2020/10/26 LAMP IN TERREN ワンマンツアー『Progress Report』@渋谷Star lounge
毎月の待ち合わせ場所だったあのライブハウスは、この日も変わらず真っ赤に輝いていた。
2/26の『SEARCH#022』以来、実に8ヶ月ぶりの渋谷Star loungeだ。
開演前の場内アナウンスで、健仁さんが今回のツアーにおける注意事項を一つ一つ説明していく。このご時世なので、やはり今まで通りというわけにはいかない。
こういうのも今だからこそ生まれたものかなと思うと、「今の状況も悪くない」とまでは言えないけど、この状況さえも素敵な特別に変えてくれるテレンがとても好きだなと思う。
会場内のBGMが洋楽からクラシックに変わっていく。ショパンのノクターン。それは今年の1月に行われたワンマンライブ『Bloom』の開演前を彷彿とさせた。ロックバンドのライブではなく、何かもっと静かで厳かな芸術作品を観に来たようなあの日の感覚とよく似ていた。
大さんが静かに現れて、キーボードの前に座る。ノクターンの最後の和音と、キーボードで奏でた同じ和音を重ねて。
ラジオだったか雑誌のインタビューだったか忘れてしまったけれど、「昔の自分だったら"Fragile"みたいな曲をアルバムの1曲目に置いていたと思う」と大さんは話していた。だから「ツアーの1曲目が"Fragile"って割とあるんじゃないか?」と密かに思っていたのだけれど、それが本当に的中するとは。
1サビの途中から全員のコーラスが重なって、シンプルで静かだった曲に厚みと温もりが加わる。どんな楽器を重ねるよりも、人の声で奏でるハーモニーがやっぱり私は一番好きだな。
この曲、大喜さんのドラムが素晴らしかった。あの形容し難い絶妙なニュアンスを、音で表現できる技術力が凄まじい。
この曲をツアーで聴くのを、私は一番楽しみにしてい気がする。"宇宙船六畳間号"は会えない間に書かれたお手紙みたいな曲だから、『Progress Report』というツアータイトルにぴったりだと思っていた。
この曲の大喜さんのドラムもとっても好き。ドラムが入って曲が締まる感じが良い。「ライブレポ書く時、頭2曲は絶対ドラムに言及しよう!」って脳内に刻みつけておいたんだ。
この曲のベースもすごく好きだから、ベースが入ってきたら運指に釘付けになってしまった。アウトロのフレーズが楽しくて、ずっと聴いていたくなる。健仁さん、この曲の間ずっとニコニコしていた。
ツアーが発表された少し後くらいのツイキャスだったかな。大さんが「"heartbeat"は今度のツアーのテーマに合ってるからセトリに入れる予定」みたいなことを話していた。だからツアーで聴いてみたらその真意がわかるかもしれないと思って気になっていた。
心は今 溢れ返るほどの想いを携えて
眩しいままのその心へ 鼓動を放つよ
君を目指して
僕らはお互いの心は覗けないから
伝え合う 分かち合う 信じ合う 鼓動を
届けたい相手目掛けて歌う感じとか、相手の一部を掬い取って分かり合おうとする感じとか、"宇宙船六畳間号"の歌詞と少し重なるかもしれない、と個人的に感じた。この2曲を並べたのは結構納得できる気がする。
健仁さんの2サビ前の観客を煽る仕草と、大サビで胸をギューってしてたのがかっこよかったです。(小学生の作文のような感想)
大「今回は反応がないツアーになると思ってたから、じっと聴いてもらう感じでセトリとか考えてきたんだけど、みんなもライブをすごく待ってたんだろうね。思ってたより結構返してくれるってことがわかった(初日千葉より)。だから自由に手拍子したり手挙げたりしてください。声は出したら怒られるかもしれないけど。俺は怒らないけど。「よくやった!」って言っちゃうかもw」
真「でも要は飛沫を飛ばさなければ良いってことだから、口閉じて「ンー!」って言えばいいんじゃない?」
大「じゃあ1回やってみる?ンーー!!!✊」
客\\ンーーーー!!!!//(くぐもった声)
大「wwもしかしたら後で求めるかもしれないw」
