「エコほど素敵な商売はない」ノート

第2回「腐葉土ビジネス」

エコノートの2回目は「腐葉土」による土の消失防止である。畑や田の土は永遠に存在するものと思いがちだが、このまま無茶な農業を続100年のうちに、、世界の畑の16%で表土の30㎝が失われてしまうという、かなり確かな予測がある。
また、「土」は「non-renewwableresouce」とも言われるように、再生がかなり難しい資源である。長い年月をかけて石が分解され、動物の死体などの有機物と混ざり合って新たな土が出来なくはないが、その再生のスピードよりも、無理な農業や風や雨などの自然現象によって消失するほうが、はるかに速い。つまり何もしなければ地球上の「土」は消失を続け、現在80億人といわれる人間の食糧生産は厳しい状況になる。一部の野菜は水耕栽培で生産できるという人もいるが、80億人もの食糧を賄えるわけではない。

腐葉土に関心が高まった要因

農業で植物を育てるためには、カリウム、チッソ、リンが含まれる土が必要だ。連作等でそれらの栄養素が失われると、それを補うために、化学肥料が大量に投入され「地力」がますます弱まり、最終的には化学肥料ではカバーできなくなり、やがてその土地は荒廃地になってしまう。
そうならないためには、穏やかな循環が必要である。たとえば自生した里山の柿や栗の木は人間が栄養素を与えなくても、落ち葉や枯れ枝、下草などが微生物によって分解され、前述の栄養の3要素が少されるためされるため、秋にはその年の収穫がもたらされる。大量生産する必要がなければ、十分それで循環するのだ。つまり、自然の営みの中で、日本の大地では毎年全国各地で植物の枝葉が腐葉土となり、それが植物が育ちやすい環境を作るのだ。いいかえれば腐葉土は植物を育てる土を守る掛布団のような存在といえるかもしれない。

剪定した枝葉の量は膨大

そして、腐葉土に目が向いた一つの要因は、私が70歳にして植木の剪定の仕事を始めたこと。自分の住む町のシルバー人材センターに登録し、植木班に所属して、植木剪定の見習いになったのだが、実際に剪定作業にかかわってみると,処理された枝葉の多いことにびっくりした。枝はひもでくくり、葉っぱや枯れ葉は45Lの大型の袋に詰めるのだが、広い庭の家では15束と10袋もの剪定材が出る。私の市では植木班は7グループ稼働しており、ならすと1日3か所の個人宅で作業をし、剪定材を出している。これらは、一部がバイオマスの燃料に加工されるが、大部分は焼却炉で燃焼処分される。冬になれば落葉樹は葉を落とし、春になれば若葉が芽吹く自然の営みを70年も見続けてきたのだが、植木の手入れによってこれほどまでに枝葉の処理材が出ることは理解を超えていた。
つまり、自然の循環の中で樹木の苗木が育ち、それが植えられて若木から老木へと成熟していく。その過程で里山では成木が落とした葉は、時間とともに微生物が分解して腐葉土となり、土の上に降り積もって大地を守る。まさに自然循環が行われているのだ。庭に植えられた樹木は苗木から成木に過程は同じで、その中で樹木は育ち枝葉を広げ、葉を落としたり業者の手が入って剪定材になる。しかし、家庭や事業所での植木の循環は、最後の最後で焼却という暴力的行為で断ち切られる。地球温暖化を防ぐCO²削減の文脈の中では,CO²削減に貢献していた植物が最後になって、焼却処理されることによって、CO²を増大させるという逆転が起こるのだ。

