京都南座三月花形歌舞伎『女殺油地獄』
「えらいモンを観てしもうた…」これが率直な感想。河内屋与兵衛が油屋の女将お吉を殺そうとする修羅場(刃傷沙汰)のシーン。芝居の初めはゆるゆると、中盤以降は少しテンポアップし、最後にこの激しい修羅場が展開される。刃物を持って渡り合う二人の役者。真夜中のシーンだけに舞台は薄暗い。そんな中で息が合わなければ、嘘臭い展開になってしまうだろう中、こぼれた油で体(たい)の自由がまともに効かず滑りころがりし続ける二人。狂気の与兵衛が持った刃物が、何度もすんでのところでお吉をとらえきれずに宙を切る。そして最後にはお吉の息の根を止めてしまい、大金を持って逃走する。人間の欲望に坑がうことのできない「業」を描き出した近松作品が、見事に、そしてリアルに迫ってきた。
観終わった。なんだろう、この疲労感は。視覚と聴覚に訴えかけられたのだが、嗅覚さえも修羅場にいるかのような錯覚さえ覚えた。
ここにはお江戸の錦絵を描くが如く、立役者が見栄を切り時間を停止させるという、自分の中にあったステレオタイプの「歌舞伎像」ではない歌舞伎があった。大阪へ向かう京阪特急の中でも、まだどこに心の着地点を置けばいいのか見つけられずにその夜のあいだ、モヤモヤしていたのでした。
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主にお笑いと音楽に関する、一回読み切りのコラム形式になります。時々いけばな作品も説明付きで掲載していくつもりです。気楽に訪ね、お読みいただければ幸いです。