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「答え方」の作法

 先日の教職大学院の授業では、共通文献に『問いかけの作法』(安斎勇樹著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)を使って、読み合わせと討議を行った。

 本書では、「問いかけ」とは「仕事などのさまざまなコミュニケーション場面において、相手に質問を投げかけ、反応を促進すること」と定義されている。
 そして、よい問いかけは「見立てる」「組み立てる」「投げかける」という3つの行為のサイクルと4つの定石によって成立するとしている。

AmazonのWebページより

【問いかけの基本定石】
① 相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
② 適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
③ 遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
④ 凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す

 これらの作法と定石に基づく「問いかけ」の具体例も豊富に掲載されている。たとえば、次のような例だ。

 悪い問いかけは、無闇に自由度が高く、とっかかりがない
(例)
「何かアイデアはありますか? なんでもよいので、遠慮なく提案してください」

 良い問いかけは、適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
(例)
「どんなユーザーをターゲットにしたいか、思い浮かぶ特徴はありますか?」
「これまでボツになった企画の中で『もったいない』と感じるものはありましたか?」

同書114ページから引用

 本書は、主にビジネスシーンでのチームづくりにおける「問いかけ」を想定して書かれている。しかし、学校教育のなかでも、たとえば職員同士での話し合いや授業研究の討議の場面などで使えるだろう。また、授業中の発問や生徒指導など、子どもを相手にする場面で応用することもできるはずだ。


 このように、「問いかけ」には一定の作法(コツ)があることは間違いないだろう。その一方で、「問いかけ」には相手が存在することを考えれば、その「答え方」についてもある種の作法(コツ)があるのではないか、と思える。

 数年前、私が校長を務めていた小学校に、陸上競技の短距離走でパラリンピックに出場したAさんを招き、高学年の児童に向けて講演をしてもらったことがある。幼少期からパラリンピック出場に至るまでの半生を映像とともに語っていただいただけでなく、会場である体育館の中で代表の児童と競走をしてもらう企画などもあって、講演は大いに盛り上がった。

 会の最後に「質問タイム」を設けたところ、真っ先に手を挙げて指名されたのは5年生男子のB君だった。しかし、彼はこの会の趣旨をよく理解していなかったのか、それとも指名されて頭の中が真っ白になってしまったのか定かではないが、その質問はピント外れなものだったのだ。
「Aさんの好きな恐竜は何ですか?」
 そう、B君は恐竜が大好きだったのだ。廊下ですれ違ったときに、彼が恐竜の図鑑を手にしていたのを見たこともある。
 体育館の中には失笑が漏れた。だが、それに対してAさんは、
「私は恐竜のことをよく知らないので、ティラノザウルスぐらいしか思い浮かびませんね。B君こそ、どんな恐竜が好きなんですか?」
 と、逆に水を向けたのだ。
 B君が「トリケラトプスです」と答えると、今度は、
「B君の担任の先生はいらっしゃいますか? ふだん、彼はどんなお子さんなんでしょうか?」
 と尋ねた。
 担任が、
「休み時間には、いつも恐竜の本を読んでいます。テストの問題を早く解き終わった後には、テスト用紙の裏に恐竜の絵を描いています」
 と答えると、体育館の中は温かな笑いで包まれる。
 そんな中、Aさんは一呼吸置いてこう続けた。
「B君は本当に恐竜が好きなんですね。私は小学生の頃から走ることが好きだったので、休み時間にはいつも走り回っていました。テストが終わった後も、どうしたら速く走れるのかをずっと考えていました。走るのが好きだったから練習も苦にならず、運よくパラリンピックに出場することもできたんだと思います。皆さんも、B君や子どもの頃の私と同じように、好きなことと出会えるといいですね」

 B君に恥をかかせることなく、しかも全体のまとめにもなっていたこの「答え方」は、見事だったと言うしかない。


「問いかけ」は、「問う」者と「答える」者による共同作業だとも言える。「問いかけ」に作法があるのならば、やはり「答え方」にもAさんが見せてくれたような作法があるのに違いない。
 もちろん、「問いかけ」についてよく理解をすることが、よい「答え方」を導き出す近道であることは言うまでもないだろう。

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