がぐちゃぐちゃになったけど、当時そんなことを思ったな。大きな声で主張することができないで、耳も傾けられないで、消えていく声のことを思っていた。

ユージン:なるほどね。

キャリー:さっきのあなたの考えを聞いて思ったんだけど、私たち表現者は、いいえ、政治家もそうだと思うわ。すべて他人に何かを示す人には共通の苦しみがあると思う。

ユージン:おっ、それってどういうこと?

キャリー:立ち位置を明確にすれば他人に自信を持って言えるし、信頼も得られるでしょう。でも、いつか立ち位置を修正する時がくるわ。だって、いつもいつまでも正しいことなんてないんだから。

ユージン:本当にそう。教師なんてまさにそうだよ。今数百人に教えている教科書の内容を、いつか「ごめん、あれは間違ってました」って言わなくちゃいけない日が来るんだ。おそろしいことだよね。

キャリー:えー!そうなの。

ユージン:そう。僕たちみたいにずっと学んでいられる人は一握りだ。みんな、自分の学んだことを正解だと思って生きていくわけだけど、ある時それは間違いだって言われるんだよね。だから学びは細々とでも続けた方が………って話がそれたから戻そうか。

キャリー:とっても興味深いけど後で聞くことにするわ。そう、正しいことって変わるの。私は昔ジョークで済んだことがタブーになるのを何度も見てきたわ。逆もね。だから、いつか立ち位置を見直す時が来るの。だけどその時、自分を信じてくれていた人達の信頼を損ねるのよね。あと、自分の。

ユージン:自分の?自分が自分の信頼を損なう?

キャリー:これはスタイルの話なの。流儀ね。あー、あんまりいい例じゃないけど、ずっと裸体を作ってきた彫刻家が、ある時宗教を変えて、裸体をタブーにするようになったとするわよね。そうすると、彼の作品は服を着ることになるわ。着衣の作品を見て、彼は自分のスタイルが破壊され、そこに良さはもう無く、彼の芸術の意味が死んだことを知る。

ユージン:うわぁ。

キャリー:ということがよくあるの。

ユージン:あるねぇ、うん。教師を辞める人もそれに似たことを言うよ。

キャリー:そう、話すだけで心が痛いわ。『ライラインザクローゼット』を書いた頃は、周囲に馴染めない、デモに行くと耳をふさぎたくなる私がとてもとても弱く情けなく見えて、苦しんだ。その後『サイン』を書くまでの間はファンの人の期待と世間の流れを見過ぎて自分を見失った気がして。私は本当に苦しんだわ、自分というちっぽけなボウルの中で。世のきょうだいたちの苦しみに比べれば小さいものだけど、でも苦しんだ。

ユージン:待って。涙が出てきた。

キャリー:泣かないで、あなたは素晴らしいのよ、先生。

ユージン:スゥーッ、はぁー、ありがと。君の今の話をきいていて、ただ、なんていうか昔の心を思い出したんだ。自分だけの小さな苦しみを抱えていた時の。

キャリー:そうなんだ。同じ苦しみを抱えていた人に届いてよかった。

ユージン:つまり君は当時の闘争的な表現にはあまりなじめなかったってこと?

キャリー:そうなの。どうしても書けなかった。書くと嘘になっちゃうの。だから無理に書くのはやめた。

ユージン:結果、君は主張しない若者の味方って呼ばれるようになったね。それについてはどう思った?

キャリー:ううん、味方っていうのはちょっと違うと思ったかな。私のことばで代弁したり弁護したりすることはできないからね。

ユージン:耳が痛い。ごめんね、何回か授業で君のフレーズを引用した。

キャリー:あら、いいのよ。私も昔のひとのフレーズを借りているから。なんていうか、ことばを借りてきた時点で、それはあなたの責任でしかなくなるってこと。私の手を離れたら、もう私のものじゃなくて、スピーカーのものになる気がする。

ユージン:なるほどね。だから盾にもならないし剣にもならないって感じかな。

キャリー:あなたって本当に本を読んできた人なのね。特に小説を。

ユージン:ん、そうだよ。特に君の本をね。わかっちゃうかな。

キャリー:わかる。言葉の受け取り方でね。ありがとう、私のことばをあなたにうけとってもらえてうれしいわ。

ユージン:お~!もうぼくはきょうでしぬのかもしれない………!ありがとうMYGOD

キャリー:あ、そうだ!

