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プラバト・パトナイク「IMFがウクライナを西側諸国の属国にした理由」

MARCH 23, 2022 BY NEWS WIRE
https://21stcenturywire.com/2022/03/23/how-the-imf-turned-ukraine-into-a-bankers-vassal-statee/

プラバト・パトナイク Prabhat Patnaik

 IMFが果たす一般的な役割に加えて、アメリカ政府の冷戦目的を支援するという、特殊な役割をIMFが果たす場合がある。ウクライナの場合、首都圏資本 (metropolitan capital) にウクライナ経済を開放するという一般的な役割とは別に、ほとんど最初から、この特殊な役割を担ってきたのである。

 ヴィクトール・ヤヌコヴィッチ氏がウクライナ大統領だった2014年以前、同国は、EUとの貿易統合の一環としてIMFと交渉を行っていた。IMFはウクライナに対し、NATOへの加盟を企図するウクライナから生じるロシアの安全保障上の懸念を請け負うよう要請したが、このことは、メディアでも広く取り上げられている。しかし、IMFとウクライナの関係は、これと並行する問題であるため、あまり注目されていない。周知のように、IMFは反労働者階級・反人民「緊縮財政」措置を通じ、世界中の経済を「投資家に優しい」ものにし、大都市資本の浸透のために「開放」する。このような「開放」は通常、その国の天然資源とその土地も、大都市資本に乗っ取られることを含む。この目的のためにIMFが使用するからくりとは、国際収支の支援を必要とする国々に融資をする際の、「条件」の賦課だ。

 これがヤヌコヴィッチの許されざる「罪」となった。IMFとの交渉を打ち切ることは、新自由主義体制を押し付けようとする国際資本だけでなく、西側帝国主義勢力、特にアメリカ、ひいてはNATOのヘゲモニーから逃れることに等しかったのである。つまり、NATOとIMFは、それぞれが独自の活動領域で、独自の目的を持って活動する別個の組織ではなく、類似した、重複した目的を持つ組織と見なされた。米国は、ヤヌコヴィッチの冷静さが、IMFではなくロシアを頼ったことに腹を立てた。それ以上の「損害」を抑えることを決定し、米国が支援するクーデターによってヤヌコヴィッチは倒された。それはクーデターに向けて反ヤヌコヴィッチのデモの先頭にいた、ウクライナのナチス勢力の支援を受けて実行されたのだ。これらの構成員は現在正式にウクライナ軍に編入されているが、以前は、ウクライナ国家警備隊の予備軍に属していた極右の全志願制歩兵部隊、アゾフ大隊であった。

今、ロシアの侵攻を受けて、ウクライナは再びIMFに支援を要請し、現専務理事のクリスタリナ・ゲオルギエヴァがIMF理事会に支援を勧告している。具体的な支援額や支援目的はまだ明らかにされていないが、一つ確かなことは、この地域の危機が収束した後、それがどのような形であれ、ウクライナは欧州における第2のギリシャとなるであろう、ということである。ギリシャの場合も、IMFの融資は通常の慣行よりはるかに大きかった。そのほとんどは、ギリシャに融資した欧州の銀行が資金を回収できるようにするためのものだった。そして今、ギリシャは永続的な負債の悪循環に陥っている。

IMFは、設立当初から大きく変化している。1944年にブレトンウッズで発足した当時は、それはディリジスム経済戦略の追求を前提とした国際レジームの一部だった。実際、ディリジスム介入を提唱したイギリスの経済学者ケインズと、アメリカの代表ハリー・デクスター・ホワイトが、この国際レジームの主要な立案者であった。各国が貿易管理や資本規制を行う一方で、ある国で国際収支の問題が発生した場合、その国は自国の経済を「安定化」させるためにIMFから借金をすることができた。IMFは、単に過渡的な国際収支問題(国際収支が赤字になった経済が「安定」するまで)を乗り切るために融資を行うのではなく、実際に新自由主義体制、すなわちすべての貿易・資本規制の解体、公共部門の資産の民営化、「労働市場の柔軟性」の導入(これは労働組合を攻撃するということ)を伴う一連の政策を推進している。

つまり、ディリジスト政権の促進者であったIMFが、ディリジスト政権の破壊者、そして新自由主義政権の到来を告げる道具となったのである。IMFは、国際金融資本の手中にある道具となり、世界の隅々にまでその浸透を可能にした。しかし、それは単に国際金融資本の道具であるだけでなく、この資本の背後に立つ欧米大国の道具としての役割も果たしている。国際金融資本の利益を守る一方で、それは西側大都市圏の権力装置全体の中に組み込まれるのである。

プーチンの闘いは、決して国際金融資本の覇権に対する闘いではない。彼は、国際金融資本の利益のために行動する組織による隣国の支配に反対するイデオロギー的な戦いを続けている社会主義者ではない。彼の関心は、ロシアの安全保障にのみあり、それは、ロシアがNATOに囲い込まれないことにのみ限定されている。そして、IMFの「援助」に代わるヤヌコヴィッチへの援助の申し出は、この理由によってのみ生じたのである。つまり、彼は、米国の地政学的利益の促進者としてのIMFの役割にのみ関心があり、新自由主義全般の促進者としてのIMFの役割には関心がないのである。実際、新自由主義体制が生み出す深刻な不平等、さらには絶対的な貧困は、プーチン自身が「達成」したものからそう遠くなかろう。

--著者について

プラバト・パトナイクは、インドの政治経済学者、政治評論家。著書に『資本主義下の蓄積と安定』(1997年)、『貨幣の価値』(2009年)、『社会主義の再定義』(2011年)などがある。

※訳者より当記事について
翻訳を公開した後日、掲載メディアでは、冒頭の3文が削られ編集した記事に差し代えられた。パトナイク本人の了承のもとに行われたかどうかはわからない。了解を得てのことかもしれない。
読んでわかるとおり、かなりスリリングな冒頭部である。パトナイクという優れた経済学者からこのことを学ぶことが出来て、少ない日本の読者は幸甚ではないだろうか、と訳者は思い、そのまま、編集前の文章を掲載しておく。


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