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煙を眺める

今年1番の素敵な物を買った。

お香を焚くと煙突から煙が立ち昇るお香立て。素材は、建材として使われるモルタルで、木型に流し込んで作られている。表面には、木やアクの独特の風合いを残している。

佇まいにあたたかみがあって、置物としても素敵だけれど、この煙突から自分の好きな香りの煙が立ち上る光景は、言葉にならないやわらかい癒しがある。

学生の頃に、お香立てをデザインする課題があった。それからお香っていいなぁと思うようになって、家でも焚くことが増えた。お香の香りはもちろん好きなのだけれど、それと同じか、あるいはそれ以上に、煙が揺らめくところを眺めるのが好きだ。ちゃんとぼーっとできるからだろうか。

たしかにそこにあるのに、形はなくて、緩やかに姿を変える。自由に流れたいほうに流れていって、ふわっと消える。そんな淡い煙にほっこりする。

だから、当時のその課題では、煙の流れを可視化してデザインするお香立てを作りたかった。色んな形の空間に煙を閉じ込めて、どういう造形にどんな空気の流れを作ると綺麗に煙が立ち上るのか実験した。

僕は、砂時計のような造形を考えたのだけれど、実際にやってみるとなかなか難しくて、思ったようには仕上がらなかった。こんなに小さくてシンプルなプロダクトでも、空気と煙の流れをデザインするのは思いのほか大変だと感じた。

だから、このお香立てが、より魅力的に映るのかもしれない。思わず家の中の暮らしを想像してしまいそうになる。そのくらい、煙突から立ち上る煙は美しい。

自然のような本来人の手には追えないようものを主体としつつも、そこに人の優しい手が感じられるプロダクトが好きなのかもしれない。偶然や、形ないものがデザインされたプロダクトとも言えるだろうか。

そんな素敵なお香立てを受け取ったのは、金曜日の夜、仕事から帰ったときだった。丁寧に梱包された箱の中には、手書きのメッセージが添えられていた。思わず嬉しくなって、僕も手紙を書いた。

贈り主の欄に書いてあった住所に手紙は送った。届いているだろうか。でも届いてなくてもいいや。

煙をぼーっと眺めがら、物思いにふける秋の夜長である。

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