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お魚の尾ひれヒラヒラ



 パート先のはなし。

 夏休みのお預かりが始まった。勤務は朝から5時間、週に一回。時間は、いつもの2.5倍。使用教室が変わり、2クラス合同になる。

 だから、初めて会う子もそれなりにいる。名前と顔、雰囲気を覚えようと、わたしは何度も名前を呼ぶ。そうすると、覚えやすいんだ。対して、子どもたちは、すぐにわたしを覚えてくれる。「小林せんせーい!」「はぁーい!」

 この日は、工作でお魚のモビールを作った。お魚は、テッシュを丸く握り、お花紙で包んで、輪ゴムでしばって作る。目ん玉をつけて、ヒレや飾り付けもする。お花紙は柔らかで、強く引っ張ると、すぐに破れてしまう。扱いにコツがいる。

 各テーブルをまわり、サポートした。どの子も奮闘している。声がかかるたびに、丁寧に教える。出来ないところは手伝う。

 お花紙、とてもいい機会になったなぁ。こうやって、いろんな素材のもので工作していくのがいい。子どもの頃から、いろんなものに出会ってほしい。提案されたお仲間、さすがだ。

 そうして、みんながあらかた出来上がった頃、ある子が赤いお魚を手に取って、じっと見つめているのに気がついた。初めて会う子だ。

 出来ているけど、お魚の尾ひれがほとんど取れてしまってる。側でしばらくその様子を見て、「尾ひれだけ、つけ直してあげる?」と聞いたら、コクンって彼はうなずいた。

 それで、赤いお花紙をお魚のおしりに巻いて、尾ひれにした。つなげるところは難しいから、わたしがやって、後は、バトンタッチ。ボロボロだった尾ひれが、またヒラヒラに戻った。ちょっと、彼は笑顔になって、それからは、わたしが話しかけれは、話してくれるようになった。

 我が息子や娘タイプの子だなって、思った。まぁ、子どもの頃のわたしもそうだった。アウェイな場所だと、ポーカーフェイスになってしまうし、自分を出せないし、だから、たくさんの子がいたら、埋もれてしまうんだよね。おとなしいし、問題と言われるようなことはしないから、そのままになっちゃうことが多い。

 わたし、子どもの頃、それがさみしかったな。何もこちらからは言えないから、しかたないって思っていたけど、話しかけてくれたら、話せるんだよね…それに、決して、何にも考えてないわけじゃない。ただ、言えないんだ。そして、静かに困っていたりもする…

 こういう子がいたら、なるべく話しかけにいく。もちろん、その子が集中していたり、嫌そうだなって、少しでも感じたら、そうはしない。でも、あなたのことも気にかけているよって、何かあったら頼ってねって、静かに思っている。それが、なんとなく伝わっていたら、いいな。お守りみたいに、なったらいいなって、願っている。



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