大「皆さんいかがお過ごしでしたか?俺自身は配信とかで近況を発信したりしてたけど、みんながどうやって過ごしてたのかは全然知らないわけ。TwitterかインスタかDMでしか君たちのことを知らない。この期間に俺たちも皆さんもいろいろ変わっていったと思う。だから何回でも初めましてをしよう」
MCの流れで次の曲が"Enchanté"だとわかった。公開されてから結構経つのに、生で聴くのはこの日が初めてだ。リバサミでこの曲を聴ける人が羨ましくて、寂しかったあの期間を思い出した。鬱々としながら過ごしていた時に、『SEARCH ONLINE』の開催を発表して、私の心を救ってくれたのもまたテレンだった。
この曲の時に健仁さんがめちゃめちゃいい笑顔してて、なんだかすごく幸せな気持ちで胸が詰まって、涙が出そうになった。大好きな人たちが楽しそうだと嬉しい。ベース難しい曲だとやっぱり笑っちゃうのかな?と思っていたけど、実はこの時、健仁さんを笑顔にするとある出来事が起きていた。(その話は後ほど)
青空がふと翳って、閃光が走った。空と空で繋がるセットリスト。"Beautiful"の照明がバチバチと明滅する演出、『SEARCH ONLINE 2』でも観たやつだ〜!と思った。雷が光る空のようでとても好き。
ライブで"Beautiful"を聴く時はいつも、完全にこの曲の世界に引き込まれる。雷に打たれたように膝から崩れ落ちる大さんは、本当に曲そのものみたいな姿をしているから。
「アルバムリリースツアーなら"風と船"やるだろうから、風船繋がりで"balloon"やればいいのにな」って、"balloon"のベースの耳コピで詰まっている私はぼんやり思っていたのだけれど、まさか本当に持ってきてくれるなんて!マスクの下でずっとベースのフレーズを口パクしてたし、終始ベースから目が離せなかった。それで目コピができたかというと……まあそう上手くはいかないわけなんですけれども。
この曲は本当に健仁さんしか観てなかったので、情報量めちゃめちゃ少ないんですよね……すみません……ツアー最終日のLIQUIDROOMでも聴けるのであれば、その時はもうちょっと視野を広く持ちたいですね。がんばります。
それから"balloon"の後に"風と船"を並べてくれたのも嬉しかった。大さんの中で"風船"というモチーフは何か象徴的なものなのかなと思っているので、「LAMP IN TERRENの楽曲における風船表象」というテーマでちゃんと比較して、考察を深めたいなあと思っています。いずれ。(国文学科生だった頃の血が騒ぐ)
私が『FRAGILE』のディスクレビューを書いてからツアーに臨んでよかったなあと思うのは、言葉の一つ一つが頭の中にスッと入り込んできてくれるから。アルバムのリリースツアーの序盤って、メロディや歌詞は覚えていても、それがどういう曲なのかという点について、自分の中で理解を深められていない場合が多かった。自分の解釈と照らし合わせながら新しい曲たちを聴けたのはすごく面白かったな。
"BABY STEP"が始まると、ライブの空気が引き締まる感じがする。メンバーの表情もグッと真剣なモードに入る。
この曲は、LAMP IN TERRENというバンドを象徴する楽曲になったと思っている。所謂バンドの代表曲の一つとしてもそうだし、バンドの軌跡や道標を示してくれているような曲だとも思う。メンバーの一人一人から、それぞれの心で同じように大切にされている曲なのかなあって。
大サビの歌声だけになるところで、大さんが唐突に「ソーシャルディスタンス✋」と言ったので笑ってしまった。感染対策のために、いつもよりステージと最前列が遠かったんですよね。
"ねぇ もっと 単純でいいよ"で力強く頷く健仁さんを待ち構えてしまうのは、完全に爽さんの影響です。
大「今日はみんなの声が聞けなくて正直寂しい。マスクで顔も見えないし、楽しんでもらえてるか不安。俺は今日君たちの拍手でしか気持ちを知ることができないのよ!(拍手を煽る)」
👏👏👏👏👏
大「はいメンバー喋っていいよ(丸投げ)」
健「喋りづらいな……w」
(真ちゃんと健仁さんの喋り始めが被りそうになる)
