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短波ラジオで知った「世界」

 先日、東京・秋葉原の電気街にある委託販売のショップで、懐かしいラジオと「再会」をした。

 SONYの「スカイセンサー5800」。短波放送を受信することに特化されたラジオだ。

 私が中高生だった1970年代には、海外の短波放送を受信する「BCL」がブームになっていた。

BCLは、Broadcast Listeningの略。どうやら和製英語のようである。

 中学1年生の冬にお年玉を貯めて買ったのが、この「スカイセンサー5800」だった。

 最初のうちは「ラジオ・オーストラリア」や「BBC(英国放送協会)」などが日本人向けに行っている日本語の放送を受信して楽しんでいたが、次第に英語などの外国語による放送も聴くようになっていった。

 受信した内容や感想を書いて放送局宛に送ると、それぞれのお国柄を反映した美しいベリカード(Verification Card)が送られてくる。それを集めることが楽しみだった。

 高校2年生ぐらいまでの間は、教科書や参考書よりも「スカイセンサー5800」と向きあっている時間のほうがずっと長かったはずだ。それでも親からあまり小言を言われた記憶はない。

 ラジオから英語が流れていたり、航空便による返信が頻繁に届いていたりしたから、多少は勉強になっているのだろうと大目に見てくれていたのかもしれない。

ラジオ・オーストラリアのベリカード(表)
ラジオ・オーストラリアのベリカード(裏)

 海外の短波放送が学校の勉強に役立っていたかどうかは疑問だが、「世界」の実際の姿について、その一端を知ることはできていたように思う。

 たとえば、当時のソ連(ソビエト連邦)には「モスクワ放送」があった。しかし、それ以外にもウクライナには「ラジオ・キエフ」、ウズベキスタンには「ラジオ・タシケント」という具合に、各共和国が独自に国際放送を行っていた。

 中高生のときには、一つの国の中にたくさんの共和国があることが不思議だった。だが、1990年代にソ連が崩壊したというニュースに触れたとき、妙に納得することができたのは、短波放送を通じてこの国の不思議な仕組みを実感していたからだろうと思う。

 ほかにも、西側諸国から東欧に向けられた放送に浴びせられる妨害電波は「冷戦」の象徴だったし、アジアやアフリカ諸国が経済的に豊かでないことは、受信報告への返信として送られてくる郵便物の内容からも伺うことができた。

 ・・・私は今、国際交流や国際理解に関する業務に携わっている。これまで全く意識していなかったが、もしかするとその原点は「スカイセンサー5800」を通じて知った海外の短波放送の世界にあったのかもしれない。

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