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夕陽の中から

「……誰か来る……」
「え……?」
 こいつ頭がおかしくなったのか……? 胸がひやりとした。
 恐る恐る顔を向けると、まぶしい。やつは、水平に金色の光を突き刺してくる夕陽に顔を向けていた。くしゃくしゃに薄汚れた、伸びかけの髪の後頭部。夕陽の中を、右腕を上げて光を遮りながら、じっと見ている。
 そんなわけ無い。俺とこいつ、二人きりしか、居ない……居なかったじゃないか、この何日か。もう、何日過ぎたのかも、思い出せない。
 都市だけが、きちんと残されて、僕ら二人以外は誰も居ない。
 こいつとは初めて会った。歳は同じ14歳。だけど年下みたいに、気が弱くて、でもよく笑う。変なことばかり言う。時々ぼんやりと空を見ている。
 頼り無く、何を考えているか掴めないやつだけど。誰も居ないよりはマシ。一人で残されるなんてごめんだ。ずっと、都市に誰か居ないか、二人で探したけど。気配すら無かったのに。
「誰も居ないよ……」
「……。居る……よ。呼んでる」
「何……、何も聞こえないって……」
「どうして? 聞こえてないの?」
 眩しい光に魅入られたまま、こっちを振り返りもしないで、こっちをぐさりと傷付けることを言う。
 やつが遠くなったような気がした。ぎらぎらと光って手を伸ばす金色の光線に引き離されたみたいに。
「……聞こえないよ……。そんなの聞きたくない……」
「だったら。仕方ないね」
 ! どういう事だよっ!
 息を飲んで、追いかけた。本当にあいつが遠のいた気配があって。
 だけど、追いかけたつもりなのに、距離が縮まらない。なぜ?
「……仕方ないって、どういう意味だよ……」
「仕方ないよ。受け入れられないなら。
 僕、昨日も言ったよ。きちんと、今、を見なくちゃ、って」
 ……何を言って……。
「先へは、進めないよ……。僕、もう行くね」
 は? また訳のわからないことを言って。受け入れる? 今?
 見えてるよ。お前と俺。だけ、だって。
「ううん。もう、違う」
 ……違う……?
 目の前が闇になる。目を開けると、硬いコンクリートに座り込んでいた。
 夕陽が落ちて、光はほんの僅か。また夜が来る。
 今夜は、一人ぼっちの。先に進めなかった、自分一人の。
 頬がなぜか冷たかった。手の甲でこすると、涙の跡だった。
 待つさ。夜を越えた、夜明けを。昼をやり過ごして、傾く太陽を。
 あの金色の日差しの矢の中で。受け入れてみるさ。
 今度こそ。弱い自分を。
 そうしたら、お前の声が聞こえる、かな?
  呼んでくれるよな?

※ このページは、「一枚の画像からひとつのお話を」という企画のページです。





 


 

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