健「みんな開演前のやつ(※健仁さんによる感染予防に関する諸注意のアナウンス)聞いた?徐に俺が話し始めたけど、本当に風邪とかひかないように気をつけてね。今は風邪ひくだけでもやばいと思われちゃうから、手洗いうがいちゃんとして、ちゃんとご飯食べてね」
真「(大さんの発言を受けて)俺は意外と目元だけでも表情わかるんだなと思った。目って結構情報量多いよね」
大「今日こいつ(健仁さん)に俺の服取られたのよ。「いいじゃんそれ。俺似合うでしょ」つって」
健「大の服は予約制になったから。俺これ予約する。いつか貰うわ」
大「もう曲いっていい?」
健「あ、ちょっといい?✋"Enchanté"のサビで1人だけめっちゃ手挙げてくれてる子がいたんだけど、俺めちゃくちゃ嬉しくて!そういうのでいいと思うんだよ。他の人がやってなくても「俺はこうやりたい!」って、自由に楽しんでくれていいと思う。ありがとね」
大「(その人の方を見て)メンズ?」
健「メンズ」
大「アイビーのノブ(※Ivy to fraudulent gameの寺口宣明さん)に見えたw」
健「俺も見えたw」
喜「正直俺も見えたw」
大「男子増えたね〜(嬉しそう)」
「"Enchanté"の時に健仁さんがめっちゃ楽しそうだったのはそういうことか!」と合点がいった。曲を始めそうになる流れを遮ってまで言いたかったんだから、よっぽど嬉しかったんだろうなあ。全身全霊で私たちに嬉しい気持ちを伝えてくれる健仁さんは、とても素直で素敵な人だと思います。健仁さんを笑顔にしてくれた寺口さん似の彼に、最大級の賛辞を。
「身体が揺れるくらいが丁度いいんじゃない?」と始まった、バンドアレンジver.の"おまじない"。『SEARCH ONLINE 3』でお蔵入りにならなくて本当によかった。この曲をバンドアレンジしてくれた真ちゃんに感謝。この曲も大切な誰かを想う歌だから、コンセプト的にこのツアーにすごく合うと思うんだよね。
曲中に大さんが突然「今日オシャレしてきた人ー!✋」と問いかけてきたので、しとみさんからの目配せにも後押しされて自信満々でピッ🙋♀️✨と手を挙げるも気づかれず、「いねーのかよ!」と言わせてしまった。ぐぬぬ……「オシャレしてきた人、ここにいるよー!」って叫びたい気持ちだった。私はオシャレして会いに行ったんだよ。久しぶりに会えるのが嬉しくて、心から望む姿で大好きな君たちに会いに行ったんだよ。
真ちゃんがアコースティックギターに持ち替えて"チョコレート"へ。ツアーで真ちゃんのアコギが聴けるんじゃないかって楽しみにしてたから、袖からアコギ出てきた時嬉しかったな。優しい音色がとても好き。
今これを書くためにセトリ順にプレイリストを組んで聴いているけれど、"おまじない"からの繋がり方に全く違和感がなくて、同じアルバムの中にあっても遜色ないくらい。ライブで聴いた時も「この流れいいな」って思ったけど、後から並べて聴いてもライブの時の感覚が蘇ってくる。
"チョコレート“の次はアルバムと同じように"ベランダ"へと繋がる。聴き慣れた曲順がすごくしっくりくる。この辺りのゆったりした優しい曲たちの流れがとてもお気に入りで、たまに目を閉じて身体を揺らしながら聴くのが心地良かった。
2番の頭で歌詞を飛ばした大さんがキュートでした。歌詞飛ばすとテヘペロって顔するから「可愛いな……」と思っちゃう。
星空が見えそうな真ちゃんのギターソロがとても綺麗だった。夜空の穏やかさも、星々の瞬きも、どちらも一緒に音で描くことができるんだからすごいよなあ。
大さんと真ちゃんが2人でお喋りするみたいにギターを爪弾く。ここもアルバムと同じ流れかなと思っていたら、大さんが話し始めた。
「音楽に何ができるのか考えた。マジ無力だなって思う。友達が死んだりするしね。もしかしたら自分たちのことを好きな人が、知らないうちにいなくなってるかもしれない。マジ無力だなって思う」
「(生きるの)もういいかなって思う日もあると思う」
「死ぬなよ。自分勝手なこと言ってるってわかってるけど」
