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今日の一冊vol.2≪キキ・ホリック≫


ここまで冒頭と終盤の印象が変わる作品は久しぶりだった…。
いや〜こういう方向からくるの!?とびっくり!

さて今回の作品はこちら↓


自分の森先生の作品デビューは「僕が恋したカフカな彼女」で、そこから黒猫シリーズで一気にどぶんしたのだが、これは、少なくとも私が今まで読んできた作品の、どのジャンルにもカテゴライズされないものだと思う。

読了後のあと味は、決して良いものとはいえない。
作中に出てくる大人がよくもまぁこれだけ集まったな!?というくらい人間性に問題のあるひとたちばかり。主人公に不安定な愛憎をぶつける両親、事なかれ主義な担任etc。
その只中にいる主人公を思うと、胸が苦しくなる。
そんな波留花の心の拠り所が、「言の葉」をノートに綴ること。

作中、波留花に向けられた台詞に、次のものがある。

君は君の意識をすべて言の葉にしている。
それはすごいこと。

生活していく中で、自分の内ー思考や感覚ーを言葉として世界へ産み落とす割合なんて、たかがしれている。自分さえその存在を知らぬまま喪われるものもあるだろう。
あとがきで森先生が言及されているが、「キキ・ホリック」では、実に感情が細やかに表現され、深く掘り下げられている。
主観的でありながら、感情や感覚が極めて客観・俯瞰的に表現されている。そこに「植物」という要素が加えられ、この世界の中で実にしっくりと馴染むのだ。

適応した土や環境に植物を移し替えるように、ひとも自分の居場所を求めている。相通ずるものがないようで、前述のように共通する点もある。

だからこそひとは、木々や花を愛でているのではないか、と、そんなことまで考える。

道を進むに連れ、変遷していく景色を楽しんだ、そんな作品だった。

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