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令和の「積み木くずし」

 YouTubeのチャンネルのなかには、親が我が子の様子を撮影し、その動画を定期的に投稿しているものがある。無論、微笑ましい動画もたくさんあるし、子どもが自発的に活動していると思われるチャンネルもある。

 だが、なかには親が自らの承認欲求を満たすために、幼い子どもを犠牲にしているのではないかと感じられるチャンネルもある。そこには、次のような問題があるだろう。

プライバシーの侵害
 子どもの同意を得ずに映像を公開することは、たとえ親であってもプライバシーを侵害する行為だ。また、内心では嫌だと思っていても、親にはそれを正直に言い出せないケースもあるだろう。子どもが成長してから、自分の意志に反して動画が公開されていたことに対して、嫌悪感や怒りを示す可能性があるだろう。

セキュリティ上のリスク
 子どもの写真や動画をインターネット上で公開することには、犯罪者による特定や悪用のリスクを高める危険性がある。特に、位置情報や日常のルーティーンが内容に含まれている場合には、安全上の問題が生じることが懸念される。

いじめやハラスメントの対象になるリスク
 公開された映像が原因で、子どもがいじめやハラスメントの対象になる可能性がある。また、たとえ幼児期の映像であっても、後にそれが原因でからかわれたりすることも考えられる。

自己像の歪み
 自分の行動が撮影され、不特定多数に閲覧されたり評価されたりする環境に置かれることで、子どもが自己に対する歪んだ認識をもってしまう可能性がある。それは自尊心の低下を招くとともに、自らの外見や行動に対する過剰な意識を引き起こすことにもつながるだろう。

デジタル・フットプリント(足跡)
 インターネット上に一度アップロードされたコンテンツは、永続的に残る可能性がある。大人になったときに、自らが望まないかたちで情報が残ってしまったり、再利用されたりする可能性がある。


 1982年に出版された『積木くずし』は、俳優の穂積隆信氏による実話である。副題に「親と子の二百日戦争」とあるように、非行に走った実娘・由香里との200日間にわたる葛藤を描いた作品だ。

『積木くずし』は日本国内で300万部を超える大ベストセラーとなり、映画化やテレビドラマ化もされた。

 だが、200日間の葛藤の末に立ち直ったはずの娘・由香里は、『積木くずし』の出版後も再三にわたって補導された。夫婦の仲も悪化し、穂積氏は妻と離婚をすることになる。

 その後も由香里の大麻所持による逮捕、離婚した妻の自殺と負の連鎖は続き、2003年には由香里が35歳の若さで急死をする。

 穂積家が、まさに積み木が崩れるかのように崩壊してしまった原因は、出版や映像化によって家族のプライバシーが赤裸々に公開されてしまったことと無縁ではないだろう。


 昭和から平成にかけて著名な俳優の一家を襲った悲劇。令和の今、こうした悲劇はもっと身近なところで、いつ起きても不思議ではないように思う。

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