「自分たちの音楽に本当に力があるのか、最後の最後でいつも信じ切れない。でも今この瞬間、みんなの前で歌っている時だけは、心から信じて胸を張っていたい」
「死ぬなよ」っていうのは、自分から死を選ぶことだけに対する言葉じゃなくて、病気とか事故とか、抗いようのない何かに遭遇しないように、遭遇してしまったとしても、何があっても生きていてほしいっていう願いを込めた言葉だったと思う。生きて、また再会できるように。
"いつものこと"はとても穏やかで、とても重たい歌だと思う。
何故 自分で命を捨てちゃいけないって皆言うんだろう
黙っていても奪われるだけなのにって僕は思うよ
ここだけ拾うと、「死ぬなよ」っていう大さんの言葉とは相反しているような気がするけれど、歌詞はこう続いている。
だからどうって訳じゃない そう思っていたいだけだよ
それだけでさ 歩けるんだよ 僕はそうなの
これは、苦しくて虚しい日々の中で「消えてしまいたくなることの何がいけないの?」と思いながら、それでも生きる方を選ぼうとする歌だ。灰色だったとしても、それが美しいんだと心から信じて。
"ワーカホリック"で描かれているような世界が、ある人にとってはいつもの日常だったりする。シビアで現実的すぎるこの歌は、このメロディーでなければもしかしたら聴くに耐えなかったかもしれないとすら思う。この歌詞に重たいメロディーが乗っかったら、多分かなりしんどい。だから、大喜さんが叩く軽やかなドラムの音や、揺れながらベースを弾く健仁さんに合わせて思わず身体が動いてしまうのは、音楽の魔法だと思うんだ。
"ホワイトライクミー"のイントロが聞こえると、テンションの昂りがどうしても抑えられない。歓声を上げて、小躍りして喜びたいくらい好きな曲なので。時世ゆえに堪えましたが。
「目の前にいる君と手を繋げますように」と歌いながら、一人一人を指差して手を伸ばしたり、「君が好き」と歌詞を変えたり、目の前の一人一人をちゃんと見て歌ってくれていることを強く感じられる曲。私も目が合っていたような気がする。実際に目と目が合っていたわけではなくても、心と心が正面から向かい合っていたような、そんな感じ。
サビ前に健仁さんの指差しがくるかなって期待していたんだけど、前にいたおにいさんの頭に被ってしまって結局見えませんでした。残念。
今回のツアーに"New Clothes"が入るのは少し意外で不意をつかれた。この曲で拳を掲げられる日を、ずっと待ち望んでいた。
私は間奏が長い曲をライブで聴くのがとても好きだ。ステージ上がメンバーだけの世界になって、それを外から観ているみたいなあの時間が大好きだ。
ギターソロパートでは真ちゃんも健仁さんも前に出てきてくれるので、毎回目が足りなくなって困る(楽しい)。
"涙星群の夜"が始まったら、いつもの制約のないライブと何も変わらないような気がした。たった一つ、声を出せないことを除いては。その足枷が酷く重かった。
「心の中で歌って!」とマイクを向けられて、声を出さないように心の中で思い切り叫んだけれど、こんなんじゃ何も伝わらないなって思えてひどく寂しかった。「声がなくてもちゃんと伝わってるよ」という言葉が嘘だとは思わないけど、私はもう声で伝えられる喜びを知ってしまっているから、やっぱりこんな世界はくそくらえだ!って思うよ。早く自由になりたい。
大さんが「最後の曲ハミングの練習する?」と言ったので、まだ『FRAGILE』から披露されていないあの曲がすぐに思い浮かんだ。
大「ンン〜ン〜♪ンンンンンンンン〜♪(飛沫飛ばさないハミング)高いから無理だな。やめとくか」
本編ラストのMC。ステージから身を乗り出して、マイクを通さず叫ぶように、大さんは話し始めた。そこに居る一人一人の目を見つめながら。
「今のこの状況がいつまで続くかわからない。ライブが今まで通りできるようになるのは再来年だろうって言われているらしい。でも再来年もできてんのか?って思う」
「音楽業界が今のまま落ち込んでいったら、俺らも食いっぱぐれて音楽続けられなくなる日が来るかもしれない。もしかしたらツアー回ってる途中に俺たちがブーーン💨ガッシャーーン💥みたいになって死ぬかもわからん。俺が部屋で1人でいる時に死のうと思わないとも限らない。死なないけどね。でも明日どうなるかわからない」