「バイオネスト」による自然循環

こうした矛盾を解決できるいい方法はないかと考えていた時、「バイオネスト」に出会った。「バイオ」はご存じの通り生命や生物を表す接頭語であり、「ネスト」は鳥の巣のこと。つまり「バイオネスト」とは、鳥の巣のように見える、微生物による草や樹木の葉の自然循環ツールのこと。例えば、ある家庭の庭木を剪定したとき、枝葉の葉を落として枝だけにし、それを使って円形状に組み上げていき、鳥の巣のようにし、その中に先ほど落とした葉や細かな枝、さらに庭に積もっている落ち葉を集めて積み上げる。こうすると、時間の経過とともに微生物のよって分解され、ふわふわの腐葉土になっていく。そうした腐葉土は昆虫の幼虫の恰好の住処であり、最初はカナブンから、やがてカブトムシやクワガタが増え、多様な生物が豊かに存在する植物の寝床になっていく。
つまり剪定した枝葉や落葉樹の落ち葉を集め、バイオネストを作って、その中で腐葉土化し、それを資材とすることで、植物の循環は完結する。ひとつの市域で考えれば、シルバー人材センターや造園業者、公園の樹木剪定や掃除をしている業者やボランタリーグループが集めた枝葉や落ち葉を、バイオネストに持ち寄り微生物に処理してもらう。バイオネスト施設には,3~5基のバイオネストが用意されており、熟成1年から5年物の腐葉土になっている。処理年数が短かすぎると枝葉が十分に消化されず、そのまま残っていることもある。そこで時間がたったものから腐葉利用してもらうためには、複数のバイオネストが必要になる。
こうして剪定した枝葉や落ち葉を熟成させた腐葉土を、供出してもらった家庭の植木の根本に戻し、土の「通気性」や「保肥性」「保水性」を保ち、枝葉を分解する際に生成された養分で、庭の土壌改善を図ってもらえば、その庭の緑は豊かになり柑橘類や梅、ビワなどの実はおいしくなる。園芸店やホームセンターでは腐葉土は販売しているので、それと同等の価格で引き取ってもらえば、腐葉土を作るコストになる。それにプラスして、各区市町村が剪定枝葉や落ち葉の焼却処理にかかっていたコストの一部を腐葉土づくりに回してくれれば、腐葉土づくコストが出てくるので、有償のアルバイトなども雇用することが出来る。

耕作放棄地の有効活用になる

しかし、都市化した区市町村では適当な空き地がなく、必要なバイオネストを充分に作ることが出来ない場合もあるだろう。その場合は、最近増えすぎて統計を取るのをやめてしまった耕作放棄地を有効活用するというのはどうだろう。数年前には埼玉県と同じくらいあるといわれた耕作放棄地は、今ではもっと増えているだろう。
この耕作放棄地で家庭や公園、学校などの緑地で剪定された樹木の枝葉をバイオネストで腐葉土に熟成し、低価格化を実現して、庭木や畑の土壌をフカフカにすることで植木や野菜の健康性は増す。
これは雇用にもつながる。例えばシルバー人材センターの事業として考えると、剪定した枝葉を一度作業場に集め、そこでネストサークルにする枝と葉に分ける必要がある。それを農地中間管理機構(農地バンク)を介して借りた耕作放棄地まで運び、腐葉土にする葉や落ち葉を、バイオネストの真ん中に積み上げていく。作業場に持ち込まれる剪定枝葉は、想像以上のかなりの量になり、枝と葉を分ける人員も毎日数人は必要になる。
そして熟成した腐葉土を袋詰めして商品化するためには、製造ラインが必要になるので、袋詰めは専門メーカーに業務委託したほうが合理的。ただし、小型コンテナーを持ち込み必要量を購入する人には、量り売りする。腐葉土の効果が浸透すれば、量り売りユーザーは増える可能性が高い。
また、剪定枝葉から腐葉土への循環が一般化することで、その腐葉土を住処とするカブトムシやクワガタなどの昆虫が増え、耕作放棄地にバイオネストを設置した場所が、子供たちの人気のスポットになることも考えられる。しかし、生物多様性は建前としては理解しても、現実に自宅に虫が飛び込むと大騒ぎする人は多い。したがって、これを売りにすることは熟慮が必要なので、腐葉土の次の魅力づくりにしたい。

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