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『決戦・日本シリーズ』

 今年のプロ野球・日本シリーズは、ともに関西を本拠地とする阪神タイガースとオリックス・バファローズの対戦となった。
 この状況で思い出すのは、私が高校生のころに読んだ『決戦・日本シリーズ』という小説のことである。


 SF作家・かんべむさしが1974年に発表したこの短編小説は、セ・リーグの「阪神タイガース」とパ・リーグの「阪急ブレーブス(当時)」がともに開幕からペナント・レートを独走し、日本シリーズで対戦することが確実になっている、というところから始まる。

 ちなみに、タイガースは阪神電鉄、ブレーブスは阪急電鉄と、どちらも関西の鉄道会社がオーナー企業だ。そこに目をつけた地元のスポーツ新聞社が、「日本シリーズで両球団が戦い、勝った方の会社の電車が負けた方の会社の路線を凱旋走行する」という企画を提案すると、両球団もそれに合意するのだった。

 この対決は、両チームの関係者、ファン、マスコミ、沿線都市の住民、政財界などを巻き込んで関西圏を二分する大騒動となり、日本シリーズに向けてのムードは高まっていく。

 そして、それぞれのホームグラウンドである阪神甲子園球場と阪急西宮球場を結ぶ路線である今津線にちなみ、「今津線シリーズ」とも呼ばれるようになるのだ。

 ・・・いよいよ始まった日本シリーズは史上空前の大激戦となり、3勝3敗1分で第8戦に持ち込まれる。そして、タイガースのリードで迎えた9回裏、ブレーブスが一打逆転サヨナラのチャンスを迎える。

 その結末には「タイガースの優勝」「ブレーブスの優勝」の両パターンが用意され、それぞれの優勝後の顛末が描かれるという「パラレル・ワールドもの」になっている。


 その後、「阪急ブレーブス」は「オリックス・ブレーブス(後に、ブルーウエーブに改称)」となり、「大阪近鉄バファローズ」を吸収合併して現在の「オリックス・バファローズ」となっている。

 もともと『決戦・日本シリーズ』は荒唐無稽なストーリーだった。それに、オリックスは鉄道会社ではない。もはや凱旋走行という発想自体が出てこないだろう。
 これは、あくまでも小説の世界のことであって、現実になることはないのだ。

 ・・・もっとも、実際の野球界では、
「日本人がメジャー・リーガーになり、投打の二刀流で大活躍してMVPを獲得する」
 という小説の世界のようなことが現実になってはいるのだが。

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