「衣食住のどれでもないけど、君たちが明日お金が無くなったとしても、俺たちの音楽だけは必要って思ってもらえるようなものを作りたい。テレンの曲全然響いてこないわ〜ってなったら、その時は仕方ないかもしれないけど」
「普通だと思っていたことがそうじゃなくなって、普通じゃないと思っていたことが今普通になってる。でもこの世界はずっと異常だった」
「学生の時に、クラスにいじめられてるヤツがいた。俺は学校行ってなかったから、そいつがどういう風にいじめられてたのかとかは知らないけど、俺はそいつと仲が良かったわけ。ずっと異常だなって思ってた。俺も一瞬いじめられてたことあるしね」
「自分を認められない人もいると思う。自分なんか何の価値もないって思っても、今日君たちがここに来てくれたことは俺にとってものすごく価値がある。それだけで俺は生きていける」
「大丈夫。汚れていくことこそ美しいんだから」
「大丈夫」
言い聞かせるように、頷きながらもう一度そう言って。本編ラストの曲、"EYE"。大さんは天井を仰ぎ、身体を震わせ、叫ぶように歌っていた。
「汚れていくことこそ美しい」
大さんが歌うのを見つめながら、私はこの言葉を何度も反芻していた。先日、『FRAGILE』に対する個人的な想いを綴った記事をアップしたが、その中で私は"EYE"について次のように述べている。
「美しかった子供時代に戻ろうとするのではなく、汚れていくことを認め、受け容れることで美しさを取り戻す」
自分の受け取り方があっているか不安で、「(と私は解釈した)」なんて付けて予防線を張った。
「ああ、間違っていなかったんだ」と心底ホッとして、少しだけ泣いてしまった。曲の受け取り方なんて人の数だけあるし、そこに正しさを見出すのは野暮だなんて分かってはいるけど、あの記事は本人の目に触れてしまっているからちょっと不安だった。「意図したものが伝わっていない」と、がっかりさせていたらどうしようって。
そして私は気がついた。私が『FRAGILE』について記したあの記事は、気持ちと想像で彼の、彼らの形に触れようとして生まれたものだったのだ。"届いた心がどうなのか"を伝えようとするなら、もう知らない事に怯えてなんかいられないや。
音源、MV、ライブと、"EYE"は聴く度に印象が変わる曲だと思う。この日のライブでは、歌も演奏も「伝えたい」という熱が滾っていた。
声を出すことすら制限されるこんな世の中で、この曲はきっとみんなで合唱する景色を想像しながら生み落とされた。今はまだ一緒に歌うことはできないけれど、必ず来るその日までどうか待っていてね。
「また必ずお会いしましょう」と言い残して、メンバーがステージを後にする。会場にBGMが戻っても、アンコールを求める拍手は鳴り止まなかった。
しばらくして大さんがステージに戻ってきた。「かえれー」と手で追い払うような仕草とは裏腹に、その顔はとても嬉しそうだった。「今のうちにみんなの顔見とこ」と、会場の後ろの方まで目をやって、満足げな表情を見せた。
真ちゃんが出てこようとしたけどまたすぐに引っ込んで、袖から顔だけを出してステージを覗いていた。その気配を察知したのか、大さんが「メンバーも入ってきていいよ」と呼び込み、再びステージに4人が揃った。
大さんから「お知らせが2つある」と、まずは発売されたばかりの『FRAGILE』について。
「このアルバム聴いて、もっとロックな曲も聴きたいと思った人正直に手あげて✋」
この質問、手挙げるかどうかめちゃめちゃ躊躇した。ロックな曲もそりゃあ楽しみに決まっているんだけど、さっと手を挙げたら『FRAGILE』を否定することになるような気がしてしまって。私は『FRAGILE』がすごく好きなアルバムになったから、「困らせないでくれ〜!」と思っていました。
「今手挙げた君たちのために、次回はゴリゴリのやつ作るわ。手挙げなかった人もぶち抜くもの作る」
2つ目のお知らせは、『燈會街』について。
