企図
雨の打ちつける音がする。
その一定のノイズが段々と近付いてくる。脳が覚醒していくのを感じる。まだ眠っていたいが、きっともう無理だろう。
いつものように諦め、うっすらと瞼を開くが、暗くぼやけて何も見えない。
ぎゅ。
何かが左手を握った。はっとして横を向く。そうだ。今日は、いつもの朝とは違うのだ。
隣には、穏やかな表情で眠る彼女がいる。それだけで、心が安らいだ。いつの間にか、雨音が気にならなくなっていた。もう一度、眠れる気がした。
『この子は幸せだろうか?』
少し間の長い瞬きをしただけだった。
ノイズが耳を塞ぐ。頭が一杯になる。胸が重苦しくなる。
彼女の綺麗な顔が、自分のせいで崩れていくのが頭に浮かぶ。だめだ、泣かないで……。
彼女には幸せになってほしい。笑っていてほしい。そのためには――。
この手を離したら、彼女は怒るだろうか。悲しむだろうか。でも、彼女は自分には勿体ないくらい、いい子だから、
「……俺がいなくても、」
そうだ。何も心配することはない。そもそも、心配するなんておこがましい。人を幸せにできる能力なんかないくせに。昔から、そうだったじゃないか。邪魔なんだよ。
恐る恐る、隣に目をやる。
彼女は綺麗な顔のまま、眠っている。
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