ユージン:ンんッ(咳払い)なに、なに。

キャリー:わたしおばさんだから昔の話をしてもいいわよね?

ユージン:もちろんだよ。

キャリー:私はね、お金持ちの家だったわ。そして母も父もとても真剣に生きている人だった。母は、父と別れることを決めてしまったけど、でもそれもよかったわ。父とは友人に戻ったのでしょうね。つまりね、私幸せな人なの。不思議なことだけど、幸せによって私、とても恥ずかしい思いをするの。

ユージン:えっなんで?

キャリー:ホームレスのトミーにターキーパイをおすそ分けしたら、「お前はイエス様じゃないから要らないよ。お前が金をばらまいている間に、俺は天に財産を積んでいるんだ」って言われたの。ルームメイトだったムウには、「あなたが最近気に入っているヘアスタイルは、私の民族固有のもので、あなたのような美しい人がするものじゃない。それは私の民族が屈辱を共有するためのものなの。あなたにしてほしくはないわ」と言われた。

ユージン:ああー

キャリー:どう。どう感じた?ユージン。

ユージン:………そうだなぁ、相手にも喜んでほしくてしたことが、ある時断られるわけでしょ?しかも尤もな理由で。うーん。つらいね。ハッとして、泣いてしまうかもしれない。あれだね、今思い出したのは、「魔女のパン」で、バターをパンに塗った彼女のこと。

キャリー:まさにそうね。彼らの眼はとても美しくて、私はとても恥ずかしかった。私、彼らが柔らかく私を拒否した理由がわからなかった。パンはいつでもおいしいし、美しいヘアスタイルならやってみたいじゃない。ちっともわからなかったわ。だからよけいに恥ずかしかったのね。

ユージン:いまでも、わからないかも。

キャリー:そうね。いまでもちょっとわからないかも。でも、相手を悲しませる一歩手前だったことはわかるのよね。

ユージン:そんな体験をしたときは、落ち込むの?

キャリー:落ち込む。ああ、キャリーの恥さらし!って。あ、これ、私の魔法の言葉ね。「キャリーの恥さらし!」

ユージン:いいね。明るく言えて最高。

キャリー:恥ずかしい思いと言うのは、いつでも人生で一番意外なタイミングで訪れて、私をひどくうちのめすものだった。

キャリー:でも、その恥によってわたし、世界が広くなった。床が抜けて、壁が倒れて。子供の私に戻ったような驚きの中にいるの。

ユージン:子供のような?

キャリー:うん。そう、今日はたくさんの子どもたちがいる。私、あのくらいの頃どのくらいの恥をかいて、どのくらいの悪いことをして、どのくらい人に迷惑をかけたかしら。

ユージン:僕もね、たまに思うんだよね、僕赤ん坊の頃どのくらいの人にウンチつけただろうって。

キャリー:そう、そうね、ふふ。そんなことを考えて耐えられなくなる時もあるわ。そんなとき、この呪文を唱えるの。「キャリーの恥さらし!」って。

ユージン:そうするとどうなるの?

キャリー:んー、しばらくして、「OK!」って思うかな。それだけ。

ユージン:だけじゃないよ。すごくデカいよ。

キャリー:そう実際「OK!」はデカい。「キャリーの恥さらし!」の呪文がなかったら私、今頃作家やってないわよ。

ユージン:僕その魔法つかうよ今度から。「ユージンの恥さらし!」って言ってもいい?

