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Vision ProがAppleにもたらす危機

久しぶりに書いてみることにします。MOSAマガジンの一部として書いていたので、同マガジンの更新が終わったことで放置状態にしていましたが……もう少し小さいテーマも書いてみようかというところで。

さて、2月発売といわれつつ、実際には米国で1月中に発売されそうなVision Pro。Appleがはじめて製品化したMR(VR+AR)ヘッドセットです。Appleとしてはヘッドセットと呼ばないでほしいところに、過去の他社の失敗製品と同類として区分してほしくない意図が透けて見えます。でも、これは紛うことなきヘッドセットなんですけれども。

お値段50万円

噂話の段階では、「10万円以内でないと普及しないだろう」「他社の製品のOEMになるのでは?」などと考えていましたが、OLEDやバッテリーなどを除くと主要部品は自社で作っているようです。

これが売れるか売れないか、ということについては事前予想はできません。ただし、各国のAppleに対して「売れ」という圧力がかかっていることは容易に想像できます。社内的には、危機感を抱いているようです。

個人的には、全スルーです。「Timの自分探しプロダクト第二弾」としてはよくできていると思います。Apple Watchのときには類似製品から市場を奪うことができましたが、Vison Proは「すでにある程度たがやされている他社製品の市場を一気に奪取する」というAppleのお決まりのパターンをなぞれない製品です。

9,800円だったら買ってもいいかもしれません。買ってもほとんど使わないと思いますけれども。だいたい、買っても他人に自慢できないApple製品なんて、ミーハーな一部消費者でも手を出さないでしょう。自動車が存在する市場に「馬車」を出して驚かされたApple Watchですら、身につけて自慢するという「自慢アイテム市場」にフィットすることができました。電車の中でVision Proを装着して何がしかの映像コンテンツを見ている人がいたら、思わず避けてしまいたくなることでしょう。

Vison Proを売るためには、魅力的なソフトウェアがないとダメです。そうした意味で、Apple自身がVision OSに魅力の片鱗を感じられるような標準搭載アプリケーションであるとか、Apple純正ソフトウェアを供給することが求められるでしょう。

そのうえで、サードパーティにアプリケーションを作ってほしいという話になるこでしょう。実際に、Vision Proのアプリケーションについては既存のウインドウとかダイアログなどとは異なった構造のアプリケーションを作る必要があるようで、ちょっとした慣れが必要なようです。

これら、Vision OS用のアプリケーションがどの程度の価格帯で流通するのか見当もつきませんが、120円のアプリケーションを出す気にはなれないでしょうし、ほとんどのものはマルチプラットフォーム(iOS+iPadOS+Vision OS)向けに提供されるのではないでしょうか。ここにmacOSを含めようか悩みましたが、別物すぎるので別枠にしたほうがよさそうです。

このVision OSのサポートのために、Apple自身にも負荷がかかります。負荷は、一番弱そうな場所に一番効いてくるものなので、Appleのウィークポイントがどこなのか、という話になります。

正直なところ、Appleの目下の最大のウィークポイントがどこかといえば、ソフトウェアの品質管理です。iOSでも、アップデートすると信じられないようなバグが発生して驚かされますし、macOSでも「おいおい、君たち正気か?」という毒入りアップデートが見られます。もうβ段階でチェックしても、Release後の機能追加だか改変で機能不全を起こす機能が散見されて、「もうβテストの意味ないでしょ」というのが開発者同士で集まったときに行われるご挨拶。macOS 10.15のときには「これは、毒入りじゃなくて毒そのものだね」といった挨拶がされていたので、いくぶん薄まってはいるのですが、毒は毒です。

Apple自身、品質管理を行なっている箇所と、どうも手薄な箇所というのがあるようで、毎度毎度悲鳴めいたものを感じるのは、Apple純正の統合開発環境「Xcode」です。

正直、App Storeで審査される側としては「自社のソフトウェアの審査はしてないんですか?」「このクオリティだと、リジェクトされますよね? ね?!」と言いたくなる出来のものが多いので、Xcodeについてもいろいろ言いたいことはあるのですが、新たにVision OSの開発をサポートするようになったわけで、Xcodeの開発チームに対する負荷が増大しているところに「危機」を感じます。

定量的に「どのぐらい危機」と表現することは困難ですが、うっすらと危機感がただよってくるぐらいの危機といえばよいのでしょうか。信号でいえば、黄色ぐらいのイメージでしょうか。


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