「ネット上にテーマパークを作りました。オンラインで街作りをしたら面白いんじゃないかなと思って。みんなディ◯ニーランド入る時はお金払うでしょ。それと同じ感覚でお金を払ってもらえたら」
「俺たち自分から発信できないのよ。例えば真ちゃんが料理の紹介とかしたくても、自分からは言わないってわかるでしょ?仕事として強制されて初めてできることなの」
(真「( ¯•ω•¯ )(何か言いたげな顔)」)
「今後チケットのファンクラブ先行とかはあるとは思うけど、ファンを区別するつもりは全くないです」
「飛び跳ねる曲やろうと思ったけど、あれやるとみんな歌いたくなっちゃうから。千葉ではやったんだけど今後は封印する」
(お客さんから\ええ〜〜😫/の空気)
「だって見てて可哀想になるんだもんw」
「本当はこういうツアーにしたかったっていう2曲やってもいい?」
この日のアンコール1曲目は"Is Everything All Right"。この話はもう何度もしているけど、自粛前最後に行ったライブハウスで聴いたこの曲が本当に良くて。外出制限がいよいよ本格的になり始めた頃だったから、そういう情勢に対して一発かましてやれた気がしてスカッとしたんだ。その時は勝つつもりだったから。ライブハウスが悪とされる世間の空気に。
でもだんだんそうも言っていられなくなって、当時の威勢は鳴りを潜めていった。誰かを守ることについて、みんなが真剣に考えなければならなくなった。だから久しぶりに「とりあえず今日が楽しければいいか」って言ってもらえて、ちょっと嬉しかったなあ。
健仁さんが前に出てきて、アンコール2曲目"凡人ダグ"。『FRAGILE』リリースツアーにはちょっとそぐわない、最高に頭おかしくなれる曲。この日のダグさんは健仁さんが大勝利でした。異論は認めません。私が上手側で健仁さんばっかり観てたからとかそういうのは置いといてください。
健仁さんが「更に!!!」って叫んだのに撃ち抜かれて、思わず胸を押さえて呻いてしまった。対して「どこに」は深く響く低音で、フロアを伝った振動が足の裏から全身を駆け巡った。この人、最後に爆弾投下していきやがった……と思いました。私が瀕死だったので、これが最後の曲で本当によかったです。
「また必ずお会いしましょう」ともう一度言って、今度こそ本当にステージを去る。
大さんはフロアに向かって「愛してるぞ!」と叫び、最後の最後まで手を振っていた。
これまでのライブで、私は特に演出やメンバーの仕草・表情に注目していたけれど、今回はそれらに加えて、歌詞の意味や曲順の意図について考えを巡らせる時間が多かった気がする。それは多分、自分の中に曲をきちんと落とし込めていたからだと思う。
歌詞って、あえてはっきり言わないところが美しかったり、そこに解釈の余地が生まれたりするのが良かったりするとは思うのだけれど、私はやっぱり作り手の真意が気になる。そしてライブは、その答え合わせができる機会の一つだと思っている。大さんが曲に込めた想いをMCで話して、そこで初めて知らなかった心を知って、曲の聴こえ方が変わったり、本人の言葉が自分の解釈の裏付けになったりする。そういう意味でも、ライブというのは私にとって大切な場所だ。
今まではライブレポートってただの思い出語りみたいなものだと思っていたけれど、今はそうではないと思う。ライブを1本観ることは作品を1つ受け取るのと同じことで、私は受け取って感じたことを整理するためにライブレポートを書いている。その日彼らが何を伝えようとして、私が何を受け取ったのかを忘れないために。
1. Fragile
2. 宇宙船六畳間号
3. heartbeat
4. Enchanté
5. Beautiful
6. balloon
7. 風と船
8. BABY STEP
9. おまじない
10. チョコレート
11. ベランダ
12. いつものこと
13. ワーカホリック
14. ホワイトライクミー
15. New Clothes
16. 涙星群の夜
17. EYE
en1. Is Everything All Right
en2. 凡人ダグ