キャリー:ぜひぜひそうして。長く教育にむきあってほしいわ

ユージン:よしっ。OK。

キャリー:あのね先生。ユージンだけじゃなくて、そこにおられる先生方。あなたたちに秘密の話があるの。聞いてくれる?

ユージン:おっ、なんだろう。きついお叱りかな。

キャリー:違う違う。ただ聞いてほしいの。

キャリー:私の娘の友達がね。この間私のところでお茶をしていったの。うちのお茶会はとっても長いのよ。お泊りが絶対なの。だからみんな昼からパジャマだったんだけど、それで、一人の子がパジャマにお茶をこぼしたの。そしたら黒い染みができるでしょう、それを見て、悲しい気持ちになったのだって。泣き出してしまったの。

キャリー:どうして泣くの、おねしょみたいなパジャマはきらい?って聞いたら、「今はこんなに楽しいけど、こういうことを積み重ねて大人になっていく、そんなわたしたちの未来は暗いということがお茶が冷えるのと一緒にわかってきてつらい」と言ったの。

キャリー:みんな泣いたけど、私が一番大きな声で泣いた。手を繋いで眠ったわ。

キャリー:こどもたちに「わたしたちの未来は暗い」と言わせないで。嘘でも、明るい未来を語りましょう。ティーは冷めるし、子供はおとなになるし、若い人は老いるけど、でもだからって「好きな事できるのは今のうち」「今どきの若い人は」なんて言うのは、悪い魔法よ。呪いだわ。私たちは良い魔法使いであるべき。

キャリー:いくら世の中が絶望に満ちていようと、若い人たちと、老いていく私たちの未来はイコールではない、そう思って私たちは語らなくてはなりません。君たちの未来は明るいのです、と。

キャリー:そうでしょう、ユージン。この世にはじめにあったのは、光です。若い人はみな太陽のようです。どんなに黒雲が立ち込めようとも、こどもたちが進めば、その先は晴れます。それを信じて星のようにささやかに光で導くのが先生方です。先生、あなたは最高よ。

ユージン:うん。そうだね。ありがとう。「自分なんかが教えること、ないよ」って、いつも思うんだ。僕はまだまだ物を知らないし、間違ったこともするし。教師って、他人という鏡に映して自分を問うていく、険しい仕事だと思っていたよ。でもこんな僕でも世の光になるんだ。本当に勇気が出たよ。

キャリー:大人同士のヒソヒソ話をしてしまいました。ごめんね、ヤング達。

キャリー:いつか今話したようなことが、あなたたちを救うこともあるかもしれないけれど、でももっと先の事よ。忘れちゃって結構!

キャリー:さてあなたがたが今日聞いたお話は、どんなお話?あとで、大いに話し合ってください!私の話の最後は、私からのプレゼント。

ユージン:(手を叩く)なんと!キャリーが君たちにトリプルペパロニピザとコーラを用意してくれた!

ユージン:みんな、素晴らしいプレゼントをしてくれたキャリーにお礼の心を込めて、大きなおおきな拍手を!

0:(生徒の大歓声)

ユージン:キャリー!最高の話を本当にありがとう!彼らに、最後に言い残したことは?

キャリー:えーっと、みんなで何かしておわりたいな………

ユージン:あれは?君の呪文

キャリー:ああー!それじゃ、「キャリーの恥さらし!」って叫んで、今日はさよならしましょう!卒業式らしく帽子を投げてみる?

ユージン:まぁ卒業はこれからだけど。おやおや、でもみんなやりたそう。俺もやりたい!俺は帽子がないからカツラを投げるね。……おい!笑ってよ!「oh……」じゃないよ!僕はこのつるつる頭に誇りを持ってるんだぞぉ!

キャリー:ごめん、あたしわらったよ。あなたって最高。………そうね、あたし帽子がないからこのブローチを投げる。待ってね……とれない、ちぎったわ、OK。

ユージン:それじゃスリー、ツー、ワン!

キャリー・キャリー・生徒たち:「キャリーの恥